腎硬化症

腎硬化症(じんこうかしょう)は、長く続く高血圧などによって腎臓の中の細い血管が変化し、腎臓のはたらきがゆっくりと低下していく病気です。自覚症状が出にくいため、健康診断や他の病気の検査で腎機能の低下を指摘され、はじめて知る方が少なくありません。

「腎臓が硬くなる病気と言われた」「紹介状に腎臓硬化症と書かれていた」と戸惑って来院される方もいらっしゃいます。このページでは、腎硬化症とはどのような病気なのか、原因・症状・診断の流れ、良性と悪性の違い、治るのかどうか、治療と食事で気をつけることまでを、腎臓専門医が順に解説します。

この記事の内容

腎硬化症とは|「腎臓が硬くなる」とはどういうことか

腎硬化症は、腎臓の中を走る細い動脈が長い時間をかけて変化し、腎臓のろ過するはたらきが少しずつ低下していく病気です。高血圧が長く続いた方やご高齢の方に多くみられ、背景に高血圧がある場合は高血圧性腎硬化症と呼ばれることもあります。

病名の「硬化」が指しているもの

「腎臓が硬くなる病気」と説明されることがありますが、病名の「硬化」は、主に腎臓内の細い血管の壁が厚くなり、血流が悪くなる変化を指します。進行すると腎組織に傷あと(線維化)が増え、腎臓が小さくなることがあります。

したがって、おなかの上から触れて「腎臓が硬い」とわかるような病気ではありません。腎臓の内部で静かに進んでいく血管の変化を、まとめて「硬化」と呼んでいるとお考えください。

腎臓は1日にどれくらい働いているのか

腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として体の外に出す臓器です。健常な方では、糸球体で1日に約150リットルの原尿(尿のもと)がつくられ、その約99%が再吸収され、最終的に約1〜1.5リットルの尿になります。

このろ過を担っているのが、糸球体と呼ばれる毛細血管のかたまりです。糸球体へ血液を届けているのが細い動脈で、ここが厚く硬くなって内側が狭くなると、糸球体に届く血液が減り、ろ過の能力が落ちていきます。

長く続く高血圧、加齢、 腎臓の血流低下 など 腎臓の中の細い動脈の壁が 厚く、硬くなる(硬化) 糸球体(ろ過装置)へ届く 血液が少なくなる 腎臓に傷あと(線維化)が増え、 腎臓が小さくなることがある 腎臓のはたらきがゆっくり低下
図1:腎硬化症で起こる変化(模式図)。実際の進行の速さや程度には個人差があり、すべての方が同じ経過をたどるわけではありません。

たんぱく尿が目立たないことが多い

腎硬化症では、たんぱく尿(蛋白尿)が出ないか、出ても少量にとどまることが多いのが特徴です。尿検査で目立った異常がないまま、血液検査のeGFR(推算糸球体ろ過量)やクレアチニンの数値で腎機能の低下が見つかることも少なくありません。

健康診断で「尿は問題なかったのに腎臓が悪いと言われた」という方が戸惑われるのは、このためです。尿検査と血液検査の両方をあわせて見ていくことが大切になります。

透析が必要になる原因として2番目に多い病気です

日本透析医学会の統計では、2024年に新たに透析を開始した方は36,404人でした。その原因として腎硬化症は第2位(19.1%)を占めています。第1位は糖尿病性腎症(37.6%)、第3位は慢性糸球体腎炎(13.5%)です。

高齢化などを背景に、透析導入の原因に占める腎硬化症の割合は年々増加傾向にあります。

まれな病気ではありませんが、悲観する必要はありません。血圧の管理を中心とした治療によって、腎機能が低下していく速さをゆるやかにできる可能性があります。腎臓と血圧のつながりについては、腎臓と血圧の関係|高血圧が腎臓を傷める理由で詳しく解説しています。

腎硬化症の原因

腎硬化症は、長く続く高血圧が腎臓の細い血管に負担をかけ、腎機能の低下につながる病態です。ただし実際には、加齢や腎臓の血流低下なども重なります。腎機能が低下すると血圧も上がりやすくなるため、高血圧と腎機能低下は互いに影響し合います。

そのため「高血圧だけが原因」と単純に言い切れるものではありません。いくつかの要因が長い年月のあいだに積み重なって生じると考えられています。

腎硬化症に重なりやすい要因

  • 高血圧:最も重要な要因です。高い血圧が長く続くほど、腎臓の細い血管への負担が積み重なります。
  • 加齢:年齢を重ねると血管は硬くなりやすく、腎臓の血管も例外ではありません。
  • 糖尿病:高血糖の状態が続くと血管が傷つきやすくなり、動脈硬化が進みやすくなります。
  • 脂質異常症:LDLコレステロールや中性脂肪が高い状態は、動脈硬化と関連します。くわしくは脂質異常症と慢性腎臓病(CKD)をご覧ください。
  • 喫煙:血管を収縮させて血圧を上げるほか、動脈硬化を進める要因にもなります。
  • 肥満:高血圧・糖尿病・脂質異常症と重なりやすく、腎臓への負担が増える一因と考えられています。
  • 塩分のとりすぎ:血圧が上がりやすくなるだけでなく、降圧薬の効きを弱めることがあります。

これらが複数重なっている方ほど注意が必要です。一方で、いずれか一つがあれば必ず腎硬化症になるというものでもありません。

高血圧と腎臓は互いに影響し合います

腎臓は、体の塩分と水分の量を調節することで血圧を適切に保っています。腎臓のはたらきが低下すると塩分と水分が体にたまりやすくなり、血圧が上がりやすくなります。上がった血圧はさらに腎臓の細い血管に負担をかけるため、そのままにしておくと悪循環になりやすいのです。

この悪循環をどこかで断つことが、腎硬化症の治療の中心になります。血圧の管理が腎臓を守るうえでなぜ重要なのかは、腎臓と血圧の関係もあわせてご覧ください。

良性腎硬化症と悪性腎硬化症の違い

腎硬化症は、進行の速さによって「良性腎硬化症」と「悪性腎硬化症」の2つに分けられます。両者は名前こそ似ていますが、経過も必要な対応も大きく異なります。

「悪性」はがんという意味ではありません

はじめに、誤解のないようにお伝えしたいことがあります。ここでいう「悪性」は、がん(悪性腫瘍)という意味ではありません。血圧が著しく高くなり、腎臓の障害が急速に進んでいくタイプを指す医学用語です。

診断書や紹介状に「悪性腎硬化症」と書かれていても、がんが見つかったという意味ではありませんので、その点はご安心ください。

良性腎硬化症 悪性腎硬化症 進行の速さ 年単位で ゆっくり進む 数週〜数か月で 急速に進む 血圧 高血圧が 長く続いている 著しく高い 血圧がみられる 主な症状 初期は ほとんどない 頭痛・目のかすみ 吐き気・けいれん など 必要な対応 外来で血圧と 腎機能を管理 すぐに受診し 入院して治療
図2:良性腎硬化症と悪性腎硬化症の違い(模式図)。実際の診断や対応は、お一人おひとりの状態によって異なります。

良性腎硬化症とは

良性腎硬化症は、長年の高血圧や加齢などを背景に、年単位でゆっくりと腎機能が低下していくタイプです。腎硬化症の多くはこちらにあたり、ご高齢の方に多くみられます。なお、良性腎硬化症は高血圧性腎硬化症と呼ばれることもあります。

「良性」という言葉から、軽い病気だという印象を受けるかもしれません。しかし、放置してよいという意味ではありません。自覚症状のないまま少しずつ進行し、透析が必要な段階まで至ることもあります。ここでの「良性」は、あくまで悪性腎硬化症と比べて進行がゆるやかである、という意味だとお考えください。

言い換えれば、ゆっくり進むからこそ、血圧の管理によって進行をおさえる時間的な余裕があるタイプでもあります。定期的に腎機能を確認しながら、長く付き合っていく姿勢が大切になります。

悪性腎硬化症とは

悪性腎硬化症は、著しく高い血圧に伴って、腎機能やほかの臓器の障害が短期間に急速に進む病態です。良性腎硬化症に比べるとまれですが、そのままにすると腎不全に至ることがあります。「悪性高血圧に伴う腎障害」と表現されることもあります。

著しく高い血圧が腎臓の血管を傷め、腎臓の障害がさらに血圧を押し上げるという悪循環が、短期間のうちに進んでしまいます。障害は腎臓だけにとどまらず、脳・心臓・目・大血管など全身の臓器に及ぶことがあり、このような状態は高血圧緊急症と呼ばれます。

すぐに受診が必要なサイン

血圧が著しく高い状態で次のような症状がみられる場合は、高血圧緊急症の可能性があります。診療時間を待たず、救急要請を含めて直ちに受診してください。

  • 強い頭痛が続く
  • 目がかすむ、見えにくい
  • 吐き気や嘔吐がある
  • 息苦しさやむくみが急に強くなった
  • けいれん、意識がもうろうとする
  • 胸や背中の強い痛みがある
  • 手足のまひ、言葉が出にくい

高血圧緊急症では入院し、障害されている臓器や病態に応じた速度で慎重に血圧を下げていきます。自己判断で急激に血圧を下げるのは危険ですので、降圧薬を追加で内服するなどの対応はなさらないでください。

また、腎機能が短期間で急速に低下している場合には、腎硬化症以外の原因が隠れていないかを調べることも重要になります。急激に腎機能が低下する状態については、急性腎障害(AKI)で解説しています。

腎硬化症の症状

ここでは、ゆっくりと進行する良性腎硬化症の症状を中心に説明します。急速に進行する場合の症状については、前の章をご覧ください。

初期はほとんど症状がありません

腎硬化症は、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。健康診断などで腎機能の低下を指摘されて、はじめて気づくというケースが多い病気です。

腎臓には大きな予備の力があり、一部のはたらきが落ちても、残った部分がある程度補ってくれます。そのため、腎機能がかなり低下するまで、体調の変化として現れにくいのです。「症状がないから腎臓は元気なはずだ」とは限らない点が、この病気の難しいところです。

進行するとみられる症状

腎機能の低下が進むと、次のような症状が現れることがあります。

  • むくみ:余分な水分を尿として出しにくくなり、足首やまぶたなどがむくみやすくなります。
  • 疲れやすさ・だるさ:老廃物が体にたまることや、後述の貧血が関係すると考えられています。
  • 食欲不振・吐き気:腎機能の低下がかなり進んだ段階でみられることがあります。
  • 貧血:腎臓は赤血球をつくるよう促すホルモン(エリスロポエチン)を分泌しています。腎機能が低下するとこの分泌が減り、貧血になりやすくなります。
  • 夜間にトイレへ起きる回数が増える:腎機能が低下すると、尿を濃くする力が弱まり、夜間にトイレへ起きる回数が増えることがあります。ただし、前立腺の病気、膀胱の病気、睡眠障害、糖尿病などでも起こるため、この症状だけで腎硬化症とは判断できません。
  • 血圧が下がりにくくなる:塩分と水分が体にたまりやすくなるため、これまで効いていた降圧薬でも血圧が下がりにくくなることがあります。

これらの症状は腎硬化症だけに起こるものではなく、他の病気でもみられます。反対に、症状がないからといって腎機能が保たれているとも限りません。実際に腎臓の状態を知るには、血液検査と尿検査が必要です。

症状が出る前に見つけることが大切です

腎硬化症を早い段階で見つける手がかりは、健康診断の血液検査(クレアチニン・eGFR)と尿検査です。症状が出てから受診した時点では、腎機能がすでにかなり低下していることも少なくありません。

高血圧が続く方では、年齢にかかわらず腎機能と尿検査を定期的に確認することが大切です。健康診断で腎機能の低下を指摘されたことがある方は、そのままにせず一度ご相談ください。

腎硬化症はどのように診断しますか

腎硬化症には「この検査が陽性なら確定」という単独の検査がありません。血圧の経過、血液検査、尿検査、画像検査などを組み合わせ、ほかの腎臓の病気の可能性を確かめながら、総合的に判断していきます。

血液検査でみるもの(クレアチニン・eGFR)

血液中のクレアチニンは、筋肉から出る老廃物で、腎臓から尿へ捨てられています。腎臓のろ過する力が落ちると血液中にたまるため、数値が上がっていきます。

ただしクレアチニンの値は筋肉の量に影響されるため、年齢と性別を加味して計算したeGFR(推算糸球体ろ過量)で腎機能を評価します。eGFRは、腎臓が血液をろ過する力を推算した数値です。数値が低いほど、ろ過する力が低下していることを示します。

eGFRが60 mL/分/1.73m²未満、またはたんぱく尿など、腎障害を示す所見が3か月以上続く場合に、慢性腎臓病(CKD)と診断します。腎障害を示す所見には、たんぱく尿のほか、腎臓の病気による血尿などの尿所見や、画像検査でみられる異常も含まれます。

脱水や体調によっても数値は動きますので、1回の結果だけで判断せず、時間をおいて確認することが大切です。

尿検査でみるもの

尿にたんぱくが漏れていないか、血尿がないかを確認します。腎硬化症では、たんぱく尿が出ないか、出ても少量にとどまることが多いのが特徴です。

逆に、たんぱく尿の量が多い場合や血尿を伴う場合には、慢性糸球体腎炎など別の腎臓の病気が隠れている可能性を考える必要があります。この見きわめが、腎硬化症の診断では重要になります。

画像検査でみるもの

腹部の超音波(エコー)検査で、腎臓の大きさや形を確認します。腎硬化症が進行した腎臓は、左右とも小さくなっていることがあります。痛みがなく、体への負担もない検査です。

同時に、水腎症、多発性のう胞腎、腎臓の腫瘍など、ほかの原因による腎機能の低下がないかも確認します。

血圧の経過も重要な手がかりです

いつ頃から高血圧を指摘されているか、どのくらいの血圧が続いていたかは、診断の重要な材料になります。健康診断の結果を数年分お持ちいただけると、経過を追いやすくなります。

診察室では緊張して高めに出る方もいれば、診察室では正常でもご家庭では高い方もいます。ご自宅で測った血圧の記録があると、より正確な評価につながります。測り方のコツは、家庭血圧の正しい測り方で解説しています。

腎生検を行うことはありますか

腎硬化症の診断のために、日常的に腎生検(腎臓の組織を採取する検査)を行うことはありません。血圧の経過と検査所見から、臨床的に判断できることがほとんどです。

ただし、たんぱく尿が多い、血尿を伴う、腎機能の低下が速いなど、腎硬化症としては説明しにくい所見がある場合には、別の腎臓の病気を調べるために腎生検を検討します。その場合は、検査が可能な専門施設へご紹介します。

腎硬化症は治りますか|進行するとどうなるか

診断を受けた方から、最も多くいただくご質問です。結論からお伝えします。

失われた腎機能を元に戻すことは難しい

いったん硬くなった血管や、傷あと(線維化)に置き換わってしまった腎臓の組織を、元の状態に戻す方法は今のところありません。その意味では、腎硬化症は「薬を飲めば完全に治る」という病気ではありません。

ここで大切なのは、「治らない」ということと「何もできない」ということは違う、という点です。

進行の速さは変えられる可能性があります

腎機能がどのくらいの速さで低下していくかは、人によって大きく異なります。血圧の管理や生活習慣の見直しによって、低下していくペースをゆるやかにできる可能性があります。

腎臓のはたらき(eGFR) 腎機能が高度に低下した段階 腎硬化症と診断された時点 時間の経過 血圧をしっかり管理した場合 血圧の管理が不十分な場合
図3:腎機能の低下の仕方(模式図)。実際のデータではなく、経過のイメージを示したものです。低下の速さには大きな個人差があり、すべての方がこのとおりの経過をたどるわけではありません。

同じ時期に診断された方でも、その後の経過が同じとは限りません。腎臓は、大切に使えば長く働き続けてくれる臓器です。腎硬化症の治療で目指すのは、この線の傾きをできるだけ寝かせることだとお考えください。

進行するとどうなるのか

腎機能の低下が進むと、むくみや貧血などの症状が現れやすくなります。さらに進行すると、腎臓が体の水分・老廃物・電解質のバランスを保てなくなり、透析や腎移植といった治療(腎代替療法)が必要になります。

ただし、腎硬化症と診断された方の全員がそこに至るわけではありません。腎機能の低下がゆるやかであれば、生涯にわたって透析を必要としない場合もあります。

早い段階から、状態に合った血圧管理を続けることが大切です

腎機能の低下や心血管疾患のリスクを抑えるため、早期から、その方の状態に合った血圧管理を続けることが大切です。健康診断で腎機能の低下を指摘された段階でご相談いただくことが、早期発見と早期の対策につながります。

「症状がないから、もう少し様子をみよう」と考えてしまいがちですが、腎硬化症では症状が出た時点で腎機能がかなり低下していることも少なくありません。数値の段階で気づき、対応を始められることが大切です。

悪性腎硬化症の場合は

悪性腎硬化症が疑われる場合は、腎機能やほかの臓器の障害が急速に進むことがあるため、速やかな評価と治療が必要です。血圧を適切に管理することで腎機能の低下を食い止められる場合もあれば、透析が必要になる場合もあります。

いずれにしても、自己判断で様子をみることは避け、速やかに医療機関を受診してください。

腎硬化症の治療

腎硬化症の治療の中心は、血圧の管理です。目的は2つあります。腎機能が低下していくペースをできるだけゆるやかにすること、そして心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患を防ぐことです。

血圧の目標はどのくらいですか

高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)では、慢性腎臓病(CKD)のある方を含め、次の値が基本の目標とされています。

測定する場所基本の目標
診察室で測る血圧130/80 mmHg未満
ご家庭で測る血圧125/75 mmHg未満
JSH2025にもとづく基本の降圧目標。実際の目標は、年齢や合併症などを考えあわせて個別に設定します。

ただし、すべての方がいきなりこの値を目指すわけではありません。糖尿病がなく、たんぱく尿も出ていないCKDの方については、まず140/90 mmHg未満を中間の目標とし、その後、体調に問題がないことを確認しながら130/80 mmHg未満を目指すという考え方も示されています。

腎硬化症では、たんぱく尿が目立たない方が多くみられます。そのため、この段階を踏む進め方が当てはまりやすいタイプといえます。

「下げれば下げるほどよい」わけではありません

血圧は低ければ低いほどよい、というものではありません。下げすぎるとふらつきや立ちくらみが起こりやすくなるほか、腎臓に届く血液が減って腎機能が急に悪化したり、血液中のカリウムが上がったりすることがあります。

特にご高齢の方や、複数の病気をお持ちの方では、目標値をそのまま当てはめるのではなく、体調を確認しながら少しずつ調整していくことが大切です。ふらつきなど気になる症状があれば、遠慮なくお伝えください。

なお、海外のガイドライン(KDIGO)では、厳密に標準化された方法で測定した診察室の収縮期血圧について、体調に問題がなければ120 mmHg未満を目指すことが提案されています。ただしこれは特別な測定条件を前提とした数値で、通常の診察室血圧やご家庭の血圧と単純に比べられるものではありません。ご自宅の血圧計の数値と混同しないようご注意ください。

血圧を下げる薬(降圧薬)の選び方

どの薬から始めるかは、たんぱく尿が出ているかどうかによって変わります。

たんぱく尿が出ている場合は、ACE阻害薬またはARBが第一に選ばれます。これらの薬は血圧を下げるだけでなく、糸球体にかかる圧を調整したり、腎臓の炎症や線維化に関わる仕組みにも働きかけたりすると考えられています。くわしくはARB・ACE阻害薬と腎臓をご覧ください。

たんぱく尿が出ていない場合は、ACE阻害薬・ARBに加えて、カルシウム拮抗薬や利尿薬も同じように候補となります。腎硬化症ではたんぱく尿が目立たない方が多いため、「腎臓が悪いから必ずARB」とは限りません。血圧の下がり方、ほかの持病、副作用の出やすさなどを見ながら選んでいきます。

1種類で目標に届かないことも多く、作用の異なる薬を組み合わせて使うのが一般的です。薬の数が増えること自体は、決して悪いことではありません。

薬を始めた後にクレアチニンが上がることがあります

ACE阻害薬やARBを始めた後は、クレアチニンが一時的に上がることがあります。開始・増量後には腎機能とカリウムを確認し、上昇の程度や脱水、併用薬などを踏まえて、医師が治療を続けるかどうかを判断します。自己判断で中止しないでください。

そのため、開始後は決められた時期に血液検査を受けていただくことが大切です。指示された時期の受診をお願いします。

SGLT2阻害薬が選択肢になることもあります

もともと糖尿病の薬として使われてきたSGLT2阻害薬には、腎臓を保護する働きも報告されています。SGLT2阻害薬のうち、ダパグリフロジンとエンパグリフロジンには慢性腎臓病の適応があり、糖尿病のない方に使用されることもあります。

ただし、すべての腎硬化症の方に一律にお勧めするものではありません。腎機能や尿たんぱく(アルブミン)の程度、心不全などの合併症によっては、糖尿病がなくてもSGLT2阻害薬が選択肢になります。この薬についてはSGLT2阻害薬と腎臓でくわしく解説しています。

糖尿病を合併している場合

2型糖尿病を合併しているCKDでは、フィネレノンという薬が腎臓を保護する目的で使われることがあります。腎硬化症そのものを主な対象とした薬ではありませんが、糖尿病もお持ちの方では検討の対象になります。フィネレノン(ケレンディア)のページもあわせてご覧ください。

コレステロールの管理について

脂質異常症がある場合には、スタチンなどの薬でコレステロールを管理します。これは腎臓そのものを守るためというより、心筋梗塞や脳卒中といった動脈硬化による病気を防ぐことが主な目的です。

腎機能の低下やたんぱく尿は、心不全、心筋梗塞、脳卒中などの心血管疾患のリスク上昇と関連することが知られています。腎臓の治療と心臓・血管の予防は、切り離せない関係にあるとお考えください。

慢性腎臓病では脂質の異常が起こりやすく、それが動脈硬化を通じて腎臓と心臓の両方に影響することが知られています。LDLコレステロールの目標値の考え方、スタチンの使い方、腎機能が低下している場合の注意点については、脂質異常症と慢性腎臓病(CKD)で詳しく解説しています。

生活習慣の見直し

  • 減塩:血圧を下げるうえで最も効果が期待できる取り組みです。降圧薬の効きをよくする意味もあります。次の章でくわしく説明します。
  • 禁煙:喫煙は血圧を上げ、動脈硬化を進める要因になります。腎臓を守るうえでも、禁煙は重要な取り組みです。
  • 節酒:飲みすぎは血圧を上げる一因になります。適量を心がけましょう。
  • 適度な運動:血圧や体重の管理に役立ちます。無理のない範囲で続けられる運動を、体調に合わせて選びましょう。
  • 体重の管理:肥満がある場合は、少し減るだけでも血圧が下がりやすくなります。

定期的に検査を続けることも治療の一部です

腎硬化症では、1回の検査値そのものより、eGFRがどのような傾きで動いているかが大切な情報になります。定期的に採血・尿検査を受けていただくことで、治療がうまくいっているかを確認できます。

あわせて、ご家庭での血圧測定も続けてください。診察室での1回の値より、毎日の記録のほうがはるかに多くのことを教えてくれます。

腎硬化症の食事で気をつけること

「腎臓が悪いと言われたら、何を食べればよいのか」というご質問をよくいただきます。腎硬化症の食事で最も大切なのは減塩です。それ以外の制限は、腎機能の程度によって必要かどうかが変わります。

まず取り組むべきは減塩です

塩分を控えることは、血圧を下げるだけでなく、降圧薬の効果を引き出すうえでも重要です。せっかく薬を飲んでいても、塩分が多いと十分な効果が得られないことがあります。

目標は、1日6g未満です。食事量が落ちている方や、ほかの病気がある方は、主治医・管理栄養士に相談して無理のない方法を決めましょう。

減塩は、味気ない食事を我慢することではありません。だしや酸味、香辛料を活かす、汁物を1日1杯までにする、麺類の汁は残す、卓上での「かけ醤油」をやめる、といった工夫で無理なく減らせます。具体的な進め方は、減塩6gの実践ガイドにまとめています。

たんぱく質はどうすればよいですか

たんぱく質の制限は、腎機能の程度によって考え方が変わります。CKD診療ガイド2024では、次の目安が示されています。

腎機能の区分たんぱく質の目安
G3a0.8〜1.0 g/kg標準体重/日
G3b以降0.6〜0.8 g/kg標準体重/日
CKD診療ガイド2024にもとづくたんぱく質摂取量の目安。実際の指示量は主治医・管理栄養士とご相談ください。

大切な注意点があります。筋肉量や体力が落ちている方(サルコペニア・フレイル)では、制限をゆるめる場合があります。たんぱく質を減らしすぎると筋肉が落ち、かえって生活の質や生命予後に影響しかねないためです。

したがって、たんぱく質制限は自己判断で始めないでください。腎機能が保たれている段階では、厳しい制限は必要ないことがほとんどです。「腎臓が悪いと聞いて、肉も魚もやめました」という方がいらっしゃいますが、これは望ましくありません。必要な場合は、管理栄養士による栄養指導を受けながら段階的に進めていきます。

カリウムは制限が必要ですか

カリウムも、すべての方が制限するものではありません。腎機能が保たれていれば、野菜や果物は血圧の管理にとって有益です。むやみに避ける必要はありません。

一方で、腎機能の低下が進むとカリウムが体にたまりやすくなり、高くなりすぎると不整脈の原因となることがあります。ACE阻害薬やARBを使っている場合も、カリウムが上がりやすくなります。

制限が必要かどうかは、血液検査の結果を見て判断します。定期的に採血していれば、必要になった時点でお伝えできますので、ご自身で先回りして制限する必要はありません。

水分は控えたほうがよいですか

「腎臓が悪いから水分を控えている」という方がいらっしゃいますが、透析を受けていない段階では、水分を厳しく制限する必要は通常ありません。

むしろ、脱水は腎臓にとって負担になります。特に夏場や発熱時、下痢や嘔吐が続くときは、腎機能が急に低下することがあります。体調が悪く水分がとれない日が続く場合は、早めにご相談ください。

ただし、尿量が少ない、むくみや心不全があるなどの理由で水分量を指示されている場合は、その指示に従ってください。

市販薬やサプリメントにもご注意ください

食事以外で見落とされやすいのが、市販薬やサプリメントです。特に痛み止め(消炎鎮痛薬)を長く続けて飲むと、腎臓の血流が減って腎機能に影響することがあります。

腰痛や膝の痛みで市販の痛み止めを常用されている方は、一度ご相談ください。健康食品やサプリメントについても、腎臓に負担となるものがありますので、始める前にお声がけいただければと思います。

よくあるご質問

診察室で実際にいただくことの多いご質問をまとめました。

「腎臓が硬くなる病気」と言われましたが、腎硬化症のことですか?

その可能性が高いと考えられます。腎硬化症は、腎臓の中の細い血管の壁が厚くなり、血流が悪くなる病気です。「腎臓が硬くなる」という表現は、この変化をわかりやすく言い換えたものです。ただし、腎臓のはたらきが低下する病気はほかにもありますので、実際にどの病気にあたるかは血液検査や尿検査などで確認する必要があります。

腎臓硬化症とは何ですか?腎硬化症と同じ病気ですか?

「腎臓硬化症」は正式な病名ではありませんが、一般には腎硬化症を指して使われていることがあります。検査結果や紹介状に「腎臓硬化症」「腎臓の硬化」と書かれている場合も、腎硬化症と同じ状態を指していると考えてよいでしょう。背景に高血圧がある場合は、高血圧性腎硬化症と呼ぶこともあります。

腎硬化症は何と読みますか?

「じんこうかしょう」と読みます。腎臓の中の細い血管が硬くなり、腎臓のはたらきが低下していく病気を指す病名です。

腎硬化症は治りますか?

いったん失われた腎機能を元に戻すことは難しいのが現状です。一方で、血圧の管理や生活習慣の見直しによって、腎機能が低下していくペースをゆるやかにできる可能性があります。「治らない」ということと「何もできない」ということは違います。早い段階から、その方の状態に合った血圧管理を続けることが大切です。

良性腎硬化症と言われました。放置してもよいですか?

「良性」は、悪性腎硬化症と比べて進行がゆるやかであるという意味で、放置してよいという意味ではありません。自覚症状のないまま少しずつ進行し、透析が必要な段階に至ることもあります。定期的に血圧と腎機能を確認しながら、必要な治療を続けてください。

悪性腎硬化症はがんですか?

がんではありません。ここでの「悪性」は、血圧が著しく高くなり、腎臓の障害が急速に進むタイプを指す医学用語です。「悪性高血圧に伴う腎障害」と呼ばれることもあります。腎機能やほかの臓器の障害が短期間に急速に進むことがあるため、速やかな評価と治療が必要です。

腎硬化症は遺伝しますか?

腎硬化症そのものが遺伝する病気ではありません。ただし、高血圧のなりやすさには体質が関わるとされています。血縁のご家族に高血圧や腎臓病の方がいらっしゃる場合は、早めに血圧と腎機能を確認しておくと安心です。

腎硬化症でも運動してよいですか?

多くの場合、無理のない範囲での運動は血圧や体重の管理に役立ちます。ただし、血圧が著しく高い場合や、心臓の病気をお持ちの場合には注意が必要です。どの程度の運動が適切かは体調や合併症によって変わりますので、主治医にご確認ください。

腎硬化症の食事で特に気をつけることは何ですか?

最も大切なのは減塩で、目標は1日6g未満です。たんぱく質やカリウムの制限は、すべての方に必要なわけではなく、腎機能の程度や血液検査の結果をみて判断します。自己判断で食事を厳しく制限すると、栄養不足や筋肉量の低下につながることがありますので、必ずご相談ください。

腎硬化症は健康診断でわかりますか?

健康診断の血液検査(クレアチニン・eGFR)と尿検査は、腎機能の低下に気づくための大切な手がかりになります。ただし、健診の結果だけで腎硬化症と確定できるわけではありません。腎機能の低下を指摘された場合は、原因を確かめるために医療機関を受診してください。

当院の診療について

きたはらやまクリニックでは、総合内科専門医・腎臓専門医である院長が、高血圧と腎臓病の診療にあたっています。愛知県尾張旭市を中心に、瀬戸市・長久手市からもご来院いただいています。

「健康診断で腎機能の低下を指摘された」「血圧がなかなか下がらない」「腎硬化症と診断されたが、これからどうなるのか不安」といったご相談を承っています。血液検査・尿検査・腹部超音波検査で腎臓の状態を確認し、血圧の管理と定期的なフォローを行います。

腎臓の病気は、数値の変化を長く追っていくことが何よりも大切です。前医での検査結果や健康診断の記録をお持ちいただけると、経過を踏まえた診療が可能になります。

食事についてお困りの方には、管理栄養士による栄養指導もご利用いただけます。実施できる日時が限られていますので、ご希望の方は受付または診察時にお申し出ください。

診療のご予約は、こちらのページから承っています。

血圧と腎臓のつながりについては、腎臓と血圧の関係もあわせてご覧ください。

執筆者

加藤 彰浩(きたはらやまクリニック 院長)/総合内科専門医・腎臓専門医

参考文献