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高血圧治療薬の基礎知識 ― あなたに合った薬を安心して続けるために

健診で「血圧が高め」と言われたことはありませんか?
日本では成人の約3人に1人が高血圧を抱えています。

しかし多くの方は症状がなく、「少し高いくらいなら大丈夫」と思いがちです。
けれども、高血圧は“サイレントキラー(静かな殺し屋)”と呼ばれるように、気づかないうちに血管を傷つけ、動脈硬化を進める病気です。

放置すれば、心臓病・脳卒中・腎臓病(CKD)など命に関わる合併症につながります。

本記事では、最新の日本高血圧学会「JSH2024」をもとに、
高血圧治療薬の目的・種類・副作用・セルフチェックまでをやさしく解説します。

第1章 高血圧治療薬の目的 ― “下げる”ではなく“守る”

血圧の薬の目的は、単に「数字を下げる」ことではありません。
血管や臓器(腎臓・心臓・脳)を守ることが本当の目的です。

高血圧が続くと血管が硬くなり、血流が悪化します。
その結果、腎臓はろ過能力を失い、心臓は強い圧に耐えきれず、脳の血管は破れたり詰まったりします。

薬はこの悪循環を断ち切り、臓器を守る防波堤のような存在です。

🔹臓器保護効果の例

臓器主な効果
腎臓糸球体の圧を下げ、蛋白尿や腎機能低下を防ぐ
心臓心肥大や心不全、狭心症の予防
脳梗塞・脳出血・認知機能低下の予防

薬は長く続けることで、こうした合併症を予防する“投資”になります。

第2章 主な薬の種類と特徴

高血圧の薬には複数のタイプがあり、作用する仕組みが異なります。
どの薬も血圧を下げる目的は同じですが、合併症や体質によって使い分けます。

🔹 ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)

  • 血管を広げ、腎臓や心臓を保護。
  • CKD・糖尿病・蛋白尿を伴う方に第一選択。
  • 副作用:カリウム上昇に注意。

🔹 ACE阻害薬

  • ARBと似た作用を持ち、心不全や糖尿病性腎症に有効。
  • 空咳が出る場合はARBへの変更を検討。

🔹 Ca拮抗薬

  • 血管の筋肉をゆるめ、血管をやわらかく保つ。
  • 高齢者や動脈硬化型高血圧に効果的。
  • 副作用:むくみ・顔のほてりが出ることがある。

🔹 利尿薬(サイアザイド系など)

  • 余分な塩分と水分を排出し、血液量を減らす。
  • 塩分感受性が高い方・浮腫を伴う方に有効。
  • 注意:夏場の脱水・電解質異常に注意。

🔹 β遮断薬

  • 心拍を落ち着かせ、心臓の負担を軽減。
  • 狭心症・心筋梗塞後・不整脈に使用。
  • 副作用:手足の冷え、だるさに注意。喘息持ちは要相談。

第3章 状況別にみる薬の選び方

同じ血圧でも、合併症や年齢によって最適な薬は異なります。
以下は、日本高血圧学会「JSH2024」およびKDIGO2021に基づく代表的なパターンです。

状況主な選択薬ポイント
腎臓病(CKD)・蛋白尿ARB・ACE阻害薬腎臓の圧を下げ、蛋白尿を減らす
糖尿病合併ARB・ACE阻害薬・Ca拮抗薬動脈硬化を抑制。130/80 mmHg未満を目標
心疾患(狭心症・不整脈・心不全)β遮断薬・ACE阻害薬・利尿薬心臓を守ることを最優先
高齢者Ca拮抗薬・ARBゆるやかで安全な降圧を優先(目標:140/90 mmHg未満)
むくみ・塩分過多利尿薬水分・塩分排出により体内圧を軽減
若年者・ストレス型β遮断薬緊張による血圧上昇・動悸に有効

📘 補足

  • 多くの場合、2種類以上の薬を少量ずつ組み合わせる(多剤併用)ことで効果と安全性を両立できます。
  • 薬の選択は、血圧の数字だけでなく、「臓器の状態」「年齢」「生活背景」から総合判断します。

第4章 副作用への向き合い方と続ける工夫

「副作用が心配」「ずっと飲み続けるのは不安」
——こうした声は多いですが、副作用の多くは調整で防ぐことができます。

よくある副作用と対応

薬の種類主な副作用対応方法
ARB・ACE阻害薬空咳(ACE)・カリウム上昇検査で早期発見。ARBへ変更可能
Ca拮抗薬顔のほてり・むくみ薬の種類・量を調整で改善
利尿薬脱水・だるさ・尿酸上昇夏場は水分補給を意識
β遮断薬手足の冷え・脈が遅くなる少量から開始、心拍モニター

📘副作用が出たら早めに相談しましょう。
薬を勝手に中止すると血圧が乱れ、かえって危険です。

続けるための3つのコツ

  1. 生活リズムとセットに
    朝食後や就寝前など、毎日同じタイミングで服用。
  2. 家庭血圧で効果を実感
    数値の安定がモチベーションにつながります。
  3. 体調をメモして医師と共有
    小さな変化も記録しておくと、より適切な調整が可能に。

やめられる人・続けた方がいい人

状況判断の目安
減塩・運動で血圧が安定医師の判断で減量・中止も可能
腎臓・心臓・脳に合併症あり継続服薬が推奨
高齢でふらつきや体重減少あり用量を減らして安全性を優先

📘重要:
自己判断で中止せず、医師と相談しながら進めましょう。

第5章 セルフチェックと受診の目安

薬の効果を最大化するには、自宅での観察早めの受診が欠かせません。

家庭血圧の測り方

  • 朝:起床後・排尿後・朝食前
  • 夜:就寝前
  • 目標値:1週間の平均で「135/85 mmHg未満」

📘測定値の“変動”も重要なサインです。安定しない場合は医師に相談しましょう。

自分でできるチェックリスト

チェック項目気をつけたい変化
体重・むくみ数日で+2kg、足のむくみ・だるさ
体調疲れやすい、息切れが増えた
食事味付けが濃い、外食が多い
睡眠6時間未満が続く、いびき・熟睡感の低下

📘変化を放置しないことが、予防の第一歩です。

受診タイミングの目安

状況推奨対応
健診で「血圧高め」と言われた1か月以内に再評価(家庭血圧持参)
家庭血圧が135/85以上が続く2週間以上続く場合は受診
薬を飲んでも下がらない/副作用あり自己判断せず医師へ相談
季節の変わり目変動しやすいため測定を強化

第6章 よくある質問(FAQ)

  • Q1:血圧の薬は一生飲み続けなければいけませんか?
    → 状況によります。生活改善で血圧が安定すれば、医師の判断で減量・中止できることもあります。
    ただし自己判断で中止すると、血圧が急上昇する危険があります。
  • Q2:複数の薬を一緒に飲んでも大丈夫ですか?
    → 多くの方が少量ずつ併用しています。効果を高め、副作用を抑えるための方法です。
    組み合わせは医師が個別に調整します。
  • Q3:副作用が心配です。どうすればいいですか?
    → むくみ・咳・だるさなどの症状が出たら早めに医師へ。薬の種類や量を変えることで対応できます。
    怖がりすぎず、医師と相談しながら継続しましょう。
  • Q4:薬を飲んでも血圧が下がりません。どうすれば?
    → 服薬時間・飲み忘れ・塩分摂取量などを確認しましょう。
    「効かない」と感じる場合も、急な中止は危険です。早めに受診を。
  • Q5:市販薬やサプリと一緒に飲んでいいですか?
    → 痛み止め(NSAIDs)や甘草成分を含むものは血圧上昇を招くことがあります。
    必ず医師・薬剤師に相談しましょう。
  • Q6:朝と夜、どちらで薬を飲むのがいいですか?
    → 一般的には朝食後が多いですが、薬の種類や血圧変動により異なります。
    医師の指示に従い、毎日同じタイミングで服用しましょう。
  • Q7:薬だけでなく生活習慣も改善した方がいい?
    → はい。減塩・運動・体重管理を行うことで、薬の効果を最大化できます。
    生活と薬の両立が、臓器を守る最も確実な方法です。

第7章 まとめ ― 薬と生活の“二人三脚”で血圧を守る

  • 高血圧は症状がなくても進行する「静かな病気」
  • 薬は“治す”のではなく、“臓器を守る”ためのパートナー
  • 減塩・運動・睡眠などの生活改善で、薬の効果を最大化
  • 家庭血圧の記録と医師との共有が、最も確実な予防法

「薬をやめたい」ではなく、「どうすれば安心して続けられるか」
——その発想が、あなたの腎臓・心臓・脳を守ります。

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  • 健診で血圧や腎機能の異常を指摘された方
  • 薬の調整や生活改善について相談したい方
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尾張旭市・瀬戸市エリアで「腎臓×生活習慣病」を専門に診療しています。
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📚 参考文献・免責事項

参考ガイドライン

  • 日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2024(JSH2024)
  • 日本腎臓学会:CKD診療ガイド2023/KDIGO 2021
  • 日本動脈硬化学会:脂質異常症ガイドライン2022(JAS2022)
  • American Diabetes Association(ADA 2024)

免責事項
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、診断・治療の代替を意図するものではありません。
症状や服薬内容については、必ず医師にご相談ください。