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糖尿病の基礎知識|症状がなくても知っておきたい合併症と早期対策

第1章|なぜ糖尿病は「症状がなくても」放置してはいけないのか

健診で
「血糖値が高めですね」
「HbA1cが少し上がっています」
と言われたものの、特に体調は悪くない。

このような状態で、「とりあえず様子見でいいかな」と感じる方は少なくありません。

糖尿病の特徴は、初期にはほとんど自覚症状がないことです。

喉が渇く、体重が急に減る、といった症状が出るのは、血糖がかなり高くなってからのことも多く、「異常がある」と指摘された段階では、日常生活に支障を感じない方がほとんどです。

しかし、症状がないからといって、体の中で何も起きていないわけではありません。

血糖値が高い状態が続くと、血管の内側が少しずつ傷ついていきます。この変化はゆっくり進むため、痛みや違和感としては感じにくいのが特徴です。

血管は、全身に酸素や栄養を届ける大切な通り道です。

この通り道が傷つくと、目・腎臓・神経といった細い血管の多い臓器だけでなく、心臓や脳といった命に関わる臓器にも影響が及びます。

糖尿病が「血管の病気」と言われる理由は、ここにあります。

健診で見つかる血糖値やHbA1cの異常は、症状が出る前に体が発しているサインです。

この段階で向き合うことができれば、将来の合併症を防げる可能性は十分にあります。

一方で、「今は困っていないから」と放置してしまうと、気づかないうちに血管へのダメージが積み重なり、ある日突然、視力低下や腎機能低下、心筋梗塞や脳梗塞といった形で表面化することがあります。

糖尿病は、症状が出てから治療する病気ではありません。

症状がない今こそが、向き合う最適なタイミングです。

この先の章では、糖尿病とはどのような病気なのか、そして合併症を防ぐために何ができるのかを、できるだけ分かりやすくお伝えしていきます。

第2章|糖尿病とはどんな病気か

糖尿病を理解するうえで、まず知っておきたいのが「血糖値」と「HbA1c」という言葉です。

どちらも健診結果でよく目にしますが、意味が分からないまま数字だけを見て、不安になったり、逆に深く考えなかったりする方も多いのではないでしょうか。

血糖値とHbA1cの違い

血糖値とは、血液の中にどれくらいブドウ糖が含まれているかを示した数値です。

食事をすると血糖値は上がり、時間が経つと下がる、というのが正常な動きです。そのため、血糖値は「その時点の状態」を表す指標と言えます。

一方、HbA1cは、過去1〜2か月の血糖の平均的な状態を反映する指標です。

一時的に血糖値が正常でも、普段から高い状態が続いていればHbA1cは高くなります。健診でHbA1cが指摘されるのは、「最近しばらく血糖が高めの状態が続いていますよ」というサインなのです。

インスリンの働きをイメージしてみましょう

血糖を下げるうえで欠かせないのが「インスリン」というホルモンです。

インスリンは、血液中のブドウ糖を、筋肉や肝臓などの細胞の中へ取り込む役割を担っています。

よく使われるたとえとして、

  • ブドウ糖=エネルギーの荷物
  • インスリン=扉を開ける鍵

と考えてみてください。

鍵(インスリン)がしっかり働いていれば、荷物(ブドウ糖)は細胞の中にスムーズに入ります。ところが糖尿病では、この鍵がうまく効かなかったり、数が足りなかったりするため、荷物が血液の中にあふれたままになってしまいます。これが高血糖の状態です。

2型糖尿病と生活習慣の関係

日本人に多いのは「2型糖尿病」です。

これは、インスリンの出が少なくなったり、効きが悪くなったりすることで起こります。

背景には、

  • 食事の量や内容の偏り
  • 運動不足
  • 体重増加
  • 加齢

などが関係しています。

ただし、「生活習慣が原因」と言われると、自分のせいだと感じてしまう方も少なくありません。実際には、体質や年齢の影響も大きく、誰にでも起こりうる病気です。

これまで問題なかった方でも、年齢とともに血糖が上がってくることは珍しくありません。

糖尿病は「血糖値だけの病気」ではない

糖尿病というと、「甘いものを食べすぎる病気」「血糖値が高い病気」というイメージが先行しがちです。しかし本質は、血糖が高い状態が長く続くことで、体のさまざまな部分に負担がかかる病気だという点にあります。

特に影響を受けやすいのが血管です。

血管は目に見えませんが、全身に張り巡らされており、糖尿病の進行とともに少しずつダメージを受けていきます。

このあと解説する合併症は、いずれもこの「血管へのダメージ」が深く関係しています。

まずは、糖尿病がどのような仕組みで起こるのかを理解することが、将来の不安を減らす第一歩になります。

第3章|糖尿病で起こる主な合併症

糖尿病について調べ始めたとき、多くの方が気になるのが「合併症」ではないでしょうか。

合併症という言葉から、「失明」「透析」「大きな病気」といった不安を思い浮かべる方も少なくありません。

糖尿病の合併症は、大きく分けて
細い血管が障害されるもの(細小血管障害)と、
太い血管が障害されるもの(大血管障害)の2種類があります。

いずれも共通しているのは、高血糖が長く続くことで血管が傷つくことが原因で起こるという点です。

細小血管障害|目・腎臓・神経への影響

血管の中でも特に細い血管は、高血糖の影響を受けやすいとされています。

代表的なのが、目・腎臓・神経に起こる合併症です。

外来では、覚えやすいように
「し(神経)・め(目)・じ(腎臓)」=「しめじ」
とまとめて説明されることもあります。

これらは必ずしも決まった順番で起こるわけではなく、人によって前後したり、同時に進行したりすることがある点が重要です。

目の合併症(糖尿病網膜症)

目の奥にある網膜には、非常に細かい血管が張り巡らされています。

高血糖が続くと、これらの血管が傷つき、視力低下や視野障害を引き起こすことがあります。

初期には自覚症状がほとんどなく、
「見えにくくなってから気づく」
「健診や眼科検査で初めて指摘される」
といったケースも少なくありません。

腎臓の合併症(糖尿病性腎症)

腎臓は、血液をろ過して老廃物を尿として排出する臓器です。

糖尿病による腎臓の障害は、まず尿にたんぱくが出ることから始まり、徐々に腎機能が低下していきます。

腎臓の合併症は自覚症状が出にくいのが特徴で、
気づいたときには進行している場合もあります。

進行すると、透析治療が必要になることもあり、生活への影響が大きくなる可能性があります。

神経の合併症(糖尿病神経障害)

神経の合併症では、手足のしびれ、ピリピリした痛み、感覚の鈍さなどが現れます。

特に足の感覚が低下すると、靴ずれや小さな傷に気づきにくくなり、傷が治りにくくなる原因にもなります。

日常生活の中での違和感として現れることが多いため、
「年齢のせい」「疲れのせい」と見過ごされやすい点にも注意が必要です。

大血管障害|命に関わる合併症

糖尿病で特に注意が必要なのが、太い血管が障害される合併症です。

これらは、命に関わる病気につながる可能性があります。

心筋梗塞

心臓の血管が詰まることで、強い胸の痛みや息切れを引き起こします。

糖尿病のある方では動脈硬化が進みやすく、心筋梗塞のリスクが高まることが知られています。

脳梗塞

脳の血管が詰まり、手足のまひや言葉が出にくくなるなどの症状が現れます。

後遺症が残る場合もあり、その後の生活に大きな影響を及ぼすことがあります。

足の血流障害

足の血管が狭くなり、歩くと痛くなる、冷たく感じるといった症状が出ます。

進行すると、傷が治らず感染を起こすこともあります。

合併症は「突然起こる」わけではありません

これらの合併症は、ある日突然起こるものではありません。

数年から十数年という時間をかけて、高血糖による血管のダメージが静かに積み重なった結果として現れることが多いのが特徴です。

だからこそ、症状がない段階から血糖を管理し、血圧や脂質も含めて整えていくことが重要です。

合併症は怖いものですが、早い段階で向き合うことで、リスクを下げることができるという点も、ぜひ知っておいていただきたいポイントです。

第4章|なぜ糖尿病は合併症を引き起こすのか

糖尿病で起こる合併症の多くは、偶然や体質だけで起こるものではありません。

その背景には、高血糖が血管に与える影響があります。

高血糖が続くと、血管はどうなるのか

血管の内側は、本来とてもなめらかで、血液がスムーズに流れる構造になっています。

しかし血糖値が高い状態が長く続くと、血管の内側が少しずつ傷つき、硬く、もろくなっていきます。

これは、
「きれいだった水道管の内側に、少しずつ汚れやサビが付着していく」
ような状態にたとえることができます。

この変化はゆっくり進むため、本人が自覚することはほとんどありません。しかし、長い時間をかけて血管の働きを確実に低下させていきます。

高血圧・脂質異常症が加わるとどうなるか

糖尿病に加えて、高血圧や脂質異常症があると、血管への負担はさらに大きくなります。

  • 高血圧:血管の内側に常に強い圧力がかかる
  • 脂質異常症:血管の壁に脂肪がたまりやすくなる

これらが重なることで、血管の傷みは一気に進みやすくなります。

その結果、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞といった大きな病気につながるリスクが高まります。

つまり、糖尿病の合併症は「血糖値だけの問題」ではなく、複数の生活習慣病が影響し合った結果として起こるのです。

なぜ「総合的な管理」が大切なのか

血糖値の管理はとても重要ですが、それだけでは十分とは言えません。

血圧や脂質の管理が不十分なままでは、血管への負担が残ってしまうことがあります。

そのため、糖尿病では血糖・血圧・脂質をまとめて整えていくことが、合併症予防につながります。

そのため、糖尿病の治療では

  • 血糖
  • 血圧
  • 脂質
  • 生活習慣

をまとめて見ていく視点が欠かせません。

糖尿病は単独で存在する病気ではなく、生活習慣病の一部として体全体に影響を及ぼします。

このことを理解することが、合併症を防ぐための大切な第一歩になります。

第5章|合併症を防ぐための早期対策とは

糖尿病と聞くと、「一度なったら大変」「将来が心配」といったイメージを持たれる方も多いかもしれません。

しかし実際には、早い段階から適切に向き合うことで、合併症を防いだり、進行を遅らせたりすることは十分可能です。

大切なのは、「重症になってから何とかする」のではなく、今の段階で何ができるかを考えることです。

早期から対策を始めるメリット

糖尿病の初期や、まだ軽度の段階では、

  • 血管のダメージが比較的少ない
  • 生活習慣の見直しが効果を発揮しやすい
  • 治療の選択肢が広い

といった特徴があります。

この時期に対策を始めることで、
将来の腎臓病、視力低下、心筋梗塞や脳梗塞といった合併症のリスクを、長期的に下げることが期待できます。

「まだ軽いから大丈夫」ではなく、「まだ軽い今だからこそできることがある」と考えることが大切です。

HbA1cの目標値は人それぞれ

糖尿病治療では、HbA1cという数値がひとつの目安になります。

ただし、この目標値はすべての人に同じ数字が当てはまるわけではありません。

年齢、持病の有無、低血糖のリスク、生活状況などを考慮しながら、その人にとって無理のない目標を設定することが重要です。

数字だけを追いかけるあまり、体調を崩してしまっては本末転倒です。

治療の目的は「数値をきれいにすること」ではなく、安全に日常生活を続けながら、将来のリスクを減らすことにあります。

食事療法・運動療法は「できることから」

食事や運動と聞くと、「厳しい制限」「頑張らなければいけないもの」という印象を持たれる方も少なくありません。

しかし、糖尿病の対策は完璧を目指す必要はありません。

  • 食べ方を少し工夫する
  • 歩く時間を少し増やす
  • 続けられない方法は無理にやらない

こうした小さな積み重ねが、血糖管理には大きな意味を持ちます。

「頑張れない自分はだめだ」と感じる必要はありません。

続かない対策より、続けられる対策の方が、結果的に体を守ってくれます。

薬物療法は「失敗」ではない

薬を使うことに対して、
「最後の手段」「できれば避けたい」
と感じる方も多いかもしれません。

しかし、薬物療法は体を守るための選択肢のひとつです。

早い段階で薬を使うことで、血管への負担を軽減し、合併症のリスクを下げられる場合もあります。

また、状態が改善すれば、薬を減らしたり、中止できる可能性があることもあります。

薬を使うこと=一生続く、というわけではありません。

「頑張らせる治療」ではなく「続けられる治療」

糖尿病は、短期間で終わる病気ではありません。

だからこそ大切なのは、無理なく続けられる治療です。

生活背景や考え方は人それぞれ異なります。

治療は、医師と相談しながら、その人の生活に合った形で進めていくものです。

早期から適切な対策を行うことは、
「将来の自分に余裕を残すこと」
につながります。

第6章|糖尿病治療についてよくある質問(FAQ)

糖尿病について説明を受けた際、多くの方が同じような疑問や不安を抱かれます。

ここでは、診療の現場でよくいただく質問を中心に、分かりやすくお答えします。

Q1.薬を始めたら、一生やめられないのでしょうか?

必ずしもそうではありません。

糖尿病の治療は、状態に応じて見直していくものです。

生活習慣の改善や体重の変化によって血糖が安定すれば、薬を減らしたり、中止できる場合もあります。

大切なのは、「薬を使うかどうか」ではなく、今の体を守るために何が必要かを考えることです。

Q2.インスリン治療になると、重症ということですか?

インスリンは、「最後の手段」や「重症の証拠」というわけではありません。

一時的に血糖をしっかり下げるために使われることもあり、体を守るための選択肢のひとつです。

状態が落ち着けば、インスリンを減らしたり、他の治療に切り替えることもあります。

必要な時に適切に使うことが重要です。

Q3.健診で指摘されたけれど、様子見でも大丈夫ですか?

一度の健診結果だけで、すぐに治療が必要とは限りません。

ただし、異常が続いている場合や、他の生活習慣病を伴っている場合は、医療機関での評価をおすすめします。

「治療を始めるかどうか」ではなく、
「今の状態を正しく知る」
という意味でも、相談には大きな価値があります。

Q4.血糖値が下がれば、合併症は起こりませんか?

血糖管理は非常に重要ですが、それだけで十分とは言えません。

糖尿病の合併症は、血圧や脂質の状態とも深く関係しています。

そのため、

  • 血糖
  • 血圧
  • コレステロール

をまとめて管理することが、合併症予防につながります。

Q5.自覚症状がないのに、治療する意味はありますか?

はい、大いにあります。

糖尿病は、症状がない時期から血管へのダメージが始まる病気です。

症状が出てからでは、すでに合併症が進行していることもあります。

だからこそ、「何も困っていない今」の対策が、将来の安心につながります。

第7章|当院における糖尿病管理の考え方

当院では、糖尿病の管理を「血糖値の数字だけを見る治療」とは考えていません。

血糖はもちろん大切ですが、それと同時に、腎臓の状態、血圧、脂質、体重、生活習慣などを含めて、体全体を見ながら診療を行うことを大切にしています。

糖尿病は、腎臓病や高血圧、脂質異常症と深く関係する病気です。

そのため、一つの数値だけを良くするのではなく、将来の合併症を防ぐ視点で、総合的に管理していくことが重要だと考えています。

また、治療は一律ではありません。

年齢、仕事や家庭の状況、通院のしやすさ、薬への考え方など、生活背景は人それぞれ異なります。

当院では、「こうしなければならない」と一方的に押し付けるのではなく、無理なく続けられる方法を一緒に考えることを重視しています。

「すぐに薬を始めるのか」「まず生活習慣から見直すのか」
そうした判断も含めて、患者さんの状態や希望を踏まえながら、丁寧に相談していく姿勢を大切にしています。

糖尿病は、長く付き合っていく可能性のある病気です。

だからこそ、安心して相談できる関係づくりが何より重要だと考えています。

第8章|まとめ:糖尿病は早く向き合えば、将来は大きく変えられる

糖尿病は、症状がほとんどないまま進行する病気です。

そのため、「今は困っていないから大丈夫」と感じてしまいがちですが、体の中では血管への負担が少しずつ積み重なっていきます。

一方で、健診で指摘された段階や、まだ軽度のうちに向き合うことができれば、
合併症のリスクを下げ、将来の選択肢を広げることが期待できます。

糖尿病は、「放置すると怖い病気」であると同時に、「早く対策すれば守れる病気」でもあります。

大切なのは、完璧を目指すことではありません。

今の状態を知り、できることから少しずつ整えていくことが、将来の安心につながります。

「治療が必要か分からない」
「まず話を聞いてみたい」

そのような段階でも構いません。

今からでも、十分に間に合います。気軽な相談が、将来を守る第一歩になります。

医療免責文

本記事は、糖尿病に関する一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。症状や検査結果、治療方針については、必ず医療機関で医師にご相談ください。