高血圧や糖尿病、慢性腎臓病(CKD)で通院されている方から、「睡眠時無呼吸症候群があると、これらの病気は悪くなるのですか」「CPAP治療を始めれば数値はよくなりますか」というご質問をいただくことがあります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)には、空気の通り道がふさがって起こる閉塞性(OSA)と、脳からの呼吸の指令が一時的に出なくなる中枢性(CSA)があります。生活習慣病との関係で中心になるのは閉塞性のほうで、このページでも、断りのない場合は閉塞性について説明します。
このページでは、高血圧・糖尿病・CKDの3つについて、どこまで関係がわかっているのか、CPAP治療で何が期待でき、何がまだはっきりしないのか、通院中の方が自分で気づくポイントは何かを順に整理します。睡眠時無呼吸症候群そのものの説明や、検査・治療の詳しい流れは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査・治療のページをご覧ください。
まず全体像:3つの病気でわかっていること
詳しい話に入る前に、現時点でわかっていることを1枚にまとめます。大切なのは、「関係がある」ということと「CPAP治療でよくなる」ということが、それぞれ別に確かめられる事柄だという点です。3つの病気で、わかっていることの確かさには差があります。
| 病気 | わかっている関連 | CPAP治療で期待できること | まだはっきりしないこと |
|---|---|---|---|
| 高血圧 | ほかの病気が原因で起こる高血圧(二次性高血圧)の主な原因の一つ。夜間から早朝の高血圧や、薬が効きにくい高血圧と結びつきやすい | 血圧が下がる。平均すると下がり幅は小さいが、薬が効きにくい高血圧ではより大きい。減量や降圧薬への上乗せが期待できる | どの方でどれだけ下がるかの予測。CPAPで高血圧の発症そのものを防げるかどうか |
| 糖尿病 | 2型糖尿病を発症する独立した危険因子となる可能性が高い。ただし肥満という共通の要因の影響を完全には切り離せない | 日中の眠気や睡眠の質の改善。血糖の指標については研究によって結果が分かれる | 血糖への効果の大きさ。CPAPで糖尿病の発症や合併症を防げるかどうか |
| CKD | CKDのある方には睡眠時無呼吸が多い。腎臓の働きが低下すると睡眠時無呼吸が悪くなる方向の関係もあり、双方向の関係とされる | 睡眠時無呼吸そのものの改善と、それに伴う夜間の血圧や日中の症状の改善 | 腎機能の低下を抑える効果。ランダム化比較試験では示されていない |
以下、1つずつ見ていきます。根拠とした主な資料は、ページの最後にまとめています。
睡眠時無呼吸と生活習慣病がつながる仕組み
共通の土台になる肥満
肥満は、閉塞性睡眠時無呼吸の重要な危険因子の一つです。首やのどのまわりに脂肪がつくと、眠っている間に空気の通り道が狭くなりやすくなります。一方で肥満は、高血圧・糖尿病・CKDの背景にもなります。睡眠時無呼吸と生活習慣病がよく一緒にみられる理由の一部は、両方に共通する土台があることで説明できます。
ただし、肥満がすべてではありません。日本人はあごの骨格の影響を受けやすいとされ、太っていない方に睡眠時無呼吸がみられることも珍しくありません。逆に、睡眠時無呼吸の側から血圧や代謝に影響する経路もあり、関係は一方通行ではありません。
眠っている間に体の中で起きていること
閉塞性睡眠時無呼吸では、空気の通り道が狭くなったりふさがったりするたびに、血液中の酸素が下がって戻るという変化がくり返されます。そのたびに体は緊張して交感神経が働き、眠りが途切れます。この、一晩中くり返される負担が、血圧や代謝、腎臓の血管に影響すると考えられています。
なお、脂質異常症との関係についても研究がありますが、睡眠時無呼吸が脂質の異常を引き起こす独立した要因であるかどうかは、現時点では根拠が十分ではないとされています。CPAP治療で脂質が改善するかどうかについても同様です。
「関連がある」と「治療でよくなる」は別の話
睡眠時無呼吸がある方に高血圧が多い、という事実は、多くの方を追跡して調べる研究(観察研究)でわかります。しかし、これだけでは「治療すれば血圧が下がる」ことの証明にはなりません。睡眠時無呼吸のある方には肥満の方が多いなど、ほかの条件も違うためです。
「治療でよくなるか」を確かめるには、治療する方としない方をくじ引きのように分けて比べる研究(ランダム化比較試験)が必要です。このページでは、この2つを分けて書いています。同じ「睡眠時無呼吸と高血圧」の話でも、関連の根拠は強いのに、治療効果の大きさは限られている、ということが起こります。
睡眠時無呼吸と高血圧
わかっている関連
閉塞性睡眠時無呼吸は、ほかの病気が原因で起こる高血圧(二次性高血圧)の主な原因の一つとされています。日本呼吸器学会ほかの診療ガイドラインでは、睡眠時無呼吸のある方の約50%に高血圧が、高血圧の方の約30%に睡眠時無呼吸がみられると報告されています。
特に注意が必要なのが、種類の異なる降圧薬を3剤以上使っても目標まで下がらない高血圧です。同じガイドラインでは、このような高血圧の方のおよそ7割に睡眠時無呼吸の合併がみられたと報告されています。また、睡眠時無呼吸があると、本来は夜間に下がるはずの血圧が下がりにくくなり、夜間から早朝にかけて高い状態が続きやすくなります。
CPAP治療で期待できること
CPAP治療によって血圧が下がることは、複数のランダム化比較試験をまとめた解析で確かめられています。ただし下がり幅は、29件の試験をまとめた解析によると、全体の平均で収縮期血圧が約2.6 mmHg、拡張期血圧が約2.0 mmHgと、大きなものではありません。
一方、薬が効きにくい高血圧の方に限った解析では、収縮期血圧で約6.7 mmHg、拡張期血圧で約5.9 mmHgと、より大きな下がり幅が報告されています。血圧のコントロールに苦労している方ほど、睡眠時無呼吸を調べる価値があるといえます。
CPAPは、できるだけ睡眠中を通して毎晩使用することが基本です。研究では、1晩4時間以上しっかり使用できた方で、血圧への効果がより期待できる可能性が示されています。
また、肥満のある方では、CPAPと減量を組み合わせたほうが、どちらか一方だけよりも血圧が下がったと報告されています。CPAPは降圧薬の代わりではなく、薬や減量に上乗せする治療と考えてください。
まだはっきりしないこと
どのような方でよく下がるのかを、あらかじめ正確に予測する方法はありません。下がり幅には個人差が大きく、ほとんど変わらない方もいます。
また、睡眠時無呼吸はあるが眠気の強くない方を対象に、CPAPで高血圧の発症そのものを防げるかを調べた試験では、全体としては差がみられませんでした。使用時間が長かった方に限った分析では差が示唆されていますが、これはくじ引きで分けた比較ではないため、解釈には注意が必要です。
睡眠時無呼吸を疑う血圧のパターン
- 種類の異なる降圧薬を3剤以上使っても、目標まで下がらない
- 朝の家庭血圧が高い
- ほかの医療機関で24時間の血圧測定を受け、夜間に血圧が下がっていないと言われた
- 体重が増えてから、血圧が下がりにくくなった
ご家庭で血圧を測っている方は、朝と晩の記録を診察にお持ちください。夜間や早朝の状態を考えるうえで参考になります。CKDと高血圧の関係については、慢性腎臓病(CKD)と高血圧もあわせてご覧ください。
睡眠時無呼吸と糖尿病
わかっている関連
診療ガイドラインでは、閉塞性睡眠時無呼吸は2型糖尿病を発症する独立した危険因子となる可能性が高い、とされています。将来にわたって追跡した複数の研究をまとめた解析でも、中等症以上の睡眠時無呼吸がある方では、ない方に比べて糖尿病の発症が多いと報告されています。
仕組みとしては、くり返す低酸素と睡眠の分断が、インスリンの効きにくさ(インスリン抵抗性)につながると考えられています。ただし、肥満という共通の要因の影響を完全に切り離すことは難しく、「可能性が高い」という表現にとどまっているのが現状です。
CPAP治療で期待できること
血糖のコントロールについては、研究によって結果が分かれています。診療ガイドラインは、CPAP治療で糖代謝の改善が得られることを示す根拠は不十分である、としています。複数のランダム化比較試験をまとめた解析でも、HbA1cに差がなかったとするものと、平均で0.24%下がったとするものがあり、結論は一致していません。CPAPは糖尿病治療の中心となる治療ではなく、食事・運動・薬による管理と並行して行うものです。
一方で、日中の眠気や睡眠の質、生活の質の改善は期待できます。眠気が改善して日中の活動量が保てるようになれば、体重や血糖の管理にも取り組みやすくなります。
まだはっきりしないこと
CPAP治療で糖尿病の発症を防げるか、網膜症や腎症といった合併症を減らせるかについては、まだ十分な答えが出ていません。薬の種類と選び方については、糖尿病の薬の選び方で説明しています。
睡眠時無呼吸と慢性腎臓病(CKD)
わかっている関連
CKDのある方には、睡眠時無呼吸が多くみられます。多くの研究をまとめた解析では、CKDの方のおよそ3分の1以上に閉塞性睡眠時無呼吸がみられたと報告されていますが、対象や検査方法によって数字の幅は大きく、一つの数字で示すことは難しいのが実情です。
関係は双方向です。腎臓の働きが低下すると体に水分がたまりやすくなり、横になったときに上半身やのどのまわりがむくんで、空気の通り道が狭くなります。また、進んだ腎不全では、脳からの呼吸の指令が乱れる中枢性の無呼吸がみられることもあります。一方で、睡眠時無呼吸による夜間の血圧上昇は、腎臓の血管に負担をかける方向に働くと考えられています。
CPAP治療で期待できること
ここは正直に書きます。CPAP治療が腎機能の低下を抑えるという効果は、現時点ではランダム化比較試験で示されていません。心臓や血管の病気をもつ方を対象にした試験のサブ解析では、CPAPを使った群と使わなかった群で、腎機能の低下の程度に差がありませんでした。糖尿病関連腎臓病の方を対象にした試験でも、52週間での尿中アルブミンの変化に全体としての差はなく、決められた基準を満たして使い続けられた方に限った分析でのみ、小さな減少がみられています。
期待できるのは、睡眠時無呼吸そのものの改善と、それに伴う夜間の血圧や日中の症状の改善です。血圧が下がることが結果として腎臓を守る可能性はありますが、CPAPによる降圧が腎機能の保護につながることは、まだ示されていません。
まだはっきりしないこと
腎臓を守る効果があるのか、あるとすればどのような方に期待できるのかは、今後の研究を待つ必要があります。現時点では、CKDの管理の基本(血圧の管理、尿蛋白を減らす薬、生活習慣の見直し)を続けながら、睡眠時無呼吸があれば、症状や血圧の面から治療を検討する、という位置づけになります。詳しくは、慢性腎臓病(CKD)のステージ、腎臓を守るために、今できることもご覧ください。
心臓・血管の病気との関係
閉塞性睡眠時無呼吸は、心房細動や心不全、脳卒中とも関連することが知られています。心不全のある方では、閉塞性だけでなく中枢性の無呼吸がみられることもあり、この場合は心不全そのものの治療が重要になります。
一方、すでに心臓や血管の病気がある方を対象に、CPAPで次の発作や脳卒中を防げるかを調べた複数の大規模なランダム化比較試験では、全体として明らかな減少は示されませんでした。これらの試験の個人データをまとめた解析でも、同じ結果でした。ただし、1晩4時間以上使用できていた方に限った分析では、心血管の出来事が少なかったと報告されています。この分析はくじ引きによる比較ではないため、「CPAPを使えば発作を防げる」と言い切ることはできません。
言い換えると、CPAP治療は睡眠中の呼吸の乱れを改善し、日中の眠気などの症状を軽くすることが基本です。血圧を下げる効果も確認されていますが、心血管イベントを防ぐ効果については、まだ結論が出ていません。
生活習慣病で通院中の方が睡眠時無呼吸に気づくポイント
ご家族から指摘されること
- 大きないびきが、ほぼ毎晩続く
- 眠っている間に呼吸が止まっていると言われた
- いびきが途切れて静かになり、あえぐように再開する
いびきは睡眠時無呼吸の原因ではなく、空気の通り道が狭くなっていることを知らせるサインです。いびきについては、いびきがうるさいのはなぜ?原因と病気のサインで詳しく説明しています。
朝と日中のサイン
- 息苦しさや窒息感で目が覚めることがある
- 起きたときに頭痛がある、口が渇いている
- ぐっすり眠れた感じがしない
- 夜中に何度もトイレに起きる
- 日中に強い眠気がある、会議中や運転中に眠くなる
眠気を自覚しない方も少なくありません。眠気がないからといって、睡眠時無呼吸を否定することはできません。朝のつらさについては、目覚めが悪い・寝起きがつらいときに考えられる原因もご覧ください。
血圧や持病からわかること
- 複数の降圧薬を使っても血圧が下がらない、朝の家庭血圧が高い
- 心房細動や心不全を指摘されている
- 体重が増えてから、いびきや日中の眠気が強くなった
当てはまるものがあれば、診察のときにお知らせください。検査が必要かどうかを一緒に考えます。
治療の考え方:生活習慣病の治療と並行して
CPAP治療
CPAP治療は、中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸に対する標準的な治療です。マスクから圧力をかけた空気を送り、眠っている間に空気の通り道がふさがらないように保ちます。
使っている間に効果を発揮する治療なので、できるだけ睡眠中を通して毎晩使用することが基本です。中断すると、睡眠時無呼吸は元に戻ります。健康保険で治療を受けられるかどうかは、検査で数えられた回数だけで決まるのではなく、症状や検査の結果をあわせて判断します。検査から治療までの流れは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査・治療のページで説明しています。
減量と生活習慣の見直し
肥満のある方では、減量によって睡眠時無呼吸が軽くなることが報告されています。寝る前の飲酒を控える、禁煙する、横向きで寝るといった工夫も、どの治療を選ぶ場合でも基本になります。これらは、高血圧・糖尿病・CKDの管理とそのまま重なります。
持病の薬を自己判断でやめない
CPAP治療を始めても、降圧薬や糖尿病の薬の代わりにはなりません。血圧や血糖の経過をみて薬を調整することはありますが、必ず主治医とご相談ください。自己判断での中止は、血圧や血糖の急な悪化につながります。
きたはらやまクリニックでできる検査・治療
当院では、まずご自宅でできる簡易検査を行い、CPAP治療の導入とその後の管理まで続けて担当します。精密検査が必要な場合は、提携する基幹病院に依頼します(1泊入院)。検査の流れや費用の目安は、当院の睡眠時無呼吸症候群の検査・治療と費用をご覧ください。
CPAP治療を始めたあとは、使用状況とあわせて、血圧・血糖・腎機能の経過も一緒に確認します。ご家庭で測った血圧の記録があれば、診察にお持ちください。動脈硬化の評価として、CAVI・ABI(血管の硬さと足の血流の検査)や頸動脈エコーも院内で行っています。食事について詳しく相談したい場合は、医師が必要と判断した場合に、保険診療で栄養指導を受けていただけます。
よくある質問
CPAP治療を始めたら、血圧の薬は減らせますか?
減らせる場合もありますが、CPAPは降圧薬の代わりではありません。CPAPによる血圧の下がり幅は、平均すると収縮期血圧で数mmHg程度で、降圧薬より小さいのが一般的です。薬が効きにくい高血圧の方では、より大きな効果が報告されていますが、それでも薬をやめてよいという意味ではありません。血圧の記録を見ながら、薬の調整が可能かどうかを診察で判断します。自己判断で中止しないでください。
太っていなくても睡眠時無呼吸になりますか?
なります。肥満は重要な危険因子の一つですが、唯一の原因ではありません。あごが小さい、あごが後ろに下がっているといった骨格の特徴、扁桃が大きい、鼻づまりがある、加齢なども関係します。日本人はあごの骨格の影響を受けやすいとされ、標準的な体格の方に睡眠時無呼吸がみられることも珍しくありません。体格を理由に検査を見送る必要はありません。
このページの根拠とした主な資料
- 日本呼吸器学会ほか「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」(高血圧・糖尿病・脂質異常症との関係、CPAPの降圧効果と使用時間)
- CPAP治療と心血管の出来事を検証した大規模なランダム化比較試験(SAVE、ISAACC、RICCADSA)と、その個人データを統合した解析
- CPAP治療と腎機能・尿中アルブミンを検証したランダム化比較試験
- 睡眠時無呼吸と糖尿病の発症、CPAP治療と血糖に関する複数のメタ解析、CKDにおける睡眠時無呼吸の有病率に関するメタ解析
医学的な内容は2026年9月時点の情報にもとづいています。診断や治療の方針は、お一人おひとりの状態によって異なります。
