SGLT2阻害薬とは?
腎臓と心臓を守る最新治療を腎臓専門医が解説
慢性腎臓病(CKD)とは?ステージ・症状・治療を詳しく見る
腎機能の低下が気になる方は、まず検査の見方を確認してみましょう。
eGFR・尿たんぱく・クレアチニンの検査値の読み方はこちらSGLT2阻害薬とは
SGLT2阻害薬は、腎臓の尿細管(にょうさいかん:血液をろ過した後の液体を再吸収する細い管)にあるSGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)というタンパク質の働きを阻害する薬です。このタンパク質をブロックすることで、余分なブドウ糖を尿中に排出し血糖を下げます。
糖尿病治療薬として開発されたこの薬は、現在ではCKD(慢性腎臓病)治療薬としても広く使用されています。2021年以降、国内外でCKDへの適応が相次いで承認され、現在日本で広く使われているのはダパグリフロジン(フォシーガ)とエンパグリフロジン(ジャディアンス)の2剤です。
糖尿病の有無にかかわらず腎保護効果があるため、腎臓専門医のもとで適切に判断すれば、広い患者さんに活用できる薬です。
腎臓への3つの効果
SGLT2阻害薬が腎臓を守る仕組みは、主に3つのメカニズムから説明されます※1,2,3。
服薬開始後の早い時期に、eGFRが一時的に低下することがあります(「イニシャル・ディップ」と呼びます)。多くは薬の作用によるもので、その後は安定していくことが知られています。ただし、低下の程度が大きい場合や、脱水・ほかのお薬の影響が疑われる場合には、原因を確かめたうえで医師が継続の可否を判断します。自己判断で中止せず、気になるときはご相談ください。
臨床上の目安(KDIGO 2024・添付文書)
以下は医療関係者向けに、ガイドラインおよび添付文書の記載を整理したものです。患者さんご自身が検査値から服薬の要否を判断するための基準ではありません。治療方針は、必ず処方医にご確認ください。
| 対象 | 推奨 |
|---|---|
| 2型糖尿病・CKD・eGFR 20以上 | 推奨(1A) |
| 成人CKDで、eGFR 20以上かつ尿ACR 200 mg/g以上、または心不全合併(心不全ではアルブミン尿量を問わない) | 推奨(1A) |
| eGFR 20〜45かつ尿ACR 200 mg/g未満 | 使用を提案(2B) |
1Aは強い推奨でエビデンスの確実性が高いこと、2Bは弱い推奨でエビデンスの確実性が中等度であることを示します。
資料によってeGFRの数値が異なります。単純に並べると混乱を招くため、それぞれの性格とあわせて整理します。
| 資料 | 新規開始に関する記載 | 継続に関する記載 | 数値の意味 |
|---|---|---|---|
| 日本腎臓学会 recommendation(2022年策定) | eGFR 20以上では積極的な開始を検討。20未満は策定時点でエビデンスがなく、15未満では新規開始しない | 継続投与して15未満となった場合は、副作用に注意しながら継続 | 国内学会の専門家提言 |
| KDIGO 2024 | eGFR 20以上を推奨対象として提示。対象背景により1A/2B | 20未満となっても、忍容性があり腎代替療法が未開始であれば継続が妥当 | 国際ガイドラインのエビデンス推奨 |
| ジャディアンス添付文書 | eGFR 20未満では投与の必要性を慎重に判断 | 一律の開始禁止ラインではない | 製剤別の規制文書・試験データの範囲 |
| フォシーガ添付文書 | eGFR 25未満では投与の必要性を慎重に判断 | 一律の開始禁止ラインではない | 製剤別の規制文書・試験データの範囲 |
数値が異なるのは、国際ガイドライン、国内学会の専門家提言、製剤別の添付文書で、対象・作成時期・記載目的が異なるためです。実際の開始判断では、患者背景と各製剤の最新添付文書を確認します。
KDIGO 2024 Practice Point 3.7.1では、SGLT2阻害薬の開始後にeGFRが20 mL/min/1.73m²未満となっても、忍容性が失われた場合または腎代替療法が開始された場合を除き、継続することが妥当とされています。これはeGFR 20未満からの新規開始を一律に推奨する記述ではなく、開始後の継続に関するPractice Pointです。新規開始と開始後の継続は、分けて考える必要があります。
KDIGO 2024では、血行動態に作用する治療の開始後にeGFRが30%を超えて低下した場合、通常の変動範囲を超えるため、脱水、低血圧、NSAIDs・利尿薬などの併用薬、腎動脈狭窄、急性疾患などの原因を評価するとしています。30%は機械的な中止基準ではなく、原因評価を始める目安です。
日本腎臓学会は、SGLT2阻害薬の開始後早期(2週間〜2か月程度)にeGFRを評価することが望ましいとしています。これは、すべての患者さんでこの期間に低下する、あるいはこの期間内に回復するという意味ではありません。学会が示した評価時期であり、ディップの持続期間ではない点にご注意ください。
主要試験でも、DAPA-CKDはベースラインから2週まで、CREDENCEは3週時点、EMPA-KIDNEYは開始後2か月までを、それぞれ急性期として初期変化を評価しています※1,2,8。
EMPA-KIDNEYの事前規定二次解析では、eGFRスロープ(mL/min/1.73m²/年)は全期間でエンパグリフロジン群 −2.16、プラセボ群 −2.92、慢性期ではそれぞれ −1.37、−2.75 であり、慢性期の低下速度は相対的に約50%減少しました。
初期低下の後に必ず元のeGFRまで回復するという意味ではありません。多くは新たな水準で安定し、その後の低下速度が緩やかになる、という経過をたどります。
KDIGO 2024は、SGLT2阻害薬の開始・使用のみを理由として、通常のCKDモニタリング頻度を一律に変更する必要はないとしています(Practice Point 3.7.3)。一方、日本腎臓学会は、initial dipを確認するため、開始後2週間〜2か月程度の早期にeGFRを評価することが望ましいとしています。国内実臨床では通常のCKDフォローを基本とし、患者背景や脱水リスク、併用薬などに応じて早期評価を検討します。
なお、ACE阻害薬・ARBでは、開始・増量後2〜4週間以内に血圧、腎機能、血清カリウムを確認します(KDIGO 2024 Practice Point 3.6.2)。これはRAS阻害薬についての管理基準であり、SGLT2阻害薬固有の確認時期ではありません。
本セクションは、KDIGO 2024および日本腎臓学会「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」(2022年策定、2023年学会誌掲載)の記載にもとづいています。いずれも2026年8月時点の現行版であり、今後の改訂により内容が変わる可能性があります。
対象となる患者さん
SGLT2阻害薬の腎保護目的での使用は、糖尿病の有無を問わず検討できます。各製剤の添付文書および臨床試験に基づく目安を整理します。
- CKD目的:eGFR 20〜25以上が目安(製剤別)
- アルブミン尿が多いほど効果が期待できる
- 心不全合併例にも有益
- 血糖・腎保護を同時に期待
- フォシーガ:eGFR 25以上が目安
- ジャディアンス:eGFR 20以上が目安
- アルブミン尿が多いほど効果が期待できる
- IgA腎症・巣状糸球体硬化症なども研究が進む
- ACE阻害薬・ARBとの併用が基本
これらは臨床試験の対象や添付文書の注意事項をもとにした目安であり、保険適用の要件そのものではありません。実際に使えるかどうかは、腎機能・アルブミン尿の程度・合併症を含めて医師が判断します。
糖尿病性腎症の原因・症状・治療について詳しく見るeGFRが低い場合(目安として20〜25未満)は新規開始の適応として慎重な判断が必要であり、投与の適否は腎臓専門医による個別評価が欠かせません。「自分は対象になるか」と気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。
ご自身のCKDステージ・進行度を確認する 腎硬化症(高血圧が原因の腎臓病)について詳しく見る心不全予防効果
これはSGLT2阻害薬が利尿作用により心臓への容量負荷を軽減し、炎症・線維化を抑える多面的な作用を持つためと考えられています。腎臓と心臓の両方を同時に守れる点が、この薬の最大の特徴のひとつです。
注意点・副作用
有益な薬ですが、注意すべき副作用・事項もあります。腎臓専門医のもとで定期的に確認することが大切です。
-
1
脱水・血圧低下:尿から糖と水分の排出が増えるため、脱水や血圧低下に注意が必要です。普段は脱水を避けるため、こまめな水分補給を心がけてください。ただし、心不全やむくみなどで水分量を指示されている方は、その指示を優先してください。発熱・下痢・嘔吐などで食事や水分を十分にとれないときは、「シックデイルール」に従ってSGLT2阻害薬を一時的に休薬し、医療機関へご相談ください。シックデイルールとは、発熱・食事がとれない・下痢などの体調不良時には一時的に服薬を休むルールのことです。
-
2
尿路・性器感染症:尿中に糖が増えることで、膀胱炎や外陰部の真菌感染が起きやすくなります。女性に多い副作用ですが、適切な衛生管理(排尿後のウォシュレット使用、陰部の保清)と早期受診で対応できます。
-
3
術前の休薬:手術や検査の前は、一時的に休薬が必要です。日本糖尿病学会の指針では、手術が予定されている場合は術前3日前から休薬し、食事が十分にとれるようになってから再開するとされています。これはケトアシドーシス(重篤な代謝異常)のリスクを避けるためです。SGLT2阻害薬によるケトアシドーシスでは、血糖値の著しい上昇を伴わないことがあり、発見が遅れる場合があります。手術や内視鏡検査の予定がある際は、必ず担当医にお伝えください。
-
4
低血糖リスク(インスリン・SU薬との併用):SGLT2阻害薬単独では低血糖を起こしにくいですが、インスリンやスルホニルウレア薬(SU薬)と組み合わせる場合は注意が必要です。
よくある質問
糖尿病じゃないのに使えますか?
フォシーガとジャディアンスの違いは何ですか?
飲み始めたらeGFRが少し下がりました。やめるべきですか?
イニシャル・ディップはいつ起こり、いつまで続きますか?
eGFRがかなり低くなったら薬をやめるべきですか?
服用中に気をつけるべき生活習慣はありますか?
SGLT2阻害薬と腎臓専門医による管理
SGLT2阻害薬は、腎機能の低下速度を遅らせ、透析導入を先延ばしにする可能性を持つ、現在のCKD診療において重要性が高まっている薬剤のひとつです。糖尿病の有無を問わずに使えること、心臓も同時に守れること、そして腎臓の機能低下を細胞レベルから抑制する可能性が示されていることが大きな特徴です。
ただし、適切な効果を引き出すためには、eGFR・蛋白尿・合併症の状態に応じた腎臓専門医による個別判断と継続的なモニタリングが欠かせません。当院では、eGFRや尿蛋白の推移を定期的に確認しながら、患者さん一人ひとりの状態に合わせて安全にSGLT2阻害薬を使用しています。
