糖尿病性腎症とは
高血糖によって腎臓が少しずつ傷つく病気で、日本で透析が必要になる原因の第1位です。原因・症状・進み方・検査・予防を、腎臓専門医の視点でやさしく整理しました。
健診や通院で「尿にたんぱく(アルブミン)が出ている」「腎機能(eGFR)が下がってきた」と言われて、このページにたどり着いた方も多いと思います。糖尿病性腎症は、自覚症状がないまま静かに進むことが最大の特徴です。だからこそ、症状のない今のうちに「どんな病気で、どう進み、何をすれば守れるのか」を正しく理解しておくことが、将来の腎臓を守る第一歩になります。
- 糖尿病性腎症は、日本で透析が必要になる原因の第1位です。ただし早く気づいて管理すれば、進行を大きく遅らせることができます。
- 初期は自覚症状がほとんどありません。尿アルブミンとeGFRの小さな変化が、唯一の“気づきのサイン”になります。進み具合は病期分類という物差しで確認します。
- 腎臓を守るカギは、血糖・血圧・尿たんぱく(アルブミン尿)の3つを同時に整えること。当院は腎臓専門医の視点から総合的に管理します。
糖尿病性腎症とは?
糖尿病性腎症とは、糖尿病による高血糖が長い時間をかけて腎臓に及び、少しずつ腎機能が低下していく病気です。腎臓は、血液をろ過して老廃物や余分な水分を尿として排出するほか、血圧の調整・体内の水分やミネラルのバランス保持・赤血球をつくるホルモンの分泌など、生命維持に欠かせない働きを担っています。糖尿病性腎症が進むと、これらの働きが少しずつ損なわれていきます。
糖尿病性腎症は、慢性腎臓病(CKD)の代表的な原因の一つです。ある日突然起こるのではなく、気づかないうちに静かに進行する点が特徴で、典型的には尿にアルブミンが漏れ出す変化が先にあらわれ、そのあとに腎機能(eGFR)が低下していくという経過をたどります。
なお、近年は「糖尿病関連腎臓病(DKD)」という言葉を目にする機会も増えました。これは糖尿病性腎症と完全に同じ意味ではなく、より広い考え方です。両者の関係は次の章で整理します。
日本では、新たに透析を始める方の原因の第1位が糖尿病性腎症で、全体の約4割を占めます。一方で、初期の段階で気づき、血糖・血圧・尿たんぱくを適切に管理できれば、透析に至るまでの進行を大きく遅らせることが可能です。「症状がないから大丈夫」ではなく、「症状がない今だからこそできることがある」病気です。
糖尿病性腎症と糖尿病関連腎臓病(DKD)は同じ?——まぎらわしい用語の整理
糖尿病と腎臓の病気には、似た言葉がいくつもあります。「糖尿病性腎症」「糖尿病関連腎臓病(DKD)」「慢性腎臓病(CKD)」——いずれも関係はありますが、指している範囲がそれぞれ違います。ここを整理しておくと、検査結果の説明や診断名が理解しやすくなります。
① 糖尿病性腎症と糖尿病関連腎臓病(DKD)の違い
糖尿病性腎症と糖尿病関連腎臓病(DKD)は、完全に同じ意味ではありません。
糖尿病性腎症では、一般に尿アルブミンが増え、その後に腎機能が低下していく経過がよく知られています。長く使われてきた病名で、病期分類もこの名称で整理されています。
一方、糖尿病がある方の中には、尿アルブミンがあまり増えないまま腎機能が低下していく方もいます。こうした非典型的な経過も含めて、糖尿病と関連する腎臓の障害をより広く捉える概念が「糖尿病関連腎臓病(DKD)」です。
糖尿病関連腎臓病(DKD)という大きな輪の中に、糖尿病性腎症が含まれている——というイメージが近いです。DKDのほうが広く、糖尿病性腎症はその中の典型的なタイプと考えてください。
なお、糖尿病がある方の腎機能低下がすべて糖尿病によるものとは限りません。腎機能が短期間で急に低下した場合、尿たんぱくが急に増えた場合、血尿など通常とは異なる所見がある場合には、腎炎や腎硬化症などほかの腎臓病が隠れていないか評価することが大切です。
以前は「糖尿病性腎臓病」という訳語が使われることもありましたが、現在はDKDの日本語訳として「糖尿病関連腎臓病」が用いられています(2023年10月)。当院のページでも、今後は「糖尿病関連腎臓病(DKD)」の表記に統一しています。
② 糖尿病性腎症と慢性腎臓病(CKD)の違い
慢性腎臓病(CKD)は、原因を問わず「腎機能の低下やアルブミン尿・たんぱく尿が3か月以上続いている状態」を指す、いわば総称です。腎炎でも、腎硬化症でも、多発性のう胞腎でも、条件を満たせばCKDに当てはまります。
つまり、糖尿病性腎症はCKDの代表的な原因・病態の一つという関係です。アルブミン尿など腎障害を示す所見、またはeGFR 60未満が3か月を超えて続く場合には、CKDに該当します。診療の場面で両方の言葉が出てくるのは、そのためです。
③ 糖尿病と糖尿病性腎症の違い
糖尿病は血糖が高くなる病気そのもの、糖尿病性腎症はその糖尿病によって腎臓に起きた合併症です。糖尿病があるからといって、全員が糖尿病性腎症になるわけではありません。血糖・血圧の管理状況、糖尿病の期間、体質などによって、腎臓への影響の出方は一人ひとり異なります。
| 言葉 | 指しているもの |
|---|---|
| 糖尿病 | 血糖が高い状態が続く病気そのもの |
| 糖尿病性腎症 | 糖尿病による腎臓の合併症。典型的にはアルブミン尿が増えたあと腎機能が低下していくタイプ |
| 糖尿病関連腎臓病(DKD) | 糖尿病に関連する腎障害をより広く捉えた概念。アルブミン尿が目立たないまま腎機能が低下するタイプなども含む |
| 慢性腎臓病(CKD) | 原因を問わず、腎機能の低下やアルブミン尿・たんぱく尿が3か月以上続く状態の総称 |
呼び方は違っても、腎臓を守るためにやるべきことの基本は変わりません。血糖・血圧・尿たんぱくを整え、定期的に検査で確認していく——この点はどの言葉で呼ばれていても共通です。
なぜ腎臓が傷つくのか(仕組み)
腎臓の中には、血液をろ過する「糸球体(しきゅうたい)」という非常に細い血管のかたまりが無数にあります。高血糖の状態が続くと、この糸球体の細い血管が少しずつ傷つき、ろ過の働きが乱れていきます。
はじめは、糸球体が「働きすぎる」状態(糸球体過剰濾過)が起こります。一見よく働いているように見えますが、これは糸球体に高い圧力がかかり続けている状態で、やがて血管そのものを傷める原因になります。この負担が積み重なることで、まず尿にわずかなアルブミンが漏れ出し、少しずつ腎機能が低下していきます。
糖尿病による腎障害には、ここで説明した典型的な経過をたどらないタイプもあります。そうしたものも含めて広く捉えた概念が「糖尿病関連腎臓病(DKD)」です。糖尿病性腎症と完全に同じ意味ではなく、DKDのほうが広い範囲を指します。詳しくは用語の整理をご覧ください。
糖尿病性腎症の病態メカニズム(詳しく)
高血糖により糸球体の輸入細動脈が拡張し、糸球体内圧の上昇と過剰濾過が生じます。加えて、AGEs(終末糖化産物)による血管内皮・メサンギウム障害、RAA系(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)の活性化、酸化ストレスや炎症・線維化の亢進が複合的に関与します。これらによりメサンギウム基質の増加、糸球体基底膜の肥厚、結節性病変(Kimmelstiel-Wilson結節)などが進行し、最終的に糸球体硬化に至ります。臨床的には、アルブミン尿の出現が最も早期の変化として現れることが多く、その後にeGFRの低下が続きます。
糖尿病性腎症の病期分類(ステージ)——いま自分はどの段階か
糖尿病性腎症は、尿アルブミンの量と腎機能(eGFR)の組み合わせで段階を評価します。この物差しが「病期分類」です。いまどの段階にいるかが分かると、これから何に気をつければよいか、どのくらいの間隔で検査を受ければよいかがはっきりします。
まず、典型的な進み方のイメージ
正式な分類に入る前に、大まかな流れをつかんでおきましょう。多くの場合、次のような順序をたどります。
通常の尿検査では分からないことも多く、自覚症状はありません。腎臓からの「最初のサイン」です。
尿たんぱくが明確になり、腎臓への負担がさらに大きくなります。それでも自覚症状は出にくく、問題がないように感じられがちです。
むくみ・だるさ・貧血などが現れ始めます。この症状が出る頃には、すでにかなり進行している場合が少なくありません。さらに進むと透析が検討されます。
※これはあくまで典型的な進み方のイメージであり、正式な病期の区分ではありません。正式な分類は次の表のとおりです。
糖尿病性腎症病期分類(2023年版)
現在、日本で用いられている正式な分類です。尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)と eGFR の2つで判定します。
| 病期 | 尿アルブミン(UACR) または尿たんぱく(UPCR) | eGFR |
|---|---|---|
| 正常アルブミン尿期第1期 | UACR 30未満 | 30以上 |
| 微量アルブミン尿期第2期 | UACR 30〜299 | 30以上 |
| 顕性アルブミン尿期第3期 | UACR 300以上 または UPCR 0.5以上 |
30以上 |
| GFR高度低下・末期腎不全期第4期 | 問わない | 30未満 |
| 腎代替療法期第5期 | 透析療法中、または腎移植後 | |
単位:UACR は mg/gCr、UPCR は g/gCr、eGFR は mL/分/1.73m²。
※アルブミン尿が少ないのにeGFRが低下している場合などは、糖尿病性腎症以外の腎臓病がないか確認することも重要です。
日本腎臓学会・日本糖尿病学会「糖尿病性腎症病期分類2023」に基づく。
これはとても大切な点です。アルブミン尿が増えないまま、eGFRだけが低下していく方もいます。また、eGFRが30を下回った場合は、アルブミン尿の値にかかわらず第4期と判定されます。「まだ第1期だから安心」「順番に進むはずだから急に悪くはならない」とは考えず、アルブミン尿とeGFRの両方を定期的に確認することが必要です。
病期によって、注目するポイントが変わります
第1〜2期
自覚症状はありません。この時期に見つけて管理を始められると、進行を抑える効果がもっとも期待できます。年1回以上の尿アルブミン検査が重要です。
第3期
尿たんぱくを減らすこと自体が治療の目標になります。血圧・血糖の管理に加え、腎臓を守る薬の使い方が重要になってきます。
第4〜5期
貧血やカリウムなどの合併症の管理が加わります。腎臓専門医が関わるメリットが大きくなる時期です。
むくみやだるさといった自覚症状が出る頃には、すでに進行していることが多いのが糖尿病性腎症の特徴です。だからこそ、症状の有無で判断せず、検査値の変化を継続的に確認することが何より重要になります。
腎機能が下がってきた段階(第4期前後)で「これから何をすればよいか」については、進行期に絞って詳しく解説したページを用意しています。
糖尿病で透析を遅らせるには?eGFRが下がってきた段階でできること——腎保護薬・合併症管理・急な悪化の避け方CKD重症度分類(アルブミン尿区分A1〜A3・GFR区分G1〜G5)との関係
糖尿病性腎症病期分類2023は、CKDの重症度分類と対応づけて理解できます。尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)によるA1(30mg/gCr未満)・A2(30〜299)・A3(300以上)と、eGFRによるG1〜G5の組み合わせで評価し、アルブミン尿が高度(A3)であるほど、またeGFRがG3b以下に低下しているほど、末期腎不全および心血管イベントのリスクが上昇します。近年は、従来の典型的な糖尿病性腎症とは異なり、アルブミン尿の増加を伴わずにeGFRが低下する症例(nonalbuminuric DKD phenotype)も認識されています。こうした非典型的な腎障害を含めて捉えることが、糖尿病関連腎臓病(DKD)という包括的概念の背景の一つです。
あらわれる症状と、全身への影響
糖尿病性腎症は、早期には自覚症状がほとんどありません。しかし腎機能が低下してくると、身体のさまざまな部位に影響が現れます。ここでは「進行するとどんな症状が出るのか」「どんな合併症が起きるのか」を整理します。
① 腎臓由来の症状——むくみ・だるさ・夜間の頻尿
腎機能が低下してくると、体内の水分や塩分をうまく調整できなくなり、次のような症状が現れます。
むくみ
水分・塩分をうまく調整できなくなり、足や顔にむくみが出ます。
だるさ・貧血
老廃物の蓄積や、腎臓でつくるホルモン不足により、倦怠感や貧血が起こります。
夜間の頻尿
尿の濃縮力が落ち、夜間にトイレへ行く回数が増えることがあります。
このほか、腎機能の低下が進むと次のような症状もみられます。
- 食欲不振——老廃物が体内にたまることで、食欲が落ちることがあります
- 体重の減少——食事量の低下や、筋肉量の減少によって起こります
- 息切れ——貧血や体内の水分過剰によって、動いたときに息が切れやすくなります
- かゆみ——進行した段階で、皮膚のかゆみが出ることがあります
これらの症状は腎機能の低下に伴う典型的なものですが、実際にはかなり進行するまで気づかれにくいのが特徴です。むくみやだるさを自覚した時点で、すでに腎機能が大きく低下していることも珍しくありません。だからこそ、症状の有無ではなく検査値で確認することが重要になります。
② 心臓・血管の合併症——心不全・心筋梗塞・脳梗塞のリスク上昇
糖尿病性腎症は、腎臓だけの病気ではありません。腎機能の悪化とともに全身の血管にも障害が起こりやすく、心血管病(心筋梗塞・心不全・脳梗塞)の発症リスクが大きく上昇します。国際的な診療ガイドライン(KDIGO 2022)でも、糖尿病を伴う慢性腎臓病は心血管イベントの高リスク群として明確に位置づけられています。
とくに次のような場合、リスクはさらに高まります。
- アルブミン尿が高度(A3:UACR 300以上)の場合
- eGFRがG3b以下(45未満)に低下している場合
- 高血糖・高血圧・脂質異常が重なっている場合
糖尿病とCKDが重なると、動脈硬化や心臓への負担が増し、心筋梗塞・脳卒中・心不全などの心血管病のリスクが高まります。高血糖・高血圧・脂質異常が重なった「多重リスク状態」では、腎機能の低下と心血管病リスクが相乗的に高まります。
腎臓の状態は、全身の血管の状態を映す鏡でもあります。腎臓を守る取り組みは、そのまま心臓・脳を守ることにもつながります。アルブミン尿の増加や腎機能の低下は、心血管病のリスクが高いことを示す重要なサインでもあります。
③ 末期腎不全——透析が必要になることも
治療や管理が不十分なまま進行すると、最終的には腎臓が老廃物を十分に排泄できなくなり、腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)が必要になることがあります。
日本では、透析導入の原因の約4割が糖尿病性腎症であり、原因疾患の第1位です。ただし、ここまでの過程は年単位の時間をかけてゆっくり進むものであり、早い段階からの管理によって、その速度を大きく緩められる可能性があります。
「eGFRが下がってきた」と言われた段階でも、打つ手はあります。血圧・尿たんぱく・血糖の管理に加え、脱水や市販薬などによる急な悪化を避けることで、透析までの時間を引き延ばせる可能性があります。進行期の具体的な対策は、専用のページで詳しく解説しています。
※個々の病態により、進行の速さや症状のあらわれ方は大きく異なります。治療方針・目標値は必ず主治医の判断を優先してください。
検査・診断——どうやって見つけるのか
自覚症状のない糖尿病性腎症を早く見つけるには、定期的な検査が欠かせません。中心となるのは、次の2つの指標です。
① 尿アルブミン(尿ACR)——最も早く出るサイン
尿中に漏れ出すアルブミンの量を調べる検査で、糖尿病性腎症の最も早期の変化をとらえられます。通常の尿検査(尿たんぱく)では引っかからないごく初期の段階でも、尿アルブミン/クレアチニン比(ACR)を測ることで異常を見つけられます。
② eGFR(推算糸球体ろ過量)——腎臓のろ過力
血液中のクレアチニン値から、腎臓がどれくらいろ過できているかを推算した値です。数値が低いほど腎機能が低下していることを示します。
クレアチニンは腎機能の重要な指標ですが、糖尿病性腎症の初期では正常範囲にとどまっていることも少なくありません。血液検査だけで安心せず、尿アルブミン(尿検査)と合わせて評価することが、早期発見のうえで非常に重要です。
治療と予防——腎臓を守る3つの柱
糖尿病性腎症の進行を抑える基本は、血糖・血圧・尿たんぱく(アルブミン尿)の3つを同時に管理することです。どれか一つだけでは不十分で、3つの柱がそろってはじめて腎臓を守る力が最大になります。
血糖の管理
糸球体を傷つける負担を減らす基本。低血糖を避けながら、無理なく続けられる管理を目指します。
血圧の管理
腎臓病を合併する場合は130/80mmHg未満が目安。腎臓を守る大きな柱です。
尿たんぱくを減らす
アルブミン尿の減少は、腎臓と心臓を守ることに直結します。
① 血糖の管理——HbA1cの目安と個別化
血糖が高い状態が続くと、糸球体を傷つける負担が強まり、アルブミン尿が悪化します。血糖を整えることは、腎臓を守るうえでの土台です。
合併症予防のための一般的な目安は、HbA1c 7.0%未満です。ただしこれは全員に一律に当てはまる数字ではありません。年齢、低血糖のリスク、腎機能、併存する病気、治療内容などに応じて、目標は個別に設定します。
とくに腎機能が低下している方では注意が必要です。腎臓から排泄される薬やインスリンの作用が強く、長く出ることがあり、低血糖が起こりやすくなります。この場合は「厳しく下げる」よりも「低血糖を避けながら、無理のない範囲で整える」ことが優先されます。
実際の管理は、食事(糖質量の調整・食物繊維の摂取)、運動、体重管理が基本となり、必要に応じてGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬などの薬物治療を組み合わせます。
ふらつき・冷や汗・強い空腹感・動悸などがあれば、我慢せず主治医にお伝えください。薬の種類や量の見直しが必要なサインかもしれません。自己判断で薬を中止・変更せず、必ず相談しながら調整しましょう。
② 血圧の管理——診察室と家庭の両方で
糖尿病性腎症では、血圧が腎臓に与える影響が非常に大きく、血圧の管理は進行を抑えるうえで中心的な柱になります。
慢性腎臓病を合併する場合の降圧目標は、診察室血圧で130/80mmHg未満、家庭血圧で125/75mmHg未満が原則的な目安です。ただし年齢や腎機能、他の合併症によって適切な目標は変わるため、主治医と確認してください。
診察室の血圧だけでは実際の状態が分かりにくいことがあります。家庭での血圧測定を習慣にし、その記録を主治医と共有することが、きめ細かな調整につながります。
③ 尿たんぱく(アルブミン尿)を減らす
尿中のアルブミン量は、腎機能の予後と心血管リスクをもっともよく反映する指標です。そして、アルブミン尿それ自体が腎臓をさらに傷める要因にもなります。
そのため、アルブミン尿を減らすこと自体が治療の目標になります。治療を始めたあとに、どの程度減っているかを継続して確認していくことが大切です。アルブミン尿を減らせると、腎機能の低下がゆるやかになり、心臓や血管を守ることにもつながります。
使われる薬——何が「腎臓を守る薬」なのか
近年は、血糖を下げるだけでなく腎臓そのものを守る効果が示された薬が登場し、治療の選択肢が広がっています。
ACE阻害薬・ARB(RAS阻害薬)
血圧を下げながら尿たんぱくを減らす薬。尿アルブミン・尿たんぱくを伴う高血圧では、腎臓を守るための第一選択となります。
SGLT2阻害薬
腎臓・心臓を守る効果が示され、腎保護の中心的な薬になっています。飲み始めに一時的にeGFRがやや下がって見えることがありますが、多くは想定内の反応です。
フィネレノン(非ステロイド型MRA)
適切な治療を行ってもアルブミン尿が残る場合などに検討します。カリウムが上がりやすいため、定期的な採血が必要です。
GLP-1受容体作動薬
血糖・体重の管理に加え、腎臓・心臓を守る効果も報告されています。適応は個別に判断します。
尿アルブミン・尿たんぱくを伴う高血圧では、ACE阻害薬やARBが腎臓を守るための第一選択となります。一方、尿アルブミンが増えていない場合には、カルシウム拮抗薬や利尿薬なども含め、血圧や腎機能、合併症の状況に応じて薬を選びます。「腎臓が悪ければ必ずこの薬」と決まっているわけではありません。
腎臓を守る薬の中には、飲み始めにeGFRがわずかに下がって見えるものがあります。これは腎臓の中の圧の調整によるもので、多くは想定内の反応であり、長い目で見れば腎臓を守る方向に働きます。数字だけを見て自己判断で中止せず、主治医の説明を受けながら継続することが大切です。
生活面でできること
薬だけでなく、日々の生活の調整も腎臓を守る力になります。
- 減塩——血圧を下げ、むくみや尿たんぱくを抑えるのに役立ちます。多くの方に効果的な、基本の工夫です
- 禁煙——喫煙は腎臓の血管にも負担をかけ、進行を速める要因になります
- 体重の管理——肥満は腎臓への負担を増やします。無理のない範囲で整えます
- たんぱく質——摂りすぎは腎臓の負担になりますが、自己流で極端に減らすのは危険です。減らしすぎると筋力や体力が落ち、かえって予後を悪くすることがあります。必ず主治医や管理栄養士と相談して決めてください
「結局、何をすればいいのか」を順番で見ると、次のような流れになります。
血糖を整える
食事・運動・薬物療法を組み合わせ、無理のない範囲でHbA1cを安定させます。
血圧を下げる
130/80mmHg未満を目安に。アルブミン尿がある場合はACE阻害薬・ARBが第一選択です。
尿アルブミンを減らす
SGLT2阻害薬やフィネレノンなど、腎臓そのものを守る薬を必要に応じて追加します。
禁煙・減塩などの生活調整
喫煙や塩分の摂りすぎは腎臓への負担を増やします。できることから整えます。
定期検査で確認を続ける
尿アルブミン・eGFRを定期的に確認し、状態に合わせて治療を調整します。
どの薬が適しているかは、腎機能の段階・アルブミン尿の量・カリウム値・他の合併症によって一人ひとり異なります。薬の全体像については、専用のガイドページで詳しく解説しています。
糖尿病治療薬まるわかりガイド飲み薬・注射薬の種類と使い分け——腎臓を守る薬を含めて整理しています 糖尿病で透析を遅らせるには?腎機能が下がってきた段階での、より踏み込んだ対策よくある質問
「第2期です」と言われました。どういう意味ですか?
第2期(微量アルブミン尿期)は、尿にごく少量のアルブミンが漏れ始めているものの、腎機能(eGFR)はまだ保たれている段階です。自覚症状はありません。この段階で見つかったことには大きな意味があり、血糖・血圧・尿たんぱくをきちんと管理すれば、進行を抑えられる可能性が十分にあります。病期の詳しい区分は病期分類の章をご覧ください。
糖尿病性腎症と糖尿病関連腎臓病(DKD)は、同じ病気ですか?
完全に同じ意味ではありません。糖尿病性腎症は、尿アルブミンが増えたあとに腎機能が低下していく典型的なタイプを指します。糖尿病関連腎臓病(DKD)は、尿アルブミンがあまり増えないまま腎機能が低下する場合なども含めた、より広い概念です。DKDのほうが範囲が広く、糖尿病性腎症はその中に含まれると考えてください。詳しくは用語の整理の章で解説しています。
尿たんぱくが出たら、もう手遅れなのでしょうか?
いいえ、すぐに手遅れになるわけではありません。特に初期の段階では、適切な管理によって進行を抑えられる可能性が十分にあります。大切なのは「出たかどうか」だけで判断せず、どの程度か・どう変化しているかを継続して見ていくことです。
クレアチニンが正常なら、腎臓は大丈夫ですか?
クレアチニンは重要な指標ですが、糖尿病性腎症の初期では正常範囲に収まっていることも少なくありません。血液検査だけで安心せず、尿検査(尿たんぱく・尿アルブミン)と合わせて評価することが重要です。
「腎臓に悪い」と聞いた薬は、飲まない方がいいのでしょうか?
腎臓に負担がかかる可能性のある薬がある一方で、腎臓を守る目的で使われる薬も多くあります。自己判断で中止すると、かえって病状が悪化することもありますので、必ず主治医と相談しながら調整してください。
健診で「軽い異常」と言われただけなら、様子見でいいですか?
「軽い異常」でも、一度は医療機関で詳しく評価を受けることをおすすめします。現時点で治療が不要な場合でも、どのくらいの頻度で経過を見るべきかを確認しておくことには大きな意味があります。
症状がないのに、通院する必要はありますか?
糖尿病性腎症は、症状が出にくい病気だからこそ、症状がない時期の管理が重要になります。症状が出てから受診するのではなく、症状がない今の状態を維持するための通院とお考えください。
糖尿病性腎症の進行は、止められますか?
いったん進んだ腎機能を完全に元に戻すことは難しいですが、血糖・血圧・尿たんぱくを適切に管理することで、進行を大きく遅らせることは十分に可能です。早い段階から取り組むほど、その効果は大きくなります。
まとめ
糖尿病性腎症は、「症状が出てから治療する病気」ではありません。症状がない今だからこそ、尿アルブミンとeGFRを定期的に確認し、自分がどの病期にいるのかを知り、血糖・血圧・尿たんぱくを整えることが、将来の腎機能低下や透析のリスクを下げるための基本になります。
病期は必ず順番どおりに進むわけではなく、アルブミン尿が目立たないまま腎機能だけが低下していく方もいます。だからこそ、尿と血液の両方を定期的に確認することが欠かせません。
日本の透析導入原因の第1位であるということは、それだけ多くの方が関わる病気だということです。早い段階で気づき、適切に管理を続けることには大きな意味があります。当院では、腎臓専門医の視点から、血糖から腎臓まで一貫して確認し、一人ひとりに合った管理をご提案します。
健診で腎臓・血糖の異常を指摘された方へ
「尿たんぱくが出た」「eGFRが下がってきた」「糖尿病があり腎臓が心配」——そうしたご相談を歓迎しています。当院では、総合内科専門医・腎臓専門医が、血糖と腎臓をあわせて確認し、将来の透析を防ぐことまで見据えて診療にあたります。
当院の糖尿病・腎臓診療について見る参考文献
- 糖尿病性腎症合同委員会・糖尿病性腎症病期分類改訂ワーキンググループ. 糖尿病性腎症病期分類2023の策定. 糖尿病 2023;66(11):797-805.
- 日本腎臓学会編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社, 2023.
- 日本腎臓学会編. CKD診療ガイド2024. 東京医学社, 2024.
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂, 2024.
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2024-2025. 文光堂, 2024.
- Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. KDIGO 2022 Clinical Practice Guideline for Diabetes Management in Chronic Kidney Disease. Kidney Int 2022;102(5S):S1-S127.
- 日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会編. 高血圧管理・治療ガイドライン2025. ライフサイエンス出版, 2025.
- 日本腎臓学会. 慢性腎臓病(CKD)患者の血圧管理に関するステートメント. 日腎会誌 2026;68(5):253-258.
- 日本透析医学会. わが国の慢性透析療法の現況(2024年12月31日現在).
監修・文責:加藤 彰浩(院長)|総合内科専門医・腎臓専門医|きたはらやまクリニック(尾張旭市)
公開日:2026年1月/最終更新:2026年9月/本ページの内容は医療情報の提供を目的としており、特定の診断・治療を推奨するものではありません。掲載している目安値等は一般的なものであり、自己診断を目的としたものではありません。実際の診断・治療方針については医療機関にご相談ください。掲載内容はガイドライン等の改訂により変更されることがあります。
