あなたの腎臓、今どんな状態?〜慢性腎臓病(CKD)を正しく知って、健康を守りましょう〜
腎臓は体の「ろ過装置」
腎臓は背中側の腰のあたりに左右1つずつある、ソラマメの形をした臓器です。血液をろ過して、いらないものや余分な水分を尿として出す大切な役割があります。
主な役割は以下の通りです:
- 血液をろ過して、体に不要な老廃物や余分な水分を尿として排出
- 血圧の調整
- 骨を強くするビタミンDの活性化
- 赤血球をつくるホルモン(エリスロポエチン)の分泌
こうした働きがあるため、腎臓が悪くなると全身にさまざまな影響が出てきます。
慢性腎臓病(CKD)とは?
慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)は、「腎臓の働きが60%未満に低下する」または「尿にたんぱくが出る」などの異常が、3か月以上続いている状態を指します。
そしてこのCKDは、“ステージ(G1〜G5)” という分類で進行の程度を評価します。
特に、高血圧や糖尿病、脂質異常症などを持っている人は、知らないうちに腎臓が悪くなっていることがあります。
腎臓の状態は「ステージ」でわかる
腎臓の機能は、**eGFR(推算糸球体ろ過量)**という血液検査で調べることができます。数字が高いほど腎臓がよく働いている状態で、低いほど機能が落ちています。
ステージ | eGFRの目安 | 腎臓の状態 |
---|---|---|
G1 | 90以上 | 正常(要観察) |
G2 | 60~89 | やや低下(経過観察) |
G3a | 45~59 | 軽度〜中等度の低下 |
G3b | 30~44 | 中等度〜高度の低下 |
G4 | 15~29 | 高度の低下(専門的治療が必要) |
G5 | 15未満 | 末期腎不全(透析や移植が必要に) |
年齢とともにeGFRは自然に低下しますが、たとえば70歳でeGFRが55なら「G3a」にあたり、腎機能が少し低下していると考えられます。
尿たんぱくも重要なサイン
血液の検査だけでなく、「尿にたんぱくが出ているか」も重要です。本来、たんぱく質は尿に出てきませんが、腎臓が傷むと漏れ出してしまいます。尿たんぱくが陽性であれば、腎臓に負担がかかっている可能性があり、早めの対処が必要です。
症状が出ないまま進行するこわさ
腎臓は「沈黙の臓器」と言われ、自覚症状が出にくいのが特徴です。だるさ、むくみ、夜間の頻尿など、気づきにくいサインから始まり、気づいたときにはステージ4〜5になっていたということも少なくありません。
生活習慣病との関係
糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病は、腎臓に大きなダメージを与えます。特に糖尿病による腎臓のダメージ(糖尿病性腎症)は、日本で透析が必要になる最大の原因です。
生活習慣病をしっかり治療することが、腎臓を守ることにもつながります。
ステージ別に見る注意点と対応
それぞれの段階で、気をつけることや治療のポイントは異なります。
【ステージG1〜G2】
「腎機能は保たれているが、腎障害のサインがある段階」
気をつけるポイント:
- 尿アルブミンや尿潜血が陽性でも、eGFRが正常な場合は見逃されがち。
- 高血圧、糖尿病、肥満、喫煙などがあると、進行リスクが高まる。
- 尿検査・血液検査の定期的なチェックが重要。
対策:
- 生活習慣の見直し(減塩、節酒、禁煙、適正体重の維持)。
- 血圧の厳格な管理(収縮期<130mmHg、拡張期<80mmHgを目標)。
- 糖尿病がある場合、HbA1c<7.0%(または個別化目標)を維持。
- アルブミン尿陽性であれば、**RA系阻害薬(ACE阻害薬またはARB)**の使用を検討(KDIGO 2021推奨)。
【ステージG3a】
「腎機能がやや低下し始めた段階」
気をつけるポイント:
- 明確な症状はまだ出にくいが、心血管疾患のリスクが上昇。
- CKDの進行因子(高血圧、糖尿病、蛋白尿、脂質異常)への対応が必要。
- 服薬管理(腎排泄型薬剤の投与量調整)が必要になることも。
対策:
- ACE阻害薬またはARBを、蛋白尿がなくても検討(予防的観点)。
- LDL-C管理(スタチン投与):動脈硬化予防のために重要(SHARP試験などで効果が示唆)。
- NSAIDs(痛み止め)の長期使用は避ける。
- サプリメントや漢方薬の安易な使用にも注意。
【ステージG3b】
「中等度の腎機能障害、合併症のリスク増加」
気をつけるポイント:
- 尿酸上昇、貧血(腎性貧血)、リン・カルシウム代謝異常が出始める。
- 骨・心血管系の合併症(CKD-MBD)の予兆に注意。
対策:
- 腎性貧血のスクリーニング(Hb値、フェリチン、TSAT)。
- 活性型ビタミンDやカルシウム製剤の導入(PTH抑制目的)。
- 尿中Na排泄や食塩摂取量の把握(目標:1日6g未満)。
- 定期的な栄養評価(過剰なタンパク制限による低栄養に注意)。
【ステージG4】
「高度な腎機能障害、透析準備の開始を検討する段階」
気をつけるポイント:
- 高K血症、代謝性アシドーシス、重度の貧血などが出現しやすい。
- 感染症や心血管イベントによる入院が増加するステージ。
- 医師との密な連携が不可欠。
対策:
- 透析導入に向けた準備(シャント作成のタイミング含む)を早期に開始。
- 尿毒素の蓄積に伴う症状(倦怠感、吐き気、かゆみなど)をモニター。
- エリスロポエチン製剤の導入(貧血の治療)。
- 炭酸水素ナトリウムによるアシドーシスの補正(evidence: de Brito-Ashurst, JASN 2009)。
【ステージG5】
「末期腎不全:透析や腎移植を選択する段階」
気をつけるポイント:
- 生命維持のための腎代替療法(透析・移植)についての意思決定が必要。
- 栄養・水分管理、服薬調整がさらにシビアに。
- QOL(生活の質)をどう確保するかも大きなテーマ。
対策:
- 透析開始のタイミングは、「症状出現」かつ「eGFR10未満」を目安に判断(KDIGO)。
- 腹膜透析・血液透析・保存的治療(透析しない選択)など、患者の価値観に沿った説明が重要。
- 栄養指導の強化:エネルギー確保とたんぱく制限のバランス。
- 緩和ケアの視点の導入も検討される段階。
どの段階でも生活改善がカギ
- 減塩(1日6g未満):血圧やむくみの管理に役立ちます。
- 適度な運動:週3〜5回の軽い運動(30分程度)が推奨されます。
- 体重管理:適正な体重(BMI 18.5〜24.9)を維持しましょう。
- 禁煙:腎臓や心臓、がんのリスクを下げます。
薬の確認:サプリや市販薬も含め、主治医に相談を。
当院でできること
当クリニックでは、腎臓の専門医が以下のような対応を行っています:
- 血液・尿検査による腎機能チェック
- ステージ判定と進行予測
- 食事・生活指導、薬の調整
- 糖尿病や高血圧などの包括的管理
- 専門病院との連携や紹介
健診で「腎機能が気になる」と言われた方は、お早めにご相談ください。
まとめ 〜今がチャンスです〜
腎臓病は、早く見つけて対処すれば進行を遅らせることができます。逆に、気づかずに放っておくと、透析や入院が必要な状況になってしまうこともあります。
「年だから仕方ない」とあきらめず、自分の体の状態を知ることから始めましょう。当院では、皆さまの健康を守るお手伝いをしています。ぜひ一度、お気軽にご相談ください。