糖尿病で透析を遅らせるには?
腎機能(eGFR)が下がってきた——そう言われて不安な方へ。この段階でも、やるべきことを積み重ねれば、透析までの時間を引き延ばし、できるだけ避けられる可能性があります。進行してきた腎臓を守るために「いま何をするか」を、総合内科専門医・腎臓専門医が整理しました。
腎機能が下がってきた段階でも、できることはたくさんあります。透析までの時間を引き延ばし、できるだけ避けることを目標に、いまやるべきことを一つずつ整理します。
「eGFRが下がってきた」「このままだと透析かもしれない」——そう言われて、このページにたどり着いた方も多いと思います。まずお伝えしたいのは、腎機能が下がってきた段階でも、打つ手はあるということです。早期のうちに始めるのが理想ですが、進行してきた段階でも、要因を一つずつ抑えていくことで、腎機能が低下していくスピードをゆるやかにできる可能性があります。
- 腎機能が下がってきた段階で、透析を遅らせるために優先すべきこと
- 進行期の腎保護薬と、合併症(貧血・カリウムなど)の管理
- 透析を「早めてしまう」急な悪化(AKI)を避けるコツ
- 進行してきた段階では、目標は、低下した腎機能を元に戻すことより「透析までの時間をできるだけ引き延ばす」ことに切り替わります。血圧・尿蛋白・血糖の管理が、その中心です。
- この段階では、貧血・カリウム・むくみ・骨や血管の異常といった「合併症」の管理が、体調の維持と重篤な合併症の予防に重要です。
- 脱水や発熱、市販薬の使い方など、「1回の急な悪化(AKI)」が透析を大きく早めることがあります。これを避けることが、進行期ではとくに重要です。
透析は「遅らせる」ことを目標にできる
糖尿病による腎臓の障害が進み、腎機能(eGFR)が下がってくると、「もう透析は避けられないのでは」と感じる方が少なくありません。しかし、この段階でも、腎臓の負担を減らす取り組みには意味があります。腎機能が下がっていく速さ(スロープ)はひとりずつ違い、要因を抑えることで、その傾きをゆるやかにできる可能性があるからです。
大切なのは、目標の置き方を切り替えることです。早期であれば「腎臓をできるだけ長く良い状態に保つ」ことが目標ですが、進行してきた段階では、「透析が必要になる時期をできるだけ後ろに引き延ばし、避けられる場合は避ける」ことが現実的で前向きな目標になります。過度に悲観する必要も、逆に「まだ大丈夫」と油断する必要もありません。
このページは、腎機能が下がってきた進行期の方に向けた「深掘り」ページです。「糖尿病でそもそもなぜ腎臓が悪くなるのか」という病気の仕組みや、早期〜中期の一般的な腎臓の守り方については、別のページで詳しく解説しています。必要に応じて、あわせてご覧ください。
いま、腎機能はどの段階か——自分の位置を知る
透析を遅らせる取り組みの出発点は、「いま自分の腎臓がどのあたりにいるのか」を正しく知ることです。進行期では、次の2つの数字の「推移」がとくに重要になります。
eGFR(推算糸球体ろ過量)
腎臓のろ過力を示す数字。進行期では「今の値」だけでなく、1年でどれくらい下がっているか(傾き)を見ることが、透析までの見通しを立てるうえで大切になります。
尿蛋白・尿アルブミン
腎臓への負担の大きさを映す指標。多いほど進行が速くなりやすいため、これを減らせるかどうかが、進行を抑えるうえでの重要なカギになります。
大まかには、腎機能はいくつかの段階を経て低下していきます。下の図は、進行の位置と「この段階で何を目指すか」のイメージです。
※模式的なイメージです。実際の下がり方は、腎機能の段階・尿蛋白の量・血圧や血糖の管理状況・合併症などによって大きく異なります。病期分類の詳細は糖尿病性腎症とはをご覧ください。
eGFRの値と、この段階でやること(おおよその目安)
「自分のeGFRの数字が、どのあたりなのか」が気になる方も多いと思います。あくまでおおよその目安ですが、値ごとの一般的な位置づけと、その段階で意識することを整理しました。同じ数字でも、尿蛋白の量や下がる速さによって状況は変わるため、数字だけで判断せず、必ず主治医とあわせて確認してください。
| eGFRの目安 | 一般的な位置づけ | この段階で意識すること |
|---|---|---|
| 45〜59 | 腎機能が中等度に低下し始めた段階(G3a) | 血圧・尿蛋白・血糖の管理を整え、下がる速さをゆるやかにすることが目標。まだ対策の効果が出やすい時期です。 |
| 30〜44 | 腎機能の低下がやや進んだ段階(G3b) | 合併症(貧血・カリウムなど)が出始めることがあり、より慎重な管理が必要に。腎臓専門医の関与が特に役立つ時期です。 |
| 15〜29 | 腎機能が高度に低下した段階(G4) | 合併症の管理を強めつつ、透析などの選択肢について情報を知り始める時期。慌てず準備できるよう早めに話し合います。 |
| 15未満 | 腎不全の段階(G5) | 症状や状態を見ながら、透析導入などの検討に入る時期。ここでも準備の進め方には個別の幅があります。 |
※CKD(慢性腎臓病)のGFR区分に基づくおおよその目安です。実際の評価は尿蛋白(尿アルブミン)の量とあわせて行い、透析を始める時期は数字だけでなく症状・体の状態を総合して個別に判断します。
進行期では、1回ごとの検査値に一喜一憂するより、数か月〜年単位でどう推移しているかを主治医と一緒に確認することが大切です。傾きがゆるやかになっていれば、対策が効いているサインです。「自分のeGFRは、この1年でどのくらい変化していますか」と、診察時に聞いてみてください。
進行を抑える3本柱——血圧・尿蛋白・血糖
腎機能が下がってきた段階でも、進行を抑える取り組みの柱は血圧・尿蛋白・血糖です。早期と同じ3本柱ですが、進行期では優先順位と目標の置き方が少し変わります。ここでは進行期ならではのポイントに絞ってお伝えします(3本柱の基本的な考え方や早期の対策は、「糖尿病で腎臓を守るには?」をご覧ください)。
① 血圧——この段階でいちばん効く柱
進行期では、血圧の管理が、透析を遅らせるうえで最も効果が大きい柱の一つになります。血圧が高いままだと、腎臓の細い血管への負担が続き、進行が速まります。糖尿病があり尿蛋白も出ている方では、おおむね130/80mmHg未満が一つの目安ですが、腎機能や年齢によって適切な目標は変わります。診察室だけでなく家庭での血圧測定を習慣にし、その記録を主治医と共有することが、きめ細かな調整につながります。
② 尿蛋白を減らす価値
尿蛋白(尿アルブミン)は、腎臓への負担の大きさを映すと同時に、それ自体が腎臓をさらに傷める要因にもなります。だからこそ、進行期では「尿蛋白を今より減らす」こと自体が治療の目標になります。薬や血圧・血糖の管理によって尿蛋白を減らせると、腎機能の低下がゆるやかになり、心臓や血管を守ることにもつながります。
③ 血糖——「下げすぎない」管理へ
血糖管理は引き続き大切ですが、進行期では考え方が変わります。腎機能が下がると、一部の薬やインスリンの作用が強く、長く出ることがあり、低血糖が起こりやすく、危険にもなりやすいためです。そのため、この段階では「厳しく下げる」より「低血糖を避けながら、無理のない範囲で整える」ことが優先されます。HbA1cの目標をやや緩やかにすることもあります。
また、進行した腎機能低下や腎性貧血、その治療の影響により、HbA1cが実際の血糖状態とずれることがあります。必要に応じて、血糖測定やCGM(持続血糖モニタリング)、グリコアルブミンなども参考にしながら評価します。
腎機能が低下すると、これまで問題なく使えていた血糖の薬でも、低血糖のリスクが高まることがあります。ふらつき・冷や汗・強い空腹感・動悸などがあれば、我慢せず主治医に伝えてください。薬の種類や量の見直しが必要なサインかもしれません。自己判断で薬を中止・変更せず、必ず相談しながら調整しましょう。
進行期の腎保護薬——「eGFRが下がってきた時」の使い方
近年は、血糖を下げるだけでなく腎臓そのものを守る効果が示された薬が広く使われるようになりました。ただし、これらの薬は腎機能の段階によって使い方・注意点が変わります。ここでは進行期に関わるポイントを整理します。
※以下は、主に2型糖尿病に伴う慢性腎臓病(CKD)で用いられる薬についての説明です。1型糖尿病では、薬の適応や安全性が異なります。
SGLT2阻害薬
腎臓・心臓を守る効果が示され、腎保護の中心的な薬になっています。開始時に一時的にeGFRがやや下がって見えることがありますが、多くは想定内の反応です。ごく低下した段階では適応が変わるため、主治医が判断します。
ACE阻害薬・ARB
血圧を下げつつ尿蛋白を減らす、腎保護の基本薬。進行期では、腎機能やカリウム値を見ながら量を調整します。脱水時などに一時中止が必要になることもあります。
フィネレノン(非ステロイド型MRA)
2型糖尿病に伴うCKDで、適切な治療を行ってもアルブミン尿が残る場合などに検討する薬。腎臓・心血管のリスクを下げる効果が示されていますが、カリウムが上がりやすいため定期的な採血が必要です。
GLP-1受容体作動薬
血糖・体重の管理に加え、腎・心保護の効果も報告されています。進行期でも使いやすい選択肢の一つですが、適応は個別に判断します。
「何が基本か」——基盤の薬と、状況に応じて加える薬
薬が複数あると、どれが中心なのか分かりにくいかもしれません。上の4つは、大まかに早い段階から基盤として使う薬と、状況に応じて上乗せする薬に分けて考えると整理しやすくなります。
SGLT2阻害薬/ACE阻害薬・ARB。とくに2型糖尿病に伴うCKDでは、SGLT2阻害薬が血圧や尿蛋白の状況によらず腎・心保護の中心になります。ACE阻害薬・ARBは、高血圧がある場合や尿蛋白が出ている場合に、あわせて基盤となります。
フィネレノンは、基盤の薬を使っても尿蛋白が残る場合などに、カリウム値を見ながら追加を検討します。GLP-1受容体作動薬は、血糖・体重や心臓・腎臓のリスクの状況に応じて加えます。
これらの薬は、必ずしも一つずつ順番に足していくものではなく、状態に応じて基盤の薬を組み合わせて使うことがよくあります。とくに2型糖尿病に伴うCKDでは、SGLT2阻害薬とRAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)を適応に応じて組み合わせることが、腎臓を守るうえで大きな意味を持ちます。実際の組み合わせは、必ず主治医が一人ひとりの状態を見て判断します。
腎保護薬の中には、飲み始めにeGFRがわずかに下がって見えるものがあります。これは腎臓の中の圧の調整によるもので、多くは想定内の反応であり、長い目で見れば腎臓を守る方向に働きます。数字だけを見て自己判断で中止せず、主治医の説明を受けながら継続することが大切です。
どの薬が適しているかは、腎機能の段階・尿蛋白の量・カリウム値・他の合併症によって一人ひとり異なります。薬の全体像や選び方については、専用のガイドページを準備しています。
進行期CKDにおける腎保護薬の位置づけ(医療従事者向けの補足)
2型糖尿病に伴うDKDでは、血圧・アルブミン尿の状況に応じてRAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB)を用い、SGLT2阻害薬、必要に応じてフィネレノンを組み合わせるpillar therapyの考え方が主流となっています(KDIGO 2022、de Boer IH, et al. Diabetes Care 2022)。SGLT2阻害薬は日本の添付文書・各学会の指針に基づき適応eGFRを確認して導入し、導入初期のeGFR低下(initial dip)は継続の可否判断において許容範囲を踏まえて評価します。フィネレノンはUACRと血清カリウム、eGFRをモニタリングしながら用います。RAS阻害薬は高カリウム血症やシックデイ時の急性腎障害リスクに留意し、必要に応じてsick day ruleに沿った一時中止を指導します。GLP-1受容体作動薬は心腎アウトカムのエビデンスが集積しており、適応・忍容性を踏まえて選択します。個々の適応・用量・併用は腎機能と併存症に応じて個別に判断します。
合併症を早めに見つけて管理する——貧血・カリウム・酸・骨
腎機能が下がってくると、腎臓が担っていた「調整役」の働きが弱まり、さまざまな合併症が現れます。これらの合併症は、日々の体調だけでなく、不整脈、心臓や骨・血管への影響、薬物治療の安全性にも関わります。そのため進行期では、定期的な採血で早めに見つけ、それぞれの状態に応じて管理することが重要です。
腎性貧血
腎臓でつくる造血ホルモンが減り、貧血になります。だるさ・息切れの原因になり、心臓にも負担がかかります。鉄剤や専用の薬で管理します。
高カリウム血症
カリウムを排出しにくくなり、値が上がると不整脈など危険なこともあります。食事の工夫や薬で調整します。腎保護薬との兼ね合いでも重要です。
代謝性アシドーシス
体が酸性に傾きやすくなります。腎臓の進行を速める一因とされ、必要に応じて内服で補正することがあります。
骨・ミネラルの異常(CKD-MBD)
リンやカルシウム、ホルモンのバランスが崩れ、骨や血管に影響します。リンの管理や薬で対応します。
※定期的な採血で早めに見つけて管理することが、体調の維持と重篤な合併症の予防につながります。
貧血やカリウムなどの合併症を整えることは、日々のだるさやむくみといった体調の改善につながると同時に、不整脈や骨・血管への影響といった重篤な合併症を防ぎ、腎臓を守る薬を安全に続けるうえでも大切です。進行期では、定期的な採血でこれらを細かくチェックしていくことが、とても重要になります。
食事の「ギアチェンジ」——たんぱく質・塩分・カリウム・リン
食事療法も、進行期では内容が変わってきます。早期は「バランスよく・減塩を中心に」でよかったものが、腎機能が下がってくると、たんぱく質・カリウム・リンなども意識した個別の調整が必要になることがあります。ただし、これは自己流で行うと逆効果になりやすい領域です。
塩分
引き続き重要。減塩は血圧を下げ、むくみや尿蛋白を抑えるのに役立ちます。多くの方に効果的な、基本の工夫です。
たんぱく質
摂りすぎは腎臓の負担になりますが、減らしすぎは低栄養・筋力低下を招き、かえって危険。適量は人によって違うため、必ず専門職と相談を。
カリウム
値が高い方は、野菜・果物・いも類などの摂り方に工夫が必要な場合があります。一律に制限するものではなく、採血の値を見て調整します。
リン
加工食品や乳製品などに多く含まれます。値が高い場合は、食事の工夫や薬で管理していきます。
「腎臓に良いから」と自己判断で肉や魚を極端に減らすと、筋肉が落ちて体力が低下し(サルコペニア・フレイル)、かえって予後を悪くすることがあります。とくに高齢の方では、低栄養のほうが大きなリスクになる場合もあります。食事の調整は、腎機能の段階・栄養状態・年齢を踏まえて、主治医や管理栄養士と一緒に決めることが欠かせません。
急な悪化(AKI)を避ける——透析を「早めない」ために
進行期でとくに知っておいていただきたいのが、急性腎障害(AKI)です。腎臓は、脱水や感染、一部の薬などをきっかけに、短期間でガクンと機能が落ちることがあります。もともと腎機能が下がっている方では、この「1回の急な悪化」が引き金となって、透析までの時間を一気に縮めてしまうことがあります。逆に言えば、これを避けることは、進行期で非常に重要な「透析を早めない」ための対策です。
※模式的なイメージです。急な悪化(AKI)から回復することもありますが、もともと腎機能が下がっている方では、元の水準まで戻りきらないことがあります。
とくに気をつけたい場面(シックデイ)
脱水・発熱・下痢・嘔吐
水分が失われると腎臓への血流が減り、急に悪化することがあります。体調を崩したときは早めに相談を。
市販の痛み止め(NSAIDs)
市販の鎮痛薬の一部は腎臓の血流を減らし、負担になることがあります。使う前に一度ご相談ください。
造影剤を使う検査
造影剤が腎臓に負担となる場合があります。検査を受ける際は、腎機能が下がっていることを必ず伝えてください。
発熱・下痢・嘔吐などで食事や水分が十分にとれない日を「シックデイ」と呼びます。こうしたとき、いつも通りに薬を飲み続けると、かえって腎臓に負担がかかる薬があります。体調を崩したときに、どの薬をどうすればよいかを、あらかじめ主治医に確認しておくと安心です。判断に迷うときは、自己判断せず早めにご連絡ください。
尿の量が急に減った、体重が急に増えてむくみが強い、ぐったりして食事や水分がとれない——こうしたときは、腎臓が急に悪化しているサインのことがあります。無理に様子を見ず、早めに医療機関にご連絡ください。
腎臓専門医と二人三脚で管理する
腎機能が下がってきた段階では、腎臓を専門に診る医師(腎臓内科)が関わることのメリットが大きくなります。進行期は、腎保護薬の細かな調整、合併症(貧血・カリウム・骨など)の管理、食事の個別化、そして急な悪化への備えなど、見るべきポイントが増えるためです。
一般的に、腎機能が一定以上低下してきた場合や、尿蛋白が多い場合、下がり方が速い場合などには、かかりつけ医から腎臓専門医への紹介・併診が検討されます。「紹介」というと不安に感じる方もいますが、これは腎機能や尿蛋白の状態を詳しく評価し、より手厚く管理するために行われるものです。紹介されたからといって、直ちに透析が必要という意味ではありません。
きたはらやまクリニックでは、総合内科専門医・腎臓専門医が、糖尿病の管理から腎臓の専門的な管理までを一貫して行えます。血糖・血圧・尿蛋白の管理はもちろん、進行期の腎保護薬の調整や合併症のチェックまで、腎臓を専門とする視点でお一人おひとりの状態に合わせて対応します。より専門的な検査・治療が必要な場合には、連携する専門医療機関へおつなぎします。
それでも透析が視野に入ってきたら
できることを尽くしても、腎機能の低下が進み、透析などが視野に入ってくることはあります。そのときに知っておいていただきたいのは、「透析=終わり」ではないということ、そして早めに準備を始めるほど、選択肢を落ち着いて選べるということです。
腎不全が進行した場合の治療選択には、腎臓の働きを補う腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)と、透析を行わず症状の緩和や生活の質を重視する保存的腎臓療法があります。それぞれに特徴があり、生活スタイルや体の状態に合わせて選ぶことができます。
血液透析(HD)
通院して、機械で血液をきれいにする方法。多くの方が選ぶ、最も一般的な方法です。
腹膜透析(PD)
お腹の膜を使い、自宅で行える方法。生活の自由度が高いのが特徴です。
腎移植
提供された腎臓を移植する方法。条件が合えば、生活の質を大きく保てる選択肢です。
保存的腎臓療法
透析や移植を行わず、腎不全に伴う症状や合併症の管理、生活支援、心理・社会的な支援などを包括的に行う治療。年齢や体の状態、ご本人の価値観を踏まえて検討します。
どの方法が良いかは、年齢や生活スタイル、体の状態、ご本人が大切にしたいことによって一人ひとり異なります。「これが正解」という一つの答えがあるわけではないので、主治医とよく相談しながら、自分に合った形を選んでいきましょう。
透析が視野に入っても、すぐに始まるわけではありません。前もって情報を知り、方法を選び、必要な準備(血液透析ならシャントの準備など)を整えておくことで、慌てずに、自分に合った形を選べます。早めに主治医と話しておくことは、決して悲観的なことではなく、これからの生活を自分らしく保つための前向きな備えです。
よくある質問(FAQ)
eGFRが下がってきました。もう透析は避けられないのでしょうか?
下がってきた段階でも、できることはあります。血圧・尿蛋白・血糖の管理や、急な悪化(AKI)を避ける工夫によって、腎機能が下がっていくスピードをゆるやかにできる可能性があります。透析を必ず回避できると保証はできませんが、透析までの時間をできるだけ引き延ばすことを目標に、一緒に取り組んでいけます。まずは今の状態と「傾き」を確認しましょう。
腎機能が下がったら、たんぱく質は減らした方がいいですか?
摂りすぎは腎臓の負担になりますが、自己流で極端に減らすのは危険です。たんぱく質を減らしすぎると、筋力や体力が落ちて(サルコペニア・フレイル)、かえって予後を悪くすることがあります。適切な量は腎機能の段階・栄養状態・年齢によって異なるため、主治医や管理栄養士と相談しながら決めてください。
腎臓を守る薬を飲み始めたら、eGFRが少し下がりました。やめた方がいい?
自己判断で中止しないでください。腎保護薬の中には、飲み始めにeGFRがわずかに下がって見えるものがあります。これは腎臓の中の圧の調整によるもので、多くは想定内の反応であり、長い目では腎臓を守る方向に働きます。気になる場合は、主治医に確認しながら続けることが大切です。
市販の痛み止めを飲んでも大丈夫ですか?
市販の鎮痛薬の一部(NSAIDs)は腎臓の血流を減らし、腎機能が下がっている方では負担になることがあります。とくに繰り返し使う場合は、事前に主治医や薬剤師にご相談ください。腎臓に比較的やさしい選択肢を提案できることもあります。
風邪や胃腸炎で食事がとれないとき、いつもの薬はどうすれば?
発熱・下痢・嘔吐などで食事や水分が十分にとれない日(シックデイ)は、いつも通り薬を飲むとかえって腎臓に負担がかかる薬があります。どの薬をどうすればよいかは、あらかじめ主治医に確認しておくと安心です。判断に迷うときは、自己判断せず早めにご連絡ください。
専門医への紹介をすすめられました。悪い状態ということですか?
腎臓専門医への紹介は、腎機能の低下、尿蛋白の量、低下する速さなどを詳しく評価し、より手厚く管理するために行われます。紹介されたからといって、直ちに透析が必要という意味ではありません。当院では総合内科専門医・腎臓専門医が糖尿病と腎臓を一貫して診ています。
まとめ——いまからでも、できることがあります
腎機能が下がってきた段階でも、透析を遅らせるためにできることは数多くあります。血圧・尿蛋白・血糖を進行期に合わせて管理し、貧血やカリウムなどの合併症を整え、食事を無理なく調整し、そして急な悪化(AKI)を避ける——この一つひとつの積み重ねが、腎機能の低下をゆるやかにし、透析までの時間をできるだけ引き延ばすことにつながります。
透析を必ず回避できると保証はできませんが、「いま何をするか」で、これから先の見通しは変わりうるものです。「もう遅いのでは」とあきらめる前に、一度、今の腎臓の状態と対策を一緒に確認させてください。
透析を遅らせるために最も大切なのは、「まだできることがある時期」から始めることです。この記事を読んでいる今が、その始めどきです。
「腎機能が下がってきた」とご不安な方へ
「eGFRが下がってきた」「このままだと透析かもしれない」「進行を少しでも遅らせたい」——そうしたご相談を歓迎しています。当院では、総合内科専門医・腎臓専門医が、血糖・血圧・尿蛋白の管理から、進行期の腎保護薬・合併症の管理・急な悪化への備えまで、腎臓を専門とする視点で一人ひとりに合わせて対応します。
当院の糖尿病・腎臓の診療について参考文献
- 日本腎臓学会編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社, 2023.
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂, 2024.
- 日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2024. 文光堂, 2024.
- 糖尿病性腎症合同委員会・糖尿病性腎症病期分類改訂ワーキンググループ. 糖尿病性腎症病期分類2023の策定. 糖尿病 2023;66(11):797-805.
- Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. KDIGO 2022 Clinical Practice Guideline for Diabetes Management in Chronic Kidney Disease. Kidney Int 2022;102(5S):S1-S127.
- de Boer IH, et al. Diabetes Management in Chronic Kidney Disease: A Consensus Report by the American Diabetes Association (ADA) and Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO). Diabetes Care 2022;45(12):3075-3090. doi:10.2337/dci22-0027.
- 日本腎臓学会編. CKD診療ガイド2024. 東京医学社, 2024.
- 日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会編. 高血圧管理・治療ガイドライン2025. ライフサイエンス出版, 2025.
監修・文責:加藤 彰浩(院長)|総合内科専門医・腎臓専門医|きたはらやまクリニック(尾張旭市)
公開日:2026年8月/最終更新:2026年8月/本ページの内容は医療情報の提供を目的としており、特定の診断・治療を推奨するものではありません。掲載している目安値等は一般的なものであり、自己診断を目的としたものではありません。実際の診断・治療方針については医療機関にご相談ください。掲載内容はガイドライン等の改訂により変更されることがあります。
