「塩分を控えましょう」と健診で言われたけれど、どこまで減らせばいいのか、何をどう工夫すればいいのか分からない――そんな声を多く耳にします。尾張旭市・瀬戸市で高血圧や腎臓病の診療を行う当院にも、同じご相談が数多く寄せられます。
塩分のとりすぎは、高血圧・腎臓病・心臓病・脳卒中に共通する危険因子の一つです。とはいえ、高血圧や腎臓病のある方の目標である「1日6g未満」を毎日の食事で守るのは、思いのほか大変です。本記事では、減塩を「我慢」ではなく「習慣」として続けるための実践ポイントを、最新のガイドラインに基づいて医師の立場から解説します。
日本人は1日どのくらい塩分をとっている?
厚生労働省の令和6年(2024年)国民健康・栄養調査によると、日本人成人の食塩摂取量の平均は1日9.6g(男性10.5g/女性8.9g)でした。過去12年間で最も低い値ですが、国が掲げる目標にはまだ届いていません。
目標値は立場によって異なります。ご自身がどれに当てはまるかを確認してみてください。
| 対象 | 目安・目標 | 出典 |
|---|---|---|
| 高血圧のある方 | 食塩6g/日未満 | 高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025) |
| 慢性腎臓病(CKD)の方 | 食塩6g/日未満を基本に、体調に応じて個別に調整 | CKD診療ガイドライン2023/CKD診療ガイド2024 |
| 持病による個別指示のない成人男性 | 食塩7.5g/日未満(目標量) | 日本人の食事摂取基準(2025年版) |
| 持病による個別指示のない成人女性 | 食塩6.5g/日未満(目標量) | 日本人の食事摂取基準(2025年版) |
| 国民全体(個人の目標ではありません) | 平均7g/日(令和14年度=2032年度の目標) | 健康日本21(第三次) |
慢性腎臓病の方についても、国内の最新ガイドラインは食塩6g/日未満を基本としています。一方で、高齢の方や食事量が少ない方では、過度な制限が食事全体の量を減らし、低栄養を招くことがあります。大量に汗をかく状況では脱水や低血圧にも注意が必要です。CKD診療ガイド2024でも「制限」というより「過度な食塩摂取量を適正化する」という考え方が示され、個々の状態に応じて無理のない目標を設定することが述べられています。年齢・体調・腎機能・服用中のお薬に応じて、主治医や管理栄養士とご相談ください。
なお、国際的なKDIGO 2024ガイドラインでは、CKDの方にナトリウム2g/日未満(食塩約5g/日未満)が提案されています。ただし、これは弱い推奨で、エビデンスの確実性は低いものです(2C)。実際の目標は、病状や栄養状態を考慮して個別に設定します。
なぜ塩分のとりすぎが体に悪いのか ― 血圧と腎臓のしくみ
塩分(ナトリウム)は、体の水分バランスや神経・筋肉の働きに欠かせない成分です。不足しても困りますが、とりすぎると血圧の上昇や腎臓への負担を招きます。
血圧が上がるしくみ
体内のナトリウムが増えると、血液の濃さ(浸透圧)を一定に保つために水分を引き込む作用が働きます。その結果、血液の量が増えて血管にかかる圧力が高まり、血圧が上がります。
「食塩感受性」には個人差があります
同じ量の塩分をとっても、血圧の上がりやすさには体質による個人差があります。塩分の影響を受けやすいタイプを「食塩感受性」と呼び、日本人・高齢の方・肥満のある方・腎機能が低下している方に多いとされています。こうした方では、減塩による血圧の下がり幅も大きくなりやすいことが知られています。
腎臓への負担と、お薬の効き
食塩摂取が多いと体液量や血圧が上がり、腎臓のろ過装置である「糸球体」にかかる圧力や尿蛋白が増えやすくなります。さらに、降圧薬(特にRAS阻害薬)による血圧・尿蛋白の改善効果を弱めることがあります。「薬を飲んでいるのに血圧や尿蛋白が改善しない」という場合、塩分が背景にあることは少なくありません。こうした状態が続くと、慢性腎臓病(CKD)の進行に関わる可能性があります。
つまり減塩は、血圧を下げるだけでなく、腎臓を守り、心臓や脳の血管を守るためにも欠かせない取り組みなのです。
塩分のとりすぎが招く健康リスク ― 全身に広がる影響
心臓・脳の血管
血圧が上昇すると血管の内側(内皮細胞)が傷つき、動脈硬化が進みます。長い年月をかけて血管が硬く狭くなることで、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まります。特に脳は細い血管が多く血圧変動の影響を受けやすいため、塩分の多い食習慣が脳出血・脳梗塞の発症と関連することが複数の研究で報告されています。
腎臓
塩分過多による高血圧が続くと腎臓の血管が傷つき、慢性腎臓病(CKD)が進行します。初期には自覚症状がほとんどありませんが、次第にむくみ・だるさ・夜間の尿回数の増加などが現れ、放置すると透析が必要な末期腎不全に至ることもあります。血圧が高いほど腎機能(eGFR)の低下が速く進むことも分かっており、血圧と塩分の管理はCKD進行抑制の柱と位置づけられています。
胃の健康
漬物・塩干魚・塩辛など、塩蔵食品の多い食習慣は胃がんのリスク上昇と関連することが国際的な研究レビュー(世界がん研究基金:WCRF)で示されています。食塩の多い食事は、血圧や腎臓だけでなく、胃の健康という点からも見直すことが大切です。
減塩は、血圧・腎臓・血管を同時に守ることができる、最も基本的な予防法の一つです。
おいしく続ける減塩のコツ ― 今日からできる6つの工夫
「薄味では物足りない」「外食が多くて難しい」という声は多く聞かれます。しかし、いくつかの工夫で“おいしく続ける減塩”は十分に可能です。
1. 味付けは「足す」より「引き立てる」
- 酸味を使う:レモン・酢・ゆず・すだち
- 香りを使う:しょうが・にんにく・青じそ・こしょう・ハーブ
- うま味を使う:昆布・かつお節・干ししいたけの出汁をしっかりとる
- 香ばしさを使う:焼き目をつける、ごまやナッツを加える
- 「かける」より「つける」:しょうゆやソースは小皿に取り、後がけにする
2. 外食・加工食品の塩分量を知る
まずは「何にどれだけ入っているか」を知ることが第一歩です。おおよその目安をまとめました。
| 食品(分量の目安) | 食塩相当量の目安 |
|---|---|
| ラーメン(汁まで飲む) | 約6〜8g |
| ラーメン(汁を残す) | 約3〜4g |
| カップめん1個 | 約4〜6g |
| みそ汁 1杯 | 約1.2〜1.5g |
| 梅干し 1個 | 約1.8〜2.2g |
| たくあん 2切れ | 約1.3g |
| 食パン 6枚切1枚 | 約0.8g |
| ハム 2枚 | 約1.0g |
| 食塩 小さじ1杯 | 約6g |
| しょうゆ 小さじ1杯 | 約0.9g |
| しょうゆ 大さじ1杯 | 約2.6g |
| みそ 大さじ1杯 | 約2.2g |
| ウスターソース 大さじ1杯 | 約1.5g |
※食品や商品の大きさ、製造元、店舗によって食塩相当量は大きく異なります。包装食品では、必ず栄養成分表示の「食塩相当量」をご確認ください。
スープを全部飲まずに残す、ソースやドレッシングを半分にする――こうした小さな工夫も、積み重ねることで大きな差になります。
3. 家庭でできる簡単な工夫
- しょうゆやソースは食卓では小皿に取り、直接かけない
- みそ汁は具だくさんにして汁の量を減らす。1日1杯までを目安に
- 漬物は毎食ではなく、1日1回・少量に
- 麺類の汁は残す(商品によっては数gの減塩になる場合があります)
- すべての料理を薄味にせず、1品はしっかり味付けして満足感を残す
4. 減塩調味料を使うときの注意点
減塩調味料は減塩の心強い味方です。ただし、「減塩しお」「低ナトリウム塩」や一部の減塩調味料には、ナトリウムの代わりに塩化カリウムが使われているものがあります(すべての減塩しょうゆが該当するわけではありません)。購入時は、原材料表示の「塩化カリウム」や栄養成分表示のカリウム量をご確認ください。
腎機能が低下している方や、RAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)、カリウム保持性利尿薬などを服用中の方がこうした製品を多用すると、血液中のカリウムが上がりすぎる「高カリウム血症」を招くおそれがあります。高カリウム血症は不整脈の原因にもなります。該当する方は、使用前に必ず主治医または管理栄養士にご相談ください。
5. 野菜・果物のカリウムを味方に(ただし、カリウム制限中の方は要注意)
カリウムには、体内の余分なナトリウムを排出しやすくする働きがあります。JSH2025でも、減塩とあわせて野菜・果物・いも類・豆類からのカリウム摂取が推奨されています(日本人の食事摂取基準2025年版の目標量:成人男性3,000mg以上/成人女性2,600mg以上)。
ただし、慢性腎臓病でカリウム制限を指示されている方は当てはまりません。自己判断で野菜や果物を増やさず、必ず主治医の指示に従ってください。同じ「体に良い食事」でも、腎機能によって答えが変わります。
6. 医師・管理栄養士と一緒に、数字で振り返る
高血圧や腎臓病のある方では、体調や検査値に応じて個別の目標を立てることが重要です。外来では尿検査から1日の食塩摂取量を推定することができ、「思っていたより多かった」と気づかれる方が多くいらっしゃいます。
ただし、1回の随時尿から得られる値はあくまで概算で、採尿の時間帯や前日の食事によって変動します。1回の数値だけで判断せず、繰り返し測定して変化を見ることが大切です。より正確な評価には24時間蓄尿を用います。
よくある質問(FAQ)
Q1. 減塩すると食事が味気なくなりませんか?
A. ポイントは「味を薄くする」ことではなく、「うま味や香りを増やす」ことです。レモンや酢、しょうが、ハーブ、出汁などを活かすと、自然な風味で満足感が得られます。個人差はありますが、多くの方が数週間のうちに次第に薄味へ慣れていきます。
Q2. 外食やお惣菜をよく利用しますが、どうすればいいですか?
A. 「減らす工夫」が効果的です。スープやたれを残す、ドレッシングを半分にする、丼ものより定食を選ぶ、といった選択で大きく変わります。なお「和食=健康的」と思われがちですが、みそ汁・漬物・干物・煮物には塩分が多く含まれます。和食だから安心とは限りません。
Q3. 血圧が正常でも減塩は必要ですか?
A. はい。血圧が正常な方でも、塩分の多い生活を続けると将来的な高血圧や腎機能低下のリスクが高まります。JSH2025では、発症前の段階からの生活習慣改善がこれまで以上に重視されています。健康なうちからの減塩は、将来の高血圧予防の基本です。
Q4. ミネラル塩や岩塩は体に良いですか?
A. これらも基本は「塩」であり、ナトリウム量はほとんど変わりません。種類にこだわるよりも、使う量を減らすことが最も大切です。
Q5. 塩分は減らせば減らすほど良いのですか?
A. いいえ。国内のガイドラインが示す目安は、高血圧の方も慢性腎臓病の方も食塩6g/日未満です。一方で、高齢の方や食事量が少ない方では、過度な制限が食事全体の量を減らして低栄養を招くことがあります。大量に汗をかく時期には、脱水や低血圧にも注意が必要です。極端に減らすことを目指すのではなく、年齢・体調・腎機能・服用薬に応じた「無理のない目標」を主治医や管理栄養士と一緒に決めていきましょう。
Q6. 自分が1日何g塩分をとっているか調べられますか?
A. 目安を知ることは可能です。外来では尿中のナトリウム量から1日の食塩摂取量を推定できます。ただし1回の随時尿の値は概算であり、より正確な評価には24時間蓄尿を用います。ご自宅で使える塩分計や食事記録アプリを併用すると、傾向がつかみやすくなります。気になる方は診察の際にお申し出ください。
まとめ
- 日本人の平均食塩摂取量は1日9.6g。国の目標にはまだ届いていません
- 高血圧の方も慢性腎臓病の方も、国内の目安は食塩6g/日未満(JSH2025/CKD診療ガイドライン2023)
- ただし高齢の方や食事量が少ない方では低栄養に、大量に汗をかく状況では脱水や低血圧に注意し、個別に調整します
- 出汁・香り・酸味を活かせば、薄味でも満足感は保てます
- 「減塩しお」など一部の製品は塩化カリウムを含みます。腎臓病の方は要相談です
当院でも、塩分摂取を見直すことで血圧管理や尿蛋白の改善につながる方も少なくありません。日々の食事を少しずつ見直すことが、未来の健康を守る第一歩になります。
尾張旭市・瀬戸市で高血圧・腎臓病のご相談は当院へ
健診で血圧や尿・腎機能の数値を指摘された方、減塩がうまく続かずお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。検査値に応じて、あなたに合った目標を一緒に設定します。
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参考文献
- 日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』2025年
- 日本腎臓学会『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』(CQ8-4)
- 日本腎臓学会『CKD診療ガイド2024』第8章 栄養
- KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease(Recommendation 3.3.2.1)
- 厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要」
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
- 厚生労働省「健康日本21(第三次)」目標一覧
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
- World Cancer Research Fund / AICR: Diet, Nutrition, Physical Activity and Stomach Cancer
監修
きたはらやまクリニック 院長 加藤 彰浩
日本内科学会認定 総合内科専門医
日本腎臓学会認定 腎臓専門医
公開日:2025年10月/最終更新日:2026年8月
免責事項
本記事は一般的な健康情報であり、個別の診療の代替となるものではありません。個々の病状・合併症・服用中のお薬により最適な対応は異なりますので、実際の治療・食事管理については必ず医師・管理栄養士など専門職にご相談ください。
