第1章 冬に血圧が上がるのはなぜ?
寒い季節になると「健診で血圧が高かった」「朝の数値が上がっている」と感じる方が増えます。
これは偶然ではなく、気温の低下によって体が自然に血圧を上げる防御反応です。
寒さを感じると交感神経が活性化し、手足の血管を収縮させて熱の放散を防ぎます。
その結果、血液を押し出す圧力(血圧)が上昇します。
この「寒冷昇圧反応」は体を守る仕組みですが、動脈硬化がある方やもともと高血圧の方では血管への負担が大きくなります。
さらに冬は次のような生活習慣の変化が重なり、慢性的な血圧上昇を招きます。
- 塩分摂取が増える(鍋・漬物・汁物など)
- 運動量が減る
つまり冬の高血圧は、「一時的な上昇」だけでなく「生活習慣+生理的反応」が組み合わさった複合的なリスクです。
この季節変動を理解することが、脳・心臓・腎臓を守る第一歩となります。
第2章 冬の血圧変動 ― 一日のうちで何が起こっているのか
血圧は常に一定ではなく、時間帯によって変動します。
特に冬はこの変動幅(血圧変動性)が大きくなり、脳・心臓・腎臓などの合併症リスクが高まります。
🔹朝の血圧上昇 ― 「早朝高血圧」に注意
朝は交感神経が急に働き、血管が収縮して血圧が上がる時間帯です。
寒さで末梢血管が縮み、睡眠中の軽い脱水も加わるため、起床後1〜2時間は特に高くなります。
この「早朝高血圧」は脳卒中や心筋梗塞の主な要因とされ、JSH2024でも注意が呼びかけられています。
🔹夜間の血圧 ― 下がらないタイプも
通常は夜間に副交感神経が優位となり血圧が下がりますが、
高齢者や糖尿病・慢性腎臓病(CKD)の方では夜間高血圧がみられ、動脈硬化や臓器障害のリスクが高まります。
🔹気温差による「日内変動」
冬は朝晩の寒暖差が大きく、日中の暖房や外出との温度差も激しいため、
血圧が「上がったり下がったり」を繰り返します。
こうした変動が、後述する脳・心・腎の障害を引き起こす要因となります。
第3章 放置すると危険 ― 冬に増える脳・心・腎のトラブル
冬の血圧上昇は自然な反応ですが、放置すれば重大な合併症につながります。
特に気温が下がる季節に注意すべきは、脳・心臓・腎臓の3つの臓器です。
🔹1. 脳 ― 脳卒中(脳出血・脳梗塞)
冬は1年で最も脳卒中が多い季節です。
寒冷刺激で血圧が急上昇すると、脆くなった血管が破れて脳出血を起こしたり、血流が滞って脳梗塞を発症します。
⚠️冬の危険シーン Top5
- 起床直後の冷えた寝室
- 脱衣所・浴室の温度差
- トイレでのいきみ
- 帰宅直後に熱い風呂へ直行
- 風邪・脱水時の入浴や飲酒
これらが重なると、いわゆる「ヒートショック」と呼ばれる危険な血圧スパイクが起きます。
脳卒中は後遺症が大きく、何よりも予防が重要です。
🔹2. 心臓 ― 心不全・心筋梗塞
高血圧が続くと、心臓は硬くなった血管へ血液を送り出そうと強く働き続けます。
その結果、心筋が厚くなり(左室肥大)心不全へ進行します。
寒冷刺激による冠動脈の収縮も、狭心症や心筋梗塞の原因になります。
特に高齢者に多い「HFpEF(左室駆出率保たれた心不全)」では、寒さによる血圧上昇や交感神経の刺激が心臓の負担を増やし、症状を悪化させることがあります。
🔹3. 腎臓 ― 高血圧性腎障害
腎臓は糸球体という細い血管の集まりでできており、血圧が高い状態が続くと血管が硬くなってろ過機能が低下します。
これが高血圧性腎硬化症です。
冬は脱水や塩分摂取過多も重なり、腎臓への負担がさらに増します。
血圧と腎臓は互いに悪循環を起こします。
「血圧が高い → 腎機能が低下 → さらに血圧が上がる」というループを、早めに断つことが大切です。
第4章 冬の血圧を安定させる生活習慣 ― 今日からできる7つの対策
JSH2024でも、「環境調整・減塩・適度な運動」が最も重要な非薬物療法とされています。
ここでは、今日から取り入れられる7つの対策をご紹介します。
① 室温を18〜20℃程度に保ち、寒暖差を減らす
脱衣所やトイレの温度差をなくすことが、ヒートショック予防の第一歩です。
暖房やヒーターを使って、家の中全体を適温に保ちましょう。
② 起床時はゆっくり体を動かす
布団の中で軽くストレッチしてから起き上がるだけで、急激な血圧上昇を防げます。
寒い季節ほど、体を慣らしながら起きる意識が大切です。
③ 入浴前に脱衣所・浴室を温め、お湯は40℃前後に
熱すぎるお湯は急な昇圧を招きます。
湯に入る前に手足を温めて慣らすなど、温度のギャップを減らしましょう。
④ 水分補給を忘れずに
暖房や乾燥で気づかないうちに脱水が進みます。
白湯などを少量ずつ、こまめにとることを習慣にしましょう。
⑤ 減塩を意識する
日本人の平均塩分摂取量は約10g/日。
JSH2024では6g未満が目標です。
出汁や香辛料を使い、「減塩=味気ない」という印象を変えていきましょう。
⑥ 適度な運動を続ける
軽いウォーキングや室内ストレッチで、血管の柔軟性を保ちます。
朝の冷え込み時は避け、日中の暖かい時間帯に行いましょう。
※心疾患や高血圧が十分にコントロールされていない場合は、運動強度を医師に確認しましょう。
⑦ 睡眠とストレス管理
睡眠不足やストレスは交感神経を刺激し、血圧を上げます。
夜はぬるめの入浴や深呼吸でリラックスし、質のよい睡眠を心がけましょう。
第5章 家庭血圧の正しい測定と冬の記録の工夫
🔹測定タイミング
- 朝:起床後1時間以内(排尿後・朝食前・服薬前)
- 夜:就寝前(入浴・飲酒後は30分以上あける)
🔹測定条件
室温18〜20℃を保ち、手足が冷えた状態では測定しないようにします。
厚着の上からではなく、素肌に近い腕にカフを巻き、静かに1〜2分安静にしてから測定します。
🔹記録と評価
アプリや血圧手帳で記録し、1週間の平均値を確認します。
朝と夜の差が大きい場合は、動脈硬化や自律神経の異常が隠れていることもあるため、気になる場合は医師へ相談を。
🔹家庭血圧の目標値(JSH2024準拠)
血圧の目標は年齢や体調、持病によって異なります。
JSH2024では、まず安全に135/85 mmHg未満を目指し、最終的には125/75 mmHg未満を理想目標としています。
| 区分 | 目標(家庭血圧) | 補足 |
|---|---|---|
| 若年〜前期高齢者 | <125/75 mmHg(理想) | 段階的に到達を目指す |
| 後期高齢者(健康・非フレイル) | <135/85 mmHg(目標) | 状態が良ければ125/75 mmHgを目指す |
| 後期高齢者(フレイル・起立性低血圧あり) | <145/85 mmHg(参考値) | 安全を優先 |
| CKD・糖尿病合併 | <125/75 mmHg(厳格管理) | 腎・心血管保護に重要 |
※体力や臓器機能が保たれていれば、年齢を問わず125/75 mmHg未満を最終目標とします。
過度な降圧でふらつきなどがある場合は、医師と相談しながら調整してください。
🔹医師との共有
家庭血圧を記録して医師に見せることで、季節や体調に合わせた薬の調整が可能です。
「冬にだけ高い」「朝だけ上がる」などのパターンを把握でき、治療の精度が高まります。
第6章 まとめ・FAQ・受診案内
🔹まとめ
冬は血圧が上がりやすく、脳・心臓・腎臓の合併症リスクが高まる季節です。
環境調整・減塩・家庭血圧記録を意識すれば、血圧変動を最小限に抑えられます。
冬の血圧ケアは、春以降の健康寿命を守るための大切な投資です。
🔹よくある質問(FAQ)
Q1:冬に血圧が上がるのは自然なことですか?
→ 一時的な上昇は自然な反応です。ただし、朝の家庭血圧が135/85mmHg以上、夜の測定でやや高め(120/70mmHg以上)が続く場合は要注意です。
※夜は体が休息モードになるため、血圧は自然に下がるのが正常です。年齢や疾患によって目標値は異なるため、自己判断せず医師にご相談ください。
Q2:血圧が高くても症状がなければ大丈夫?
→ 自覚症状がなくても血管は確実に傷ついています。放置せず早めに受診を。
Q3:薬は冬だけ増やすことがありますか?
→ あります。季節変動に応じて医師が調整することがあります。家庭血圧の記録が重要です。
Q4:入浴時の注意点は?
→ 脱衣所・浴室を暖め、湯温は40℃前後で10分以内が目安です。急に立ち上がらず、入浴後は水分補給を忘れずに。
Q5:運動はどの時間帯が良いですか?
→ 朝の寒い時間帯は避け、日中の暖かい時間帯に行いましょう。軽いウォーキングで十分です。
🔹受診の目安
- 朝の家庭血圧平均が135/85 mmHg以上の状態が1〜2週間続く
- 胸痛・息切れ・動悸・強い頭痛・めまいがある
- 失神・ふらつき、脳心血管イベントの既往がある
上記に該当する場合は、早めに医療機関へご相談ください。
冬の血圧管理・高血圧のご相談は当院へ
- 冬になると血圧が高くなる方
- 家庭血圧で135/85mmHg以上が続く方
- 脳・心・腎の合併症を予防したい方
尾張旭市・瀬戸市エリアで「腎臓×生活習慣病」を専門に診療しています。
お気軽にご相談ください。
🔹参考文献
- 日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2024(JSH2024)
- 日本腎臓学会:CKD診療ガイド2023/KDIGO 2021
- 日本動脈硬化学会:脂質異常症ガイドライン2022(JAS2022)
- American Heart Association, Seasonal variation in blood pressure and cardiovascular events, 2022
🔹免責事項
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、診断や治療の代替ではありません。
症状や血圧変動が気になる場合は、必ず医師にご相談ください。
