糖尿病で腎臓を守るには?
「糖尿病があると、いずれ透析になるのでは」と不安な方へ。腎臓は、早く気づいて対策を始めれば、進行をゆるやかにできる可能性がある臓器です。今日からできる“腎臓を守るための具体策”を、総合内科・腎臓専門医が順番に整理しました。
糖尿病でも、早い段階から対策すれば、腎臓の負担の進み方をゆるやかにできる可能性があります。
「糖尿病があると、いずれ透析になるのではないか」——そんな不安を抱えて来院される方は少なくありません。このページでは、病気の細かい説明はいったん脇に置き、「腎臓を守るために、実際に何をすればいいのか」に絞ってお伝えします。
- 腎臓を守るための3つのポイント(血糖・血圧・脂質)
- 検査で見るべき数字(尿アルブミン・eGFR)
- 今日から始められる、腎臓を守るための対策
- 腎臓は障害が進むまで自覚症状が出にくい一方、早く気づいて対策すれば進行を抑えられる可能性がある臓器です。症状がない“今”が、対策の始めどきです。
- 腎臓を守る鍵は、血糖・血圧・脂質の3つを一緒に整えること。血糖だけでなく、血圧の管理も大きな柱になります。
- 早い段階から尿アルブミンとeGFRを定期的にチェックし、「変化」を追い続けることが、腎臓を守る第一歩です。
腎臓は「早く気づけば守れる」臓器
糖尿病で腎臓を守るうえで、まず知っておいていただきたいのは、「症状が出てから対策する」では遅いということです。腎臓は障害がかなり進むまでむくみやだるさが出にくく、症状が現れた頃にはすでに進行している場合が少なくありません。
裏を返せば、症状がない今こそが、腎臓を守るためのいちばん良いスタート地点だということです。血糖・血圧・脂質を早くから整え、腎臓の状態を定期的に確認していけば、腎機能が下がっていくスピードをゆるやかにできる可能性があります。過度に怖がる必要はありませんが、「まだ大丈夫」と自己判断で様子を見続けないことが大切です。
※模式図です。腎代替療法(透析・移植)の開始時期は、eGFRの数値だけでなく、症状や全身の状態を含めて総合的に判断します。
糖尿病による腎臓の変化は、いきなり悪くなるのではなく、年単位でゆっくり進みます。だからこそ、早く気づいて血糖・血圧・脂質を一緒に整えることで、将来の選択肢を守れる可能性があります。「腎臓の病気そのもの」を詳しく知りたい方は、下記の総論ページもあわせてご覧ください。
腎臓を守る第一歩 ― アルブミン尿とeGFR
腎臓を守るための最初の一歩は、「今、腎臓にどれくらい負担が及んでいるか」を知ることです。腎臓は症状が出にくいため、体調ではなく検査結果が手がかりになります。とくに重要なのが、次の2つです。
尿アルブミン(尿ACR)
腎臓からごく少量のアルブミンが漏れ始める、比較的早期に現れる重要なサイン。初期にはeGFRが保たれたまま、尿アルブミンだけが増えることがあります。
eGFR(推算糸球体ろ過量)
血液中のクレアチニンなどから計算する、腎臓のろ過機能の指標。糖尿病による腎臓病の初期には保たれていることもあるため、eGFRだけでは早期の異常を見逃すことがあります。
注意したいのは、血液検査(クレアチニン・eGFR)が正常でも、腎臓が安心とは限らないという点です。糖尿病による腎臓の変化は、血液検査に表れるより先に、尿アルブミンで見つかることが少なくありません。だからこそ、血液と尿の両方で確認することが、早期に気づいて腎臓を守るための基本になります。
なお、尿アルブミンは一時的に増えることもあるため、異常がみられた場合は再検査し、その状態が続いているかを確認します。
健診などで「尿たんぱくが少し」「腎機能が少し気になる」と言われた場合でも、一度は医療機関で詳しく評価を受けることをおすすめします。どの程度なのか、どのくらいの頻度で見ていくべきかを確認しておくことが、腎臓を守るうえで大きな意味を持ちます。
腎臓を守る3本柱 ― 血糖・血圧・脂質
腎臓を守るうえで大切なのは、腎臓や血糖だけを個別に見るのではなく、体全体の状態をまとめて整える視点です。とくに重要になるのが、次の3つの柱です。
血糖
腎臓の細い血管への負担を減らす基本。ただし無理に下げるのが目的ではなく、続けられる管理が重要です。
血圧
腎臓に直接影響する、見落とされがちな大きな柱。血圧を整えることは、腎臓を守るうえで血糖と同じくらい重要です。
脂質
動脈硬化や心筋梗塞・脳卒中を防ぐために重要です。糖尿病やCKDでは心血管の病気のリスクも高くなります。
糖尿病で腎臓を守る対策では、この生活習慣病を総合的に管理することが、もっとも現実的で効果的な考え方になります。以下、それぞれについて「実際に何をするか」を見ていきます。
現在では、糖尿病による腎臓病(糖尿病性腎症・糖尿病関連腎臓病)は、「血糖だけ」を治療する時代ではありません。血糖・血圧・脂質を総合的に管理することが、将来の透析予防につながると考えられています。
血糖管理の実際 ― 目標値・食事・運動・薬
血糖管理は、腎臓を守る3本柱の土台です。ただし「低ければ低いほど良い」わけではなく、年齢や生活状況に合った、続けられる目標を主治医と決めることが大切です。目安となる目標値を整理しました。
| 指標 | 目標の目安 |
|---|---|
| HbA1c (多くの方の目安) |
7.0%未満を目安に、一人ひとりに合わせて調整 ※日本糖尿病学会は「血糖正常化を目指す:6.0%未満/合併症を防ぐ:7.0%未満/治療の強化が難しい場合:8.0%未満」の3つを状況に応じて使い分けます。 |
| 空腹時血糖 | 130 mg/dL未満 |
| 食後2時間血糖 | 180 mg/dL未満 |
| 高齢の方・腎機能が低下している方 | 低血糖の起こりやすさ、認知機能やADL、併存する病気、使っているお薬などを踏まえて個別に設定します(一律に緩めるものではありません) |
※目標値は年齢・糖尿病の期間・腎機能・低血糖の起こしやすさ・他の病気の有無などによって個別に設定されます。65歳以上の方には別途「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」が定められています。必ず主治医と相談のうえ決めてください。
食事・運動・薬の組み合わせ
血糖管理の土台は、食事・運動・薬を体の状態に合わせて組み合わせることです。それぞれの要点は次のとおりです。
食事
極端な制限ではなく、量とバランス、食べる順番などの工夫が中心。無理なく続けられる形を主治医・管理栄養士と探します。
運動
ウォーキングなどの有酸素運動が役立ちます。腎臓や心臓の状態で強度・可否が変わるため、始める前に相談を。
薬
近年は血糖を下げるだけでなく、腎臓を守る働きが期待できる薬も。種類や選び方はガイドページにまとめる予定です。
血糖を下げること自体が目的化すると、低血糖という別のリスクが生まれます。とくに高齢の方や腎機能が低下している方では、低血糖が起こりやすく、また危険にもなりやすいため、目標をやや緩やかにすることがあります。ふらつき・冷や汗・強い空腹感などがあれば、我慢せず主治医にお伝えください。
血圧・脂質を整える ― 血糖と並ぶ腎保護の柱
血圧の管理
血圧は腎臓に直接負担をかけるため、腎臓を守るうえで血糖と並ぶ大きな柱です。糖尿病がある方では、多くの場合おおむね130/80mmHg未満が一つの目安になり、尿にアルブミンやたんぱくが出ている場合はとくに重要になります。診察室だけでなく家庭での血圧も測ると、より実態に近い管理ができます。
お薬では、腎臓を守る働きが期待できるACE阻害薬・ARBなどが用いられることがあります。あわせて、減塩は血圧を下げるうえで多くの方に役立つ、身近で効果的な工夫です。
脂質の管理
脂質(コレステロール)の管理は、動脈硬化や心筋梗塞・脳卒中などの心血管の病気を防ぐために重要です。糖尿病やCKDがあると心血管の病気のリスクも高くなるため、コレステロール管理を含めた総合的な対策が必要になります。必要に応じてスタチンなどの薬を用いながら、LDLコレステロールを適切な範囲に保つことを目指します。目標値は、糖尿病や他の病気の有無によって個別に決まります。
血圧・脂質・尿アルブミンの管理(医療従事者向けの補足)
糖尿病かつアルブミン尿・蛋白尿を伴うCKDでは、降圧目標は診察室血圧130/80mmHg未満が目安とされ(JSH2025・CKD診療ガイドライン2023)、RAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB)が第一選択に位置づけられます。尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)に基づく重症度評価(KDIGOのCGA分類)を用い、A2以上では腎保護と心血管リスク低減を意識した集学的管理を行います。脂質は動脈硬化性疾患のリスク区分に応じてLDL-Cの管理目標を設定します。近年はSGLT2阻害薬、非ステロイド型MRA(フィネレノン)、GLP-1受容体作動薬など、腎・心保護のエビデンスを持つ薬剤の位置づけが大きくなっています(KDIGO 2022)。個々の適応・併用は腎機能や併存症を踏まえて判断します。
定期検査で「変化」を追う ― 数値の推移が主役
腎臓を守るうえで大切なのは、一度の検査結果だけで一喜一憂するのではなく、数値がどう変化していくかを継続して見ていくことです。どの項目を確認するのかを整理しました。点の多さは確認する頻度のイメージで、HbA1cはこまめに、eGFRや尿アルブミンも定期的に確認していきます。
※糖尿病で通院中の方の一般的な目安です。実際の間隔は通院頻度・腎機能・治療内容によって異なるため、主治医の指示に従ってください。
腎臓は症状が出にくいからこそ、症状がない時期の定期チェックが最大の武器になります。症状が出てから受診するのではなく、「今の良い状態を保つための通院」とお考えいただくと、続けやすくなります。
よくある質問(FAQ)
尿にアルブミンやたんぱくが出たら、もう手遅れですか?
いいえ、出たからといってすぐに手遅れになるわけではありません。特に早い段階では、血糖・血圧などの管理によって進行を抑えられる可能性があります。大切なのは「出たかどうか」だけで判断せず、どの程度で、どのように変化していくかを続けて見ていくことです。
クレアチニン(eGFR)が正常なら、腎臓は守れていますか?
クレアチニンは重要な指標ですが、糖尿病による腎臓の変化はごく初期には血液検査に表れにくく、先に尿アルブミンで見つかることが少なくありません。血液検査だけで安心せず、尿の検査(尿アルブミン/クレアチニン比)とあわせて確認することが、腎臓を守るうえで重要です。
「腎臓に悪い」と聞いた薬は、飲まない方がいいですか?
腎臓に負担となりうる薬がある一方で、腎臓を守る目的で使われる薬も多くあります。自己判断で中止すると、かえって病状が悪化することもあるため、必ず主治医と相談しながら調整してください。市販の鎮痛薬などを続けて使う場合も、一度ご相談いただくと安心です。
血圧はどのくらいを目指せばいいですか?
糖尿病がある方では、多くの場合おおむね130/80mmHg未満が一つの目安になり、尿にアルブミン・たんぱくが出ている場合はとくに重要です。ただし年齢や状態によって適切な目標は異なります。診察室だけでなく家庭での血圧も測り、主治医と目標を確認しましょう。
塩分やたんぱく質は制限した方がいいですか?
腎臓を守るうえで減塩は多くの方に役立ちます。一方、たんぱく質は腎臓の状態によって適切な量が変わり、自己流の極端な制限はかえって体に負担となることがあります。食事の調整は自己判断せず、主治医や管理栄養士に相談しながら、無理なく続けられる形にすることが大切です。
症状がないのに、通院や検査を続ける必要がありますか?
はい。腎臓は障害が進むまで症状が出にくいからこそ、症状がない今の時期に定期的に検査し、変化を早く捉えることが腎臓を守る鍵になります。症状が出てから受診するのではなく、今の良い状態を保つための通院とお考えください。
まとめ ― 腎臓を守るためにできること
糖尿病で腎臓を守るためにできることは、けっして特別なことではありません。症状がない今のうちに尿アルブミンとeGFRで現在地を知り、血糖・血圧・脂質の3本柱を一緒に整え、定期検査で変化を追い続ける——この積み重ねが、腎機能の低下をゆるやかにし、将来の選択肢を守ることにつながります。「まだ大丈夫」と自己判断せず、気になる点があれば早めに専門医に相談することが、腎臓を守る第一歩です。
糖尿病と腎臓は、早くから対策するほど、将来の選択肢を守れる可能性があります。「今の腎臓の状態を一度確認しておきたい」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。
腎臓のことまで含めて相談したい方へ
「血糖だけでなく、腎臓のことも見てほしい」「透析にならないように早くから対策したい」——そうしたご相談を歓迎しています。当院では、総合内科・腎臓専門医が、血糖・血圧・脂質から腎臓の状態まで一貫して確認し、一人ひとりに合った腎保護のプランをご提案します。
当院の糖尿病・腎臓の診療について参考文献
- 日本腎臓学会編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社; 2023.
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂; 2024.
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2024. 文光堂; 2024.
- 糖尿病性腎症合同委員会・糖尿病性腎症病期分類改訂ワーキンググループ. 糖尿病性腎症病期分類2023の策定. 糖尿病. 2023;66(11):797-805.
- Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. KDIGO 2022 Clinical Practice Guideline for Diabetes Management in Chronic Kidney Disease. Kidney Int. 2022;102(5S):S1-S127.
- de Boer IH, et al. Diabetes Management in Chronic Kidney Disease: A Consensus Report by the American Diabetes Association (ADA) and Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO). Diabetes Care. 2022;45(12):3075-3090. doi:10.2337/dci22-0027.
- Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group. KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. Kidney Int. 2024;105(4S):S117-S314.
- 日本高血圧学会. 高血圧管理・治療ガイドライン2025.
監修・文責:加藤 彰浩(院長)|総合内科専門医・腎臓専門医|きたはらやまクリニック(尾張旭市)
公開日:2026年2月/最終更新:2026年8月/本ページの内容は医療情報の提供を目的としており、特定の診断・治療を推奨するものではありません。掲載している目標値等は一般的な目安であり、自己診断を目的としたものではありません。実際の診断・治療方針については医療機関にご相談ください。掲載内容はガイドライン等の改訂により変更されることがあります。
