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糖尿病の食事療法
食事療法の入口

糖尿病の食事療法
── 何から始めればいいのか

この記事では、食事で変えられることを7つに整理します。ただし、取り組む順番は同じではありません。過体重・肥満をともなう2型糖尿病では、まず体重とエネルギー量から。そして腎臓の状態によって、たんぱく質や食塩の考え方は変わります。優先順位の付け方を、総合内科専門医・腎臓専門医が整理しました。

まず何を変えるか 体重とエネルギー 糖質の量・質・食べ方 腎臓の状態で変わるたんぱく質
🩺 「糖尿病と診断されたら最初に読むページ」から来た方へ:このページでは、そのうち「食事」について、何を優先するかを整理します。
糖尿病と診断されて食事の話になると、注意することが一度にたくさん出てきます。カロリー、糖質、塩分、たんぱく質、食べる順番——全部を完璧にやろうとして、続かなくなる。外来でいちばんよく見る失敗です。

大切なのは、すべてを同時に変えることではなく、効くものから順に取り組むことです。そしてもうひとつ。同じ糖尿病でも、腎臓の状態によって「食事の処方箋」は変わります。特にたんぱく質は、考え方が逆向きになることさえあります。このページでは、腎臓を専門とする立場から、その優先順位を整理しました。 🏥 このページの位置づけ:本ページは食事療法の全体像を示す「地図」です。具体的な目標量や実践方法は、一人ひとりの状態をみて医師・管理栄養士が個別に設定します。数値はいずれも一般的な枠組みとしてお読みください。👥 対象について:本ページは主に成人の2型糖尿病の方を対象としています。特に減量・エネルギー量に関する記載は、過体重・肥満をともなう2型糖尿病の方に当てはまるものです。1型糖尿病、妊娠中の方、小児、やせ・低栄養・フレイルのある方では方針が異なりますので、個別にご確認ください。

食事療法で「動かせるもの」を7つに整理する

食事の話は複雑に見えますが、実際に調整している要素はそれほど多くありません。このページでは、主な論点を7つに整理します。そして重要なのは、この7つが横並びではないということです。

なぜ「何から手をつけるか」で結果が変わるのか

食事療法の項目には、「どのくらい多くの方に当てはまるか」という差があります。学会のガイドラインでは推奨の強さがグレードで示されており、強く推奨されているものと、選択肢のひとつとして弱く推奨されているものがあります。

ここで一点、誤解されやすいことをお伝えします。推奨の強さは、効果の大きさ・対象の広さ・取り組む順番を直接示すものではありません。根拠の確かさ、益と害のバランス、患者さんの価値観、費用などを総合して決まるものです。実際の優先順位は、その推奨が自分に当てはまるのか、合併症や栄養状態はどうかを踏まえて決めていきます。

全項目を同じ重さで守ろうとすると、労力が分散します。下の図は、そうした事情を踏まえた実践上の目安です。

糖尿病の食事療法における優先順位のピラミッド 土台にエネルギー(体重管理)を置き、過体重・肥満をともなう2型糖尿病ではエネルギー摂取量の制限が推奨グレードA、次が糖質で、量と質すなわち炭水化物制限・低GI食・食物繊維摂取は2型糖尿病において推奨グレードB、食べる順番には独立した推奨がない、その上がたんぱく質と食塩で腎臓や血圧の状態により考え方が変わる、最上部が脂質の質・尿酸・お酒で指摘があれば個別に対応する、という4段階の実践上の目安を示した図。推奨の強さは効果の大きさ・対象の広さ・取り組む順番を直接示すものではないことを注記している。 まず、どこから手をつけるか 下の段ほど、多くの方でまず検討しやすい 脂質・尿酸・お酒 指摘があれば個別に 指摘があれば個別に たんぱく質・食塩 腎臓・血圧の状態で考え方が変わる 腎臓・血圧の状態による 画一的な制限はしない 糖質の量・質・食べ方 糖尿病に固有のテーマ 量・質:推奨グレードB 食べる順番:推奨なし エネルギー(体重) この記事の背骨。まずここから 推奨グレード A 過体重・肥満の2型糖尿病 まず検討しやすい ※グレードは日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」における推奨の強さ(Aは強い推奨、Bは弱い推奨) 推奨の強さは、根拠の確かさ・益と害・費用などから総合的に決まるもので、効果の大きさ・対象の広さ・取り組む順番を示すものではありません グレードBの対象は短期の炭水化物制限・低GI食・食物繊維摂取であり、「食べる順番」には独立した推奨がありません
図1:食事療法の取り組み順の目安。上に行くほど「人による」度合いが強くなり、下に行くほど「多くの方に共通して当てはまる」ものになります。
7つの変数と、このページでの扱い

それぞれの位置づけと、詳しい実践方法をどこで解説しているかを一覧にしました。このページは全体の地図です。具体的なやり方は、それぞれの専用ページに分けています。

変数なぜ効くのかこのページでの扱い
エネルギー体重管理 体重が減るとインスリンの効きが改善し、血糖・脂質・血圧がまとめて動きます。 まず最初に・詳しく解説
糖質量・質・食べ方 食後の血糖に最も直接的に関わります。糖尿病に固有のテーマです。 主軸・詳しく解説
たんぱく質 減量時は筋肉を守り、腎臓の状態によっては摂りすぎを避ける方向で考えます。状況によって向きが変わります。 考え方の分かれ方を解説
食塩 血糖よりも、血圧と腎臓に効きます。合併症の有無で目標が変わります。 目安の変わり方を解説
脂質の質 血糖よりも、動脈硬化のリスクに関わります。 概要のみ
プリン体・尿酸 尿酸値の指摘がある方では、腎臓の保護とあわせて考えます。 概要のみ
アルコール それ自体がエネルギー源であり、インスリンや一部の血糖降下薬の使用中は低血糖にも関わります。 概要のみ
この記事を読み終えたときのゴールは、「今日から全部やる」ではありません。「自分の場合、まずどれに力を入れればよいか」がはっきりしていること。それだけで十分です。

エネルギー——体重管理は血糖改善につながる

過体重・肥満をともなう2型糖尿病の方にとって、エネルギー量の調整はガイドラインで「強い推奨(グレードA)」とされている項目です。多くの方に当てはまるため、最初に検討する対象になります。

「5%」は、研究上のひとつの目安

減量と血糖の関係については、研究をまとめた解析から、ひとつの目安が示されています。

過体重・肥満をともなう2型糖尿病の方を対象とした解析では、体重の減少が5%未満にとどまった研究群では、HbA1c・脂質・血圧のいずれにも統計学的に明らかな改善は確認されませんでした。一方、5%以上の減量が得られた研究群では、これらの指標がそろって有意に改善しています。さらに別の大規模研究では、5〜10%の減量に比べて10%以上の減量でHbA1cの改善がより大きく、15%以上ではさらに大きいという段階的な関係が報告されています。

ただし、これは研究グループ全体をまとめた結果です。「5%未満の減量では意味がない」という意味ではありません。効果の出方には個人差があり、少しの減量でも数値が動く方もいれば、そうでない方もいます。あくまで目標を立てるときの目安としてお考えください。
3–5%
まずの目標
体重70kgの方なら2〜3.5kg。糖尿病診療ガイドライン2024で、目標のひとつとして示されています。
5%
研究で差がついた線
5%以上の減量が得られた研究群で、血糖・脂質・血圧の有意な改善が示されました。
10%
さらに大きな改善
5〜10%の減量と比べ、10%以上でHbA1cの改善がより大きいと報告されています。

なお、体重を落とすうえでは、食事だけよりも体を動かすことを組み合わせたほうが有利であることも示されています。運動については別のページで解説します。

🏃 糖尿病の運動療法準備中 運動の種類・強度・頻度と、続けるための工夫
自分の1日の目安量を出してみる

1日にどのくらいのエネルギーを目安にするかは、次の考え方で算出します。現在の体重ではなく、「目標体重」を基準にするのがポイントです。

1日の目安エネルギー量の求め方 身長から年齢に応じたBMIを用いて目標体重を求め、その目標体重に身体活動量に応じたエネルギー係数をかけることで、1日の目安となる総エネルギー摂取量が算出されることを示した計算の流れ図。身長160センチ、60歳、座り仕事中心の場合の計算例も併記。 1日の目安エネルギー量の求め方 目標体重 身長(m) × 身長(m) × BMI ※BMIは年齢で決まります × エネルギー係数 25〜35以上(kcal/kg) ※体の動かし方で決まります = 1日の目安量 (kcal/日) 計算例:身長160cm・60歳・座り仕事が中心の方 ① 目標体重 1.6 × 1.6 × 22 = 約56kg(65歳未満のためBMIは22) ② 係数 座位中心の生活 → 25〜30 ③ 目安量 56 × 25〜30 = 約1,400〜1,700kcal/日 ※あくまで出発点の目安です。実際には体重の変化をみながら調整していきます
図2:目安エネルギー量の求め方。計算式そのものより、「現体重ではなく目標体重を基準にする」という考え方が大切です。
目標体重は年齢で変わる——65歳を境に考え方が変わる理由

かつては、年齢にかかわらずBMI 22を基準にした「標準体重」が使われていました。しかし現在は、年齢によって目標が変わります。これは、亡くなるリスクが最も低いBMIが年齢によって異なることが分かってきたためです。

年齢目標体重の目安考え方
65歳未満 身長(m)² × 22 従来どおりの基準です。
65〜74歳 身長(m)² × 22〜25 幅を持たせます。痩せすぎのほうが不利になる場合があるためです。
75歳以上 身長(m)² × 22〜25※現在の体重をもとに柔軟に判断 体力の低下、持病、体つき、食べられている量などを踏まえ、無理のない実現可能な体重を設定します。
エネルギー係数(体の動かし方による目安)
  • 軽い労作(大部分が座って過ごす)……25〜30 kcal/kg目標体重
  • 普通の労作(座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む)……30〜35 kcal/kg目標体重
  • 重い労作(力仕事、活発な運動習慣がある)……35〜 kcal/kg目標体重
なお、肥満があって減量をはかる場合には、活動レベルより小さい係数を設定することができます。逆に、ご高齢で体力の低下を防ぎたい場合には、活動レベルより大きい係数を設定することもあります。目標体重と現在の体重が大きく離れている場合も、無理のない範囲で柔軟に決めていきます。
ご高齢の方では、「痩せること」が目標にならない場合があります

ここは強調しておきたい点です。減量は誰にとっても正解、というわけではありません。

特に75歳以上の方では、太っていること自体と死亡リスクとの関連は乏しく、むしろ痩せているほうがリスクが高くなるという報告があります。体力や筋肉が落ちてしまうと、転倒や入院をきっかけに生活が大きく変わってしまうことも少なくありません。

「食べる量を減らす」ことが、いつでも良い方向とは限りません。年齢や体力によっては、しっかり食べて筋肉と体力を保つことのほうが優先されます。ご自身がどちらの方針にあたるのかは、必ず担当医にご確認ください。

糖質は「量」「質」「食べ方」に分けて考える

糖質の話は、ひとまとめに語られることが多いのですが、実際には性質の異なる3つの論点が混ざっています。分けて考えると、どこに力を入れるべきかがはっきりします。

量:固定の比率ではなく、初期設定から個別に調整

「炭水化物は全体の50〜60%」といった数字を目にしたことがあるかもしれません。実際、日本糖尿病学会の糖尿病治療ガイド2024には、炭水化物40〜60%エネルギー、たんぱく質20%エネルギー以下などが初期設定の目安として示されています。

一方、糖尿病診療ガイドライン2024では、すべての方に当てはめられる最適な三大栄養素の比率を決める十分な根拠はないとされ、年齢・体格・腎機能・治療内容・好みに応じた個別の調整が重視されています。

つまり、最初の目安はあるけれど、そこから先はその人に合わせて決めていくということです。「基準がなくなって不安」という話ではなく、一人ひとりに合わせる方向へ進んだと考えてください。

ですから、「自分の場合はどのくらいか」を主治医や管理栄養士と決めることが、以前にも増して大切になっています。

量:ゆるやかな糖質制限をどう考えるか

2024年の改訂で、糖質制限が食事療法の選択肢のひとつとして正式に位置づけられました。ただし、内容には条件がついています。

短期間であれば有効。6〜12か月以内であれば、血糖の指標が改善するという報告が多くあります(推奨グレードB=弱い推奨)。
長期では差が見えにくくなる。12〜24か月を超えると、他の食事療法と同等になるという報告が複数あります。
エネルギー管理を伴わない極端な制限は勧められない。全体のエネルギー量を制限せずに糖質だけを極端に減らすことは、効果の面でも、長く続けられるかという面でも、安全性の面でも根拠が不足しているとされています。
腎臓の視点から、もうひとつ。糖質を大きく減らすと、たんぱく質や脂質の割合が増えることがあります。腎臓の状態によっては、たんぱく質は摂りすぎを避ける方向で考えるため、調整の向きが合わなくなることがあります。糖質制限を検討される場合は、腎臓の状態を確認したうえで判断することをお勧めします。
質:同じ糖質でも、血糖の上がり方は違います

量と並んで大切なのが「質」です。糖質を含む食品でも、血糖の上がりやすさには差があります。血糖の上がり方がおだやかな食品を選ぶ食事(低GI食)は、2型糖尿病の血糖コントロールに有効とされています。

また、食物繊維をしっかり摂ることも有効とされています。食物繊維は消化管での糖の吸収をゆるやかにする働きがあり、特に水溶性の食物繊維について、血糖の指標が改善したという報告が積み重なっています。

実務的には、「糖質を減らす」よりも「糖質と一緒に食物繊維を摂る」ほうが取り組みやすいことが多く、日本人の食物繊維摂取量は目標に届いていないのが現状です。ここは伸びしろのある部分といえます。

食べ方:「野菜から食べる」はどれくらい効くのか

正直にお伝えします。「野菜から食べる」という食べ方の推奨は、根拠としてはそれほど強くありません。

日本糖尿病学会の2024年のガイドラインでは、食べる順番は独立した項目としては扱われておらず、推奨は示されていません。また、厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2025年版)でも、食べる順番は独立した推奨として位置づけられていません。

ただし、これは「意味がない」という意味ではありません。食後の血糖の上がり方がおだやかになるという報告自体はあります。実践上、次のような場合には効果を期待しにくくなります。

野菜の量が少なすぎる 野菜のすぐ後にご飯をかき込む そもそも全体量が多い

つまり、「野菜から食べているから大丈夫」と安心してしまうことが問題なのです。食べる順番は、量と質を整えたうえでの「仕上げ」と位置づけるのが適切です。順番だけで結果を出そうとすると、期待外れに終わります。

分け方何が期待できるか根拠の強さ
量どれだけ食べるか 短期の血糖改善。ただし全体のエネルギー管理が前提です。 中くらい(グレードB)
質何から摂るか 血糖の上がり方がおだやかになります。食物繊維の効果も期待できます。 中くらい(グレードB)
食べ方どう食べるか 食後血糖の上がり方への影響が報告されています。 限定的

たんぱく質は、腎臓の重症度と体の状態で考え方が変わる

ここが、このページで最もお伝えしたい部分です。多くの食事療法の記事は「糖尿病だけを持っている方」を前提に書かれています。しかし実際の外来では、糖尿病だけという方はむしろ少数です。そして、複数の問題を抱えたとき、最も混乱が起きるのがたんぱく質です。

減量しているときは「確保する」方向に働きます

体重を落としていく場面では、たんぱく質はむしろ意識して確保したい栄養素です。減量中は脂肪だけでなく筋肉も落ちやすく、筋肉が減ると基礎代謝が下がり、かえって痩せにくく、疲れやすい体になってしまうためです。

腎臓の状態によっては「摂りすぎを避ける」方向を考えます

一方、腎臓の働きが低下してくると、話が変わってきます。たんぱく質は体内で使われた後に老廃物となり、その処理を腎臓が担っています。摂取量が多いほど腎臓の仕事量が増えるため、進行を抑える目的で摂取量を抑えることを検討する場面が出てきます。

同じ「糖尿病の食事」という言葉のもとで、ある方には「たんぱく質をしっかり」、別の方には「たんぱく質は控えめに」と、違う説明がされるのはこのためです。矛盾しているのではなく、見ている条件が違うのです。

ただし、ここは誤解が最も多いところです。「腎臓の数値が少しでも悪い=たんぱく質を減らす」ではありません。糖尿病の診療ガイドラインでは、たんぱく質の摂取制限について「行うことも行わないことも推奨しない」(推奨グレードU)とされており、腎臓を守ることだけを目的とした画一的な制限は適切ではないと明記されています。
検討の対象になるのは、どういう場合か

摂取量を抑えることが検討されるのは、主に将来的に透析などが必要になるリスクが高いと考えられる場合です。具体的には、次のような状況が挙げられています。

腎機能の低下する速さが速い場合。年単位でどれくらい下がってきているかを見ます。
はっきりとした量の蛋白(アルブミン)が尿に出続けている場合。ごく少量の段階とは区別して考えます。
腎不全の段階に入っている場合。腎臓の働きがかなり低下しているときです。

そのうえで、年齢・栄養状態・サルコペニアやフレイルの有無・続けられるかどうか・生活の質を総合的に見て、抑えることの利益が栄養状態を損なうリスクを上回ると判断された場合に、はじめて実施を検討します。実施する場合も、専門医と管理栄養士の指導のもとで行うことが前提です。

では、自分はどの段階にいるのか

判断の出発点になるのは、健診や外来で測っている次の情報です。

🧪
尿アルブミン・尿蛋白
腎臓のフィルターから、たんぱくがどれくらい漏れ出ているかを見ます。
📉
eGFR
血液中のクレアチニンから計算する、腎臓の働きの目安です。
📈
下がってきた速さ
一時点の数値ではなく、過去からの変化を見ることが重要です。

これらに原疾患を加えて腎臓の重症度を評価するのが第1段階です。ただし、それだけでは方針は決まりません。もう一段の判断が必要です。

たんぱく質の考え方を決める2段階の判断 たんぱく質の方針は2段階で決まる。第1段階は原疾患・eGFR・尿アルブミンまたは尿蛋白・低下の速さから腎臓の重症度を評価する段階で、軽症で進行リスクが低ければ不足も過剰も避けて個別に調整する。進行リスクが高い場合、すなわち顕性の蛋白尿がある、低下が速い、腎不全期にあたる場合は第2段階に進み、年齢・栄養状態・サルコペニアやフレイル・生活の質を評価する。抑えることの利益が栄養障害のリスクを上回る場合は専門医と管理栄養士のもとで摂取量を抑えることを検討し、低栄養やフレイルのリスクが高い場合は緩和を検討する。なお、たんぱく質摂取制限は推奨グレードUであり、行うことも行わないことも推奨されていない。 たんぱく質は、2段階で考えます たんぱく質をどうするか 第1段階:腎臓の重症度をみる 原疾患/eGFR/尿アルブミン・尿蛋白 そして「下がってきた速さ」 軽症・進行リスクは低い ごく少量のたんぱく尿にとどまるなど 進行リスクが高い はっきりした蛋白尿/低下が速い/腎不全期 不足も過剰も避ける 画一的な制限はしません。減量中は 筋肉を守るために確保する方向へ 第2段階:体の状態をみる 年齢/栄養状態/サルコペニア・フレイル 続けられるか/生活の質 制限を検討 利益がリスクを上回るとき 専門医・管理栄養士のもとで 緩和を検討 低栄養・フレイルの リスクが高いとき たんぱく質の摂取制限は「行うことも行わないことも推奨しない」(推奨グレードU)とされています 腎臓を守ることだけを目的とした画一的な制限は、適切ではないとされています
図3:たんぱく質の方針は、腎臓の重症度だけでは決まりません。体の状態という第2段階があります。
「制限すれば安心」ではありません

ここは、腎臓を専門にしていて最も強く感じている点です。

たんぱく質を減らすと、検査の数字は「良く」なることがあります。ただしそれは、腎臓の働きが回復したからとは限りません。腎機能の指標に使うクレアチニンという物質は筋肉からつくられるため、筋肉が減れば、腎臓の状態が変わらなくても数値は下がって見えます。

数字だけを追いかけて食事を減らし続けた結果、体力が落ち、いざ治療が必要になったときに乗り切れる体でなくなってしまう——これは避けなければならない事態です。実際、栄養状態が悪い方では、たんぱく質を強く抑えることがかえって不利に働く可能性も報告されています。検査値と、体つき・食欲・歩く力を、必ずセットで見ていきます。

筋肉量の影響を受けにくい検査(シスタチンC)を用いて腎機能を確認する方法もあります。クレアチニンでの評価が実態と合っていないと考えられる場合には、必要に応じて実施します。
学会も「緩和を考慮する場合」を示しています

「制限を緩めてよいのか」と不安に思われるかもしれませんが、これは例外的な判断ではありません。

日本腎臓学会は、サルコペニアやフレイルをともなう保存期の慢性腎臓病について、腎臓の進行リスクと体力低下のリスクを比べたうえで、たんぱく質の制限を優先する場合と、緩和を考慮する場合の両方の考え方を示しています。どちらを取るかは、患者さんの状態をよく観察したうえで決めるべきものとされています。

糖尿病の側からも同様で、実際に摂取量を抑える場合であっても、ご高齢の方やサルコペニア・フレイルのある方では、その程度をゆるめるなど個別に対応するという整理がなされています。

ご自身の判断でたんぱく質を大きく減らすことは、お勧めできません。逆に、腎臓の指摘を受けているのに何も気にしないのも望ましくありません。どちらの方針にあたるのかは、検査結果と体の状態をあわせて医師が判断します。まずはご相談ください。
🔗 腎臓との関係をもっと知りたい方へ:糖尿病性腎症とは / 糖尿病で透析を遅らせるには

食塩は「糖尿病だから」ではなく「合併症があるから」効いてくる

食塩は、血糖値そのものにはほとんど影響しません。それでも食事療法で必ず話題になるのは、血圧と腎臓に大きく関わるからです。つまり、重みづけは合併症の有無で変わります。

目標が変わる3つの段階

同じ「減塩」という言葉でも、目標とする量は状況によって変わります。なお、腎臓の病気があっても、まだ軽い段階で高血圧やむくみがない場合には、一般の方と同じ目安が当面の目標になります。

食塩摂取量の目標が変わる段階 一般の成人では男性7.5グラム未満、女性6.5グラム未満が目標量であるのに対し、高血圧がある場合は男女とも6グラム未満、腎臓の病気が進んでいる場合は6グラム未満かつ3グラム以上と下限が設けられていることを、横棒グラフで示した図。腎臓の病気が軽く高血圧やむくみがない場合は一般の目安が当面の目安になること、下限が設けられている理由は過度の減塩と死亡・心血管リスクの関連や低ナトリウム血症への注意によることを注記している。 状況によって、目標は変わります 0g 3g 6g 一般(男性) 7.5g未満 一般(女性) 6.5g未満 高血圧がある 6g未満 腎臓の病気が 進んでいる 6g未満 減らしすぎ ▲ 下限 3g 減塩には「下限」があります 1日3g未満まで減らすことは推奨されていません(安全性が十分に確かめられていないため) ※腎臓の病気が軽く、高血圧やむくみがない場合は、一般の目安が当面の目安になります
図4:食塩の目標は一律ではありません。合併症の有無や腎臓の病気の進み具合で変わり、かつ下限も設けられています。
減らしすぎにも下限があります

減塩は「少なければ少ないほどよい」と思われがちですが、そうではありません。腎臓病の食事療法では、6g未満という上限とあわせて、3g以上という下限が示されています。

下限が設けられている主な理由は、尿へのナトリウム排泄量が極端に少ない範囲で、死亡のリスクがかえって高くなったという報告があることです。あわせて、腎臓の病気では血液中のナトリウムが下がりすぎる状態(低ナトリウム血症)への注意も必要とされています。極端な減塩の安全性は、まだ十分に確かめられていません。

加えて臨床の現場では、過度の減塩によって食事の味が落ち、食べる量そのものが減ってしまうことにも注意しています。特にご高齢の方では、減塩が低栄養の入口になることがあります。ここでも、たんぱく質と同じ「やりすぎない」という視点が必要です。

🧂 減塩のコツと実践法——1日6g未満で血圧と腎臓を守る だし・酸味・香りの使い方、調味料の置き換え、外食での工夫 🩺 糖尿病と高血圧——降圧目標と薬の選び方準備中

脂質・尿酸・お酒は、指摘があれば個別に

残る3つは、優先順位としては後ろに置いて構いません。ただし「軽視してよい」という意味ではなく、健診や外来で指摘を受けている方にとっては重要な項目です。該当する方は、担当医にご相談ください。

脂質の質——量だけでなく「何から摂るか」
脂質は、血糖値そのものよりも動脈硬化のリスクに関わります。全体のエネルギー量を保つことは前提として、そのうえで質を選ぶこと(動物性の脂に偏らない、魚や植物性の油を取り入れる)が重視されます。コレステロールや中性脂肪の指摘を受けている方は、脂質異常症のページもあわせてご覧ください。
プリン体・尿酸——痛風・尿路結石と腎機能をまとめて考える
尿酸値の高さは、痛風発作や尿路結石と関係し、慢性腎臓病と併存することも少なくありません。ただし、尿酸値を下げることで腎機能の低下を一律に防げるとまでは確立していません。

尿酸値、痛風発作や尿路結石の既往、腎機能、飲んでいるお薬などを踏まえて、食事・飲酒・薬による治療を個別に判断します。プリン体を多く含む食品を控えることに加え、脱水は避けたいところですが、心不全や進行した腎不全などで水分制限を指示されている方は、適切な水分量を担当医にご確認ください。
アルコール——「糖質ゼロなら大丈夫」ではありません
お酒は、糖質を含むかどうかよりも、それ自体がエネルギー源であるという点が食事療法では問題になります。「糖質ゼロのお酒なら大丈夫」とは言えないのはこのためです。

また近年は、血圧・肝臓・がんのリスクを含めて考えると、「ここまでなら安全」という一律の線引きは示しにくくなってきています。飲む量が少ないほど体への負担が小さくなる、という方向性で考えるのが現在の標準的な捉え方です。

なお、インスリンや、SU薬・グリニド薬など低血糖を起こしうるお薬で治療中の方では、飲酒が低血糖の引き金になることがあります。ご自身の適量については、主治医とご相談ください。
🍶 糖尿病とお酒——量の考え方と付き合い方準備中 純アルコール量の数え方、低血糖との関係、おつまみの選び方

まず1つだけ変えるなら、どこから始めるか

ここまでの内容を、行動に落とし込みます。すべてを同時に始める必要はありません。ご自身に当てはまるところから、1つだけ選んでください。

⚖️ 体重が気になる方

過体重・肥満をともなう2型糖尿病では、ガイドラインで強く推奨されている部分です。まずは今の体重の3〜5%を目標に。体重計に乗る習慣をつけるところからで構いません。

🍚 血糖の数値を下げたい方

糖質の「量」だけでなく「質」に目を向けると、我慢を増やさずに改善できる余地があります。まずは主食と一緒に野菜や海藻を——食物繊維を足すことから。

🩺 腎臓を指摘されている方

たんぱく質の考え方が変わります。ただし「指摘された=制限」ではありません。自己判断で減らす前に、尿検査と血液検査の結果をご確認ください。

🧂 血圧を指摘されている方

食塩の目標は、合併症の有無で変わります。まずは汁物を1日1杯までに。ただし減らしすぎにも下限があることを忘れずに。

🧂 減塩のコツと実践法——1日6g未満で血圧と腎臓を守る 味を落とさずに減らす、具体的な方法をまとめています 🔬 糖尿病性腎症とは——原因・症状・進行・予防 尿アルブミン・eGFRの読み方と、早期発見のポイント

なお、外食や中食が多い方は、自炊を前提にした食事の話が生活に合わないことがあります。場面ごとの選び方は、別ページで解説する予定です。

🏪 外食・コンビニでの選び方準備中
ひとりで組み立てる必要はありません。当院では、管理栄養士による栄養カウンセリングを行っています。「何をどう変えればよいか分からない」「制限ばかりで食事が楽しくない」といったご相談も歓迎します。詳しくは 栄養指導のご案内 をご覧ください。

よくあるご質問

外来で実際にいただくことの多いご質問をまとめました。

食べてはいけない、ということはありません。糖尿病の食事療法は「これを食べない」という引き算だけで組み立てるものではなく、全体のエネルギー量を適切に保ちながら、糖質の量と質、食べ方を調整していくものです。主食を一切抜くと、その分をおかずで補うことになり、脂質やたんぱく質が増えて別の問題が生じることもあります。どのくらいの量が適切かは、体格・年齢・活動量・治療内容によって変わりますので、担当医や管理栄養士とご相談ください。
6か月から12か月といった短期間であれば、血糖の指標が改善するという報告があり、ガイドラインでも選択肢のひとつとして位置づけられています。一方で、1年から2年を超える期間で比べると、他の食事療法との差がなくなることも示されています。特に注意が必要なのは、全体のエネルギー量を管理しないまま糖質だけを極端に減らすやり方で、これは現時点では勧められていません。また腎臓の状態によっては、減らした糖質をたんぱく質で補うことが調整の方向と合わなくなるため、より慎重な判断が必要です。
果物は糖質を含む一方で食物繊維も含み、血糖の上がり方は比較的おだやかとされています。ただし現時点のガイドラインでは、血糖のコントロールのために果物を摂ることも摂らないことも、どちらかを推奨するには至っていません。はっきりしているのは、砂糖などが加えられた甘い飲み物と、果物そのものは別物だということです。加糖された飲料は血糖コントロールを悪化させる可能性が指摘されており、糖尿病の発症リスクとの関連も報告されています。果物を食べる場合は量を決めて、飲み物ではなく果物として摂ることをお勧めします。なお、果物は糖質も多く含むため、食物繊維を果物だけで補おうとすることは勧められていません。
一切だめ、という考え方は長続きしません。大切なのは、間食を含めた1日全体のエネルギー量です。量を決めずに手元に置いて食べ続けることが最も問題になりやすいので、あらかじめ量を決めておく、食後に少量だけにする、夜遅い時間は避ける、といった工夫のほうが現実的です。なお甘味料については、砂糖の代わりに使うことでエネルギーを減らせる可能性はあるものの、血糖や体重への効果は十分に確認されておらず、ガイドラインでも使用を推奨も否定もしていません。
どちらか一方を選ぶ、という関係ではありません。エネルギー量を適切に保つこと、糖質の量と質を整えることは、腎臓の状態にかかわらず共通します。変わってくるのはたんぱく質と食塩の考え方です。ただし、「腎臓を指摘された=たんぱく質を減らす」ではありません。ガイドラインでは、腎臓を守ることだけを目的とした画一的な制限は適切ではないとされています。摂取量を抑えることが検討されるのは、はっきりした蛋白尿がある、腎機能の低下が速い、腎不全の段階にある、といった進行リスクの高い場合に限られます。そのうえで年齢や栄養状態、体力を含めて総合的に判断します。尿の検査と血液検査の結果をもとに、担当医とご相談ください。
体重が多めの2型糖尿病の方では、まず今の体重の3〜5%を目安にすることが多いです。体重70kgの方であれば2〜3.5kgにあたります。研究をまとめた解析では、5%未満の減量にとどまった研究群では血糖の指標に統計学的に明らかな改善がみられず、5%以上の減量が得られた研究群では改善がみられたと報告されています(ただし効果の出方には個人差があります)。一方で、すべての方に減量が必要なわけではありません。特にご高齢の方では、痩せることよりも筋肉と体力を保つことのほうが大切になる場合があります。ご自身の目標体重については担当医にご確認ください。

食事療法に「全員共通の正解」はありません。同じ糖尿病でも、腎臓の状態によって考え方は変わります。当院は腎臓を専門とする立場から、検査値と体の状態の両方をみて、その方に合った食事の組み立てをご提案します。

食事のことを、一度きちんと相談したい方へ

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参考文献

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  2. 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病診療ガイドライン2024(9章 糖尿病性腎症/CQ9-2 タンパク質の摂取制限は糖尿病性腎症の進行抑制に有効か?). 南江堂. 2024.
  3. 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療ガイド2024. 文光堂. 2024.
  4. 厚生労働省.「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書. 2024.
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  8. 日本高血圧学会 編. 高血圧管理・治療ガイドライン2025. 2025.
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  10. 日本老年医学会・日本糖尿病学会 編・著. 高齢者糖尿病診療ガイドライン2023. 南江堂. 2023.
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  12. Franz MJ, et al. Lifestyle weight-loss intervention outcomes in overweight and obese adults with type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. J Acad Nutr Diet. 2015;115(9):1447–1463. doi:10.1016/j.jand.2015.02.031
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免責事項:本ページは医学的情報の理解促進を目的とした一般的・教育的コンテンツであり、特定の食品・食事法・製品を推奨するものではありません。記載の多くは成人の2型糖尿病を対象とした研究・ガイドラインに基づくものであり、1型糖尿病・妊娠中・小児・低栄養やフレイルのある方には当てはまらない場合があります。記載した数値・基準はいずれも一般的な枠組みを示したもので、個々の患者さんの目標量・実践方法は担当医師および管理栄養士が個別に設定します。食事内容の大きな変更、特にたんぱく質・食塩の制限は、自己判断で行わず必ず担当医師とご相談ください。掲載情報は作成時点のガイドライン等に基づいており、最新の情報を必ずご参照ください。

監修・文責:加藤 彰浩(院長)|総合内科専門医・腎臓専門医|きたはらやまクリニック(尾張旭市)
公開日:2026年2月/最終更新:2026年10月/本ページの内容は医療情報の提供を目的としており、特定の診断・治療を推奨するものではありません。実際の食事療法の方針については担当医にご相談ください。掲載内容はガイドラインの改訂により変更されることがあります。