健診結果を受け取ったとき、「どこを見れば良いのか」「再検査が必要か」「どれくらい急いで受診すべきか」迷う方はとても多くみえます。
異常値があっても、自覚症状がないことがほとんどで、「大丈夫だろう」と様子を見る方も少なくありません。
しかし、健診異常の多くは 生活習慣病(高血圧・脂質異常症・糖尿病・慢性腎臓病) に関係し、早めの対応がその後の健康を大きく左右します。
本記事では、 健診結果を受け取った後に“何を、どの順番で”行うべきか を、総合内科・腎臓内科専門医の視点から解説します。
第1章 健診結果を受け取ったらまず行うこと ― “読み方のコツ”
健診票には多くの項目が並んでおり、初めての方は「A~E」「H」「要精査」などの記号に戸惑うこともあります。
まず押さえてほしいのは次の 3つのポイントです。
① 判定区分(A〜Eなど)の意味を理解する ※健診機関により表記が異なるため実際の健診票をご確認ください。
健診票には A〜E や 1〜5 など、実施機関によって異なる判定方法がありますが、基本的な考え方は共通しています。
- A(または1) :異常なし/正常範囲
- B(または2) :おおむね基準内だが注意が必要
- C(または3) :生活改善が望ましい
- D(または4) :医療機関での再検査を推奨
- E(または5) :精密検査・早期受診が必要
※判定区分は健診機関によって異なる場合があります。必ず実際の健診結果の説明欄をご確認ください。
B~C評価でも油断は禁物です。
特に 血圧・血糖・腎機能・尿たんぱく・脂質 の異常は、生活習慣病やCKDにつながりやすく、早めの確認が重要です。
② “要精密検査”は放置しない
「毎年同じだから」「自覚症状がないから」と先延ばしにする方は多いですが、長期的に見ると動脈硬化・腎臓病の進行につながることがあります。
③ 前回値との比較がとても大切
異常の有無だけではなく “増えているか・減っているか” が重要です。
例)
- クレアチニン 0.80 → 1.00(2年で上昇)
- LDL 120 → 145(上昇)
- 血圧 130 → 140(高血圧域に)
「変化のスピード」を見ることで、病気の早期発見に繋がります。
第2章 なぜ健診異常は見逃してはいけないのか ― 生活習慣病の入り口だから
健診で異常がみつかる多くの項目は、動脈硬化・心血管疾患・腎臓病と深く関係しています。
1)血圧異常(高血圧)
高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれ、症状がなくても血管を傷つけていきます。
JSH2024(日本高血圧学会ガイドライン)では、
- 家庭血圧135/85以上
- 診察室血圧140/90以上
を高血圧と定義します。
2)血糖異常(糖尿病予備群)
空腹時血糖100〜125 mg/dL、HbA1c5.6〜6.4%は糖尿病予備群です。
早期治療を行うことで進行を防ぎ、心臓・血管・腎臓の合併症を遠ざけることができます。
3)脂質異常(LDL・中性脂肪)
LDLコレステロール高値は動脈硬化の最大リスクの一つです。
日本動脈硬化学会(JAS2022)では、基準値の見直しが行われ、より厳しい管理が推奨されています。
4)腎機能低下(Cre・eGFR)
腎臓の異常は早期の自覚症状がほとんどありません。
腎機能が低下すると、血圧・心臓・脳の病気発症率が上昇します。
5)尿タンパク・尿潜血
「異常なし」と書かれていても、“±〜+”の軽度変化は早めに再検査を推奨します。
慢性腎臓病や膀胱炎、腎炎などの早期サインであることがあります。
第3章 健診結果のどこを見ればよい? ― 再検査が必要な項目とタイミング
患者さんから最も多い質問は
「どの項目なら急いで受診すべきですか?」
というものです。
すぐ受診すべき(1〜2週間以内)
- 血圧:160/100 以上
- HbA1c:6.5%以上
- LDL:180以上
- クレアチニン:基準値超え
- eGFR:60未満
- 尿タンパク:+、++
- 尿潜血:+以上
- 心電図での異常(ST変化、不整脈)
1か月以内に受診すべき
- 血圧:140/90以上(高血圧I度)
- 空腹時血糖:110以上
- LDL:140以上
- 中性脂肪:200以上
- 尿酸:7.0以上(痛風発作がなくても要注意)
半年以内のフォローでよいもの
- やや高めの項目(A〜C評価)
- 肥満・腹囲増加
- 軽度の肝機能異常(AST・ALT・γ-GTP)
第4章 放置するとどうなる? ― 病気の進行メカニズムを簡単に解説
① 動脈硬化が進む
高血圧・糖尿病・脂質異常症が重なると、血管内皮が傷つき、血管が硬く・狭くなります。
- 脳卒中
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 腎臓病(CKD)
- 足の血管障害(閉塞性動脈硬化症)
これらはすべて生活習慣病の延長線上にあります。
② CKD(慢性腎臓病)へ進行する
腎臓のダメージは数値に表れるまで時間がかかります。
“気づいた時には手遅れ”というケースは実際に少なくありません。
腎臓病が進むと……
- 血圧が上がりやすくなる
- むくみが出る
- 貧血が起こる
- 心不全リスクが上昇
- 最終的には透析になる可能性も
➡ 内部リンク:「CKDと高血圧の関係」
③ 「なんとなく体調が悪い」が続く原因に
倦怠感、むくみ、動悸、食後の眠気など、見逃されがちな不調の背景に“病気の初期サイン”が隠れていることがあります。
第5章 受診の前に準備しておくとよいもの ― 診察がスムーズになります
受診時に次の 4点 を用意していただくと、短時間で正確な診断ができます。
① 健診票(必須)
過去2〜3年分あれば理想的です。
“変化のスピード” が診断で最も重要です。
② 血圧記録(家庭血圧)
家庭血圧は診察室血圧より信頼性が高いため、JSH2024でも重視されています。
最低でも次のタイミングで測定してください:
- 朝:起床後1時間以内
- 夜:寝る前
これらを3〜7日間 記録していただけると診断精度が高まります。
③ お薬手帳・現在飲んでいるサプリ
血圧・腎機能・肝機能に影響するものがあるため、把握が重要です。
④ 気になった症状のメモ
以下のような症状があれば記録しておいてください:
- 足がむくむ
- 体重が急に増えた
- 寝起きが悪い
- 動悸がする
- のどが渇きやすい
第6章 よくある質問(FAQ)
Q1:どの数値が一番重要ですか?
A:血圧・血糖・脂質・腎機能・尿タンパクの5つが特に重要です。
Q2:薬を飲まなければいけないのでしょうか?
A:すべての異常で薬が必要になるわけではありません。
生活改善で改善するケースも多いです。
Q3:異常が複数あると危険ですか?
A:はい。リスクは“足し算”ではなく“掛け算”で増えるため、複数異常がある場合は早めの評価が必要です。
Q4:どこを受診すればいいですか?
A:まずは内科(総合内科)へ。
腎機能異常・尿異常があれば腎臓内科での精査を推奨します。
第6章 まとめ・受診案内・免責
健診異常を放置すると、気づかないうちに生活習慣病や腎臓病が進行してしまいます。
逆に、早めに受診し、生活改善を始めれば 脳・心臓・腎臓を守り、健康寿命を伸ばすことができます。
「少し気になる」「今年は数値が上がった」
そのような方は、ぜひ早めにご相談ください。
【ご相談・受診案内】
健診で異常を指摘された方へ
当院では、高血圧・糖尿病・脂質異常症・腎臓病(CKD)などの二次検査をまとめて行えます。
気になる症状や結果があれば、お気軽にご相談ください。お問い合わせ・受診予約はこちら
【免責事項】
本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個々の診断や治療方針を保証するものではありません。
実際の検査内容や受診の必要性は、年齢・症状・既往歴などによって異なります。
健診異常や体調の変化がある場合は、必ず医師の診察を受け、個別にご相談ください。
