糖尿病の運動療法——
まず「やっていいか」を確かめます
「運動しましょう」と言われたけれど、何をどれだけやればいいのか。そもそも自分は運動していい体なのか。検索して出てくるのは、どれも同じ「週150分」「食後に歩く」です。けれど診察室で医師が最も気を遣うのは、実はその手前にあります。このページは、その手前から始めます。
糖尿病と診断され、運動を勧められた。けれど、何から手をつければよいのか分からない——外来でよくいただくご相談です。
このページは、順番を入れ替えています。多くの記事は「週150分歩きましょう」から始まりますが、その前に確かめるべきことがあります。今のあなたが、運動を始めてよい状態かどうかです。ここを飛ばすと、まれにですが、運動が体に不利に働くことがあります。
そのうえで、何をどれだけ行えばよいかをお伝えします。後半では、週150分が難しい方、膝が痛む方、体重が減らない方、そして腎症があると言われた方の考え方を扱います。
運動はなぜ血糖を下げるのか——「その場の効果」と「48時間続く効果」
運動の効果には、性質の違う2つがあります。この違いを知っておくと、後で出てくる「週3回以上に分け、間隔を空けすぎない」という一見こまかいルールの意味が分かります。
運動している最中——筋肉が血液中の糖を使います
体を動かすと、筋肉はエネルギーとして糖を使います。このとき筋肉は、インスリンの助けをあまり借りずに血液中の糖を取り込むことができます。だから運動中から運動直後にかけて、血糖値は下がります。これが「その場の効果」です。食後に体を動かすと食後の血糖の山が低くなるのは、この仕組みによるものです。
効果は運動後24〜48時間続きます——だから「間隔」が大切です
もう一つ、見えにくいけれど重要な効果があります。運動をすると、インスリンの効きやすさが改善し、その状態が運動後24〜48時間ほど続きます1。運動をやめた瞬間に元に戻るわけではなく、しばらく余韻が残るということです。
この48時間という数字が、運動の頻度を決めています。効果が時間とともに薄れていくのなら、運動の間隔が空きすぎると、インスリンの効きやすさを保ちにくくなります。ガイドラインが週3回以上に分けること、そして運動しない日が連続して2日を超えないようにすることを勧めているのは、このためです1。
「毎日やらないと意味がない」でも「週末にまとめてやればいい」でもない。この中間に答えがあります。
運動によるインスリン感受性の改善は、およそ24〜48時間持続します。合計時間が同じでも、まとめて行うより分けて行うほうが、効果の途切れが少なくなります。
【まず確認】あなたは今、運動をしてよい状態ですか
ここが、この記事で最もお伝えしたい部分です。糖尿病の合併症の状態によっては、運動の内容を変えたほうがよい場合や、いったん相談していただいたほうがよい場合があります。ただし、それは「運動禁止」を意味しないことがほとんどです。
「必ず検査が必要」ではありません
運動を始める前に心臓の検査が必要か、というご質問をよくいただきます。結論から申し上げると、多くの方は不要です。
ガイドラインでは、自覚症状がなく、行う運動が軽度から中等度の強度、つまり速歩など日常生活活動の範囲内であれば、運動負荷試験は不要とされています1。散歩を始めるために検査を受ける必要はありません。
一方で、スクリーニングを考えたほうがよい方もいます。高い強度の運動を行う場合、心血管のリスクが高い方、そして現在ほとんど座って過ごしている方が、中等度以上の運動を新たに始める場合です1。最後の条件に心当たりのある方は、始める前に一度ご相談ください。
いったん立ち止まって、相談したほうがよい状態
次のような状態のときは、運動を控えるか、内容を制限したほうがよいとされています2。
血糖値が極端に高いときに運動すると、かえって血糖値が上がることがあります。体が「エネルギーが足りない」と判断して、肝臓から糖を放出してしまうためです。ここは直感に反する部分なので、覚えておいていただければと思います。
強さや種類を調整すれば、続けられる状態
上のリストに挙がっていても、多くは「全面禁止」ではなく「調整して行う」領域です。何を避け、代わりに何ができるのかを、状態ごとに整理します。
| 状態 | 避けたい動作 | 代わりにできること |
|---|---|---|
| 網膜症 前増殖以上 |
激しい有酸素運動、ジャンプ、体に衝撃が加わる動作、頭を下げる姿勢、いきむ動作1 | 平地でのウォーキング、軽い負荷での筋力トレーニング(息を止めない)。眼科での評価が先です |
| 末梢神経障害 足の感覚が鈍い |
裸足での運動、合わない靴での長距離歩行。開放性の潰瘍があるときは荷重を制限1 | 適切な靴を使えば、中程度のウォーキングは足潰瘍のリスクを上げないと報告されています1。毎日の足の観察とセットで |
| 骨・関節疾患 膝痛・腰痛 |
痛みのある関節に強い負荷がかかる動作 | 柔軟運動、負担をかけすぎない範囲での筋力トレーニング。整形外科との連携が前提です1 |
| 自律神経障害 | 急に立ち上がる動作、急に運動をやめること | 準備運動と整理運動をしっかり。脈拍で強度を決められないため、後述の別の目安を使います |
| 心血管疾患 | 高強度の運動を自己判断で始めること | 強度と種類を主治医と決めたうえで実施。症状がなく速歩程度であれば、通常は負荷試験不要です1 |
| 腎症 | —— | 病期により考え方が変わります。後述の専用セクションをご覧ください |
なぜ「禁止リスト」だけでは判断できないのか
ここで、少し踏み込んだ話をします。
運動を控えるべき状態の一覧は、診療の現場で広く使われている実用的なものです2。ただし一覧である以上、どうしても大づかみになります。たとえば腎臓については「腎不全」の一語しか書かれていません。この一語だけでは、どの程度の腎機能低下を想定しているのかが分からず、運動の可否を一律には判断できません。
一方、糖尿病診療ガイドライン2024は、同じ話題を病態ごとに、より細かい粒度で記述しています1。当院は、後者の考え方を採ります。一覧は入口の目安であって、実際の判断は一人ひとりの状態を見て決めるものだからです。
ウェブ上に古い情報が残っている領域です
「先に相談」に当てはまる場合も、運動が一律に禁じられるわけではありません。原因や病状によっては、治療が落ち着いた段階で再開できることがあります。
何を、どれだけ——有酸素運動と筋力トレーニング
運動療法は2本立てです。歩くこと(有酸素運動)と、筋肉に負荷をかけること(レジスタンス運動)。この2つは効き方が違い、組み合わせると上乗せの効果が期待できます。
有酸素運動——週150分を目標に、週3回以上へ分ける
ガイドラインが示している目安は次のとおりです1。
中等度の強度で、週150分以上。週に3回以上に分けて、運動をしない日が連続して2日を超えないように。
週150分は、1回30分を週5回でも、1回50分を週3回でも構いません。「週150分」の感覚がつかみにくい方は、1回30分を週5日、あるいは1回50分を週3日、とお考えいただくとイメージしやすいと思います。
なお、これとは別に、日常生活を含めた1日の歩数という長期的な目安もあります。はじめから1日8,000歩を目指す必要はなく、まずは今の歩数に1日2,000歩を上乗せするところから始め、最終的に1日8,000歩程度を目安にする、という進め方が現実的です1。こちらは「運動」の時間とは別に、買い物や通勤なども含めた1日の合計歩数の話です。
「週150分は無理」という方へ——30分でも意味があります
ここは、多くの記事が書いていない部分です。
週150分という数字を見て、「とても無理だ」と感じて何も始めないまま終わってしまう。これが最も惜しいパターンです。しかし近年のメタ解析では、従来推奨されてきた週150分よりも少ない運動量でも効果が示されています。2型糖尿病の方を対象に、12週間以上の監視下での有酸素運動を検討したメタ解析では、週30分増えるごとにHbA1cが平均0.22ポイント低下し、週100分付近で低下効果が最大になったと報告されています1,4。
つまり週30分は「150分の5分の1の価値」ではなく、それ自体に確かな意味があります。1回10分を週3回。ここから始めていただいて構いません。
筋力トレーニング——週2〜3回、連続しない日に
歩くだけでは足りません。筋肉に負荷をかける運動も、血糖管理に有効です2。目安は次のとおりです1。
週2〜3回。連続しない日程で。5種類以上の種目を、1種目につき1〜3セット。10〜15回繰り返せる程度の負荷から始め、慣れてきたら8〜12回で限界がくる負荷へ。
ジムに通う必要はありません。スクワット、かかと上げ、椅子からの立ち上がり、壁を使った腕立て。自宅でできる種目で十分です。有酸素運動と組み合わせると、それぞれ単独よりも効果が上乗せされることが報告されています2。
高齢の方こそ筋トレを——筋肉が落ちやすいという事実
高齢の糖尿病患者さんでは、糖尿病のない方に比べて筋肉量が低下しやすいことが知られています1。筋肉が減ると、糖を受け止める場所そのものが減るため、血糖管理の面でも不利になります。さらに、転びやすくなり、骨折から生活の質が大きく下がることもあります。
筋力トレーニングにバランス運動を組み合わせると、転倒のリスクを軽減できるとされています1。「年をとったから激しいことは無理」ではなく、年齢を重ねた方ほど、歩くことに加えて筋肉を使う運動の価値が上がります。
3つとも「週3回以上」「運動しない日が連続して2日を超えない」という条件を満たしています。合計時間は違っても、この骨格は共通です。
どのくらいの強さで、いつ動くか
「中等度の強度」と言われても、体感としては分かりにくいものです。ここでは、実際に使える目安をお伝えします。あわせて、脈拍が目安として使えない方がいるという、あまり知られていない点にも触れます。
「ややきつい」が目安——会話でわかります
中等度の強度とは、最大酸素摂取量のおよそ40〜60%にあたります1。ただし、これは測定しなければ分からない数値です。実際には、次の2つを使います。
ひとつは自覚的な運動強度です。「楽である」から「ややきつい」と感じるあたりが目安とされています。幅があるので、始めるときは「楽である」〜「やや楽である」から入り、慣れてきたら「ややきつい」まで検討するとよいでしょう1。もうひとつは脈拍です。50歳未満なら1分間に100〜120拍、50歳以上なら100拍未満が目安とされています1。
日常的にはもっと簡単な方法があります。歩きながら会話ができるが、歌うのは難しい。この状態が、おおむね中等度にあたります。
降圧薬を飲んでいる方は、脈拍で判断できないことがあります
ここは、当院の患者さんに特に知っておいていただきたい点です。
ガイドラインには、自律神経障害を伴う場合、高齢の方、そして降圧薬のうちβ遮断薬を内服している場合には、脈拍数で運動強度を決めることが難しいと明記されています1。β遮断薬は脈拍が上がるのを抑える薬なので、体は十分に働いていても、脈は思ったほど上がりません。この状態で「脈が100に届かないからまだ足りない」と考えて強度を上げると、実際には過剰な負荷になります。
高血圧を合併している糖尿病の方は少なくありません。該当する方は、脈ではなく「ややきつい」という感覚と、会話ができるかどうかで判断してください。
| 目安 | 中等度の状態 | 使えない場合 |
|---|---|---|
| 自覚 | 「楽である」〜「ややきつい」1 開始時は「楽である」寄りから |
特になし。最も汎用的な目安です |
| 会話 | 話せるが、歌うのは難しい | 特になし。屋外で使いやすい方法です |
| 脈拍 | 50歳未満:100〜120拍/分 50歳以上:100拍/分未満1 |
要注意 β遮断薬の内服中、自律神経障害がある場合、高齢の方では判断が難しくなります1 |
| 歩数 | まず1日+2,000歩、最終的に1日8,000歩程度1 | 強度は分かりません。量の目安としてお使いください |
食後に動くと、血糖の山が低くなります
運動する時間帯についてです。食後に体を動かすと、食後の高血糖が改善します1。食事のあと、血糖値が上がってくる時間帯に筋肉が糖を使ってくれるためです。
また、インスリン、SU薬、グリニド薬を使用している方では、空腹時の運動が低血糖につながることがあるため、食後のほうが安全という理由もあります1。詳しくは薬と運動のセクションで扱います。
ただし、時間帯にこだわりすぎて運動そのものができなくなるのでは本末転倒です。続けられる時間帯を優先していただいて構いません。
続かない3つの理由——「時間がない」「膝が痛い」「体重が減らない」
運動が続かない理由は、意志の強さの問題であることはまれです。多くは、方法がその方の生活や体に合っていないだけです。外来でよくうかがう3つに、お答えします。
時間がない方へ——座っている時間を30分で区切る
まとまった運動時間が取れない。これは最も多いご相談です。
この場合、運動時間を確保しようとするより、座っている時間を減らすほうが現実的なことがあります。ガイドラインでも、座っている状態が30分以上続かないように中断することが勧められています1,2。
具体的には、30分ごとに立ち上がって数分歩く、あるいはその場でかかと上げをする。デスクワークの方であれば、コピーを取りに行く、階段を使う、電話を立って受ける。こうした細切れの動きの積み重ねにも、食後の血糖やインスリンの効きを改善する効果が報告されています1。
「運動の時間が取れないから何もできない」ではなく、座り続けないこと自体が、すでに対策になっています。
膝・腰に不安がある方へ
ウォーキングが標準とされているために、膝が痛む方は「自分には運動療法は無理だ」と考えてしまいがちです。しかし、歩く以外にも方法はあります。
ガイドラインでは、骨や関節の疾患がある場合には、整形外科と連携しながら、柔軟運動や、その関節に負担をかけすぎない範囲での筋力トレーニングなど、適度な運動を行うこととされています1。
膝に負担をかけにくい運動の例
- 椅子に座ったままのかかと上げ・つま先上げ——ふくらはぎと前脛骨筋を使います
- 座ったままのもも上げ——太ももの前側を使います
- 椅子からの立ち上がり——手すりや机に手を添えて。回数を少なくから
- 水中歩行——浮力で膝への負担が大きく減ります
- 自転車こぎ——サドルの高さを合わせると膝の負担が変わります
足にトラブルがある方へ——靴と、毎日の観察
足の感覚が鈍くなっている方(末梢神経障害)は、傷ができても気づきにくいため、慎重になるのは当然です。ただし、これも「歩いてはいけない」ではありません。
中程度の強度のウォーキングは、適切な靴を使用していれば、末梢神経障害のある方の足潰瘍のリスクを上昇させないと報告されています1。条件は2つ、足に合った靴を履くことと、毎日足を観察することです。ただし、すでに開放性の潰瘍がある場合は、その部位への荷重を制限する必要があります1。この場合は、必ず受診してご相談ください。
体重が減らない方へ——減量では食事の影響が大きい
「毎日歩いているのに、体重が減らない。意味がないのでは」——これも、よくうかがうお話です。
お伝えしたいのは、体重が減らないことと、運動が効いていないことは別だということです。運動療法の効果を検討したメタ解析では、体重には有意な減少が認められなかった一方で、HbA1cは対照群と比べて有意に改善(差−0.66ポイント)したと報告されています1,3。
これは矛盾ではありません。運動には、筋肉が糖を取り込みやすくする働き——インスリンの効きを良くする作用——があり、これは体重の増減とは別の経路で起こるからです。
では減量したい場合はどうするか。減量では食事調整の影響が大きく、運動との組み合わせが基本になります。運動は、減った体重を戻りにくくすることと、インスリンの効きを良くすることが得意分野だとお考えください。エネルギー設定や具体的な減量目標については、糖尿病の食事療法ガイドで扱っています。
糖尿病で「腎臓が悪い」と言われた方の運動
糖尿病の合併症として腎症を指摘されている方、あるいは糖尿病の経過中に腎機能の低下を指摘された方に向けたセクションです。かつては腎臓病があると安静が勧められていましたが、現在の考え方は変わっています。
通常の運動後に尿たんぱくが一時的に増えても、それだけで腎症の進行を意味するわけではありません
運動をした日に、尿の泡立ちが増えた気がする。この心配は、実はよくあるものです。そしてこの現象自体は、以前から知られています。
糖尿病診療ガイドライン2024には、微量アルブミン尿がある方では運動後に一時的に尿たんぱく量が増える可能性があるが、腎症の進行には影響しないと考えられていると記載されています。さらに、ある程度の身体活動が、腎症の発症や進行に抑制的に働く可能性も示唆されているとも記されています1。
つまり、運動後の一時的な変化をもって「腎臓を傷めてしまった」と考える必要はありません。ただし、泡立ちが運動と関係なく続いている場合は意味が異なります。その場合は検査をおすすめします。なお、尿の泡立ちだけで尿たんぱくの有無や量を判断することはできません。確認できるのは検査だけです。
ただし「腎症があれば自由に運動してよい」ではありません
誤解を避けるために、はっきりお伝えします。「腎臓が悪くても運動は問題ない」と単純化することはできません。
同じガイドラインは、顕性アルブミン尿期以降の段階について、こう記しています。運動は身体機能や生活の質を改善しうるため、基本的に身体活動を高めるような指導が勧められるが、症例ごとの検討が必要である1。前半だけを取り出せば「運動してよい」に読めますが、後半が同じくらい重要です。
また、eGFRが45未満で中等度以上の腎症がある段階では、塩分・カリウム・たんぱく質の調整とあわせて、重労働を避けるという指導も行われます2。これは「運動を勧める」ことと矛盾しません。日常的な運動と、体に大きな負担のかかる重労働は別のものだからです。ここが混同されやすい部分です。
病期・たんぱく尿・血圧で判断が変わります
では、何によって判断が変わるのか。主に次の3つです。
腎症の病期——現在は尿アルブミン(または尿蛋白)とeGFRの組み合わせで区分されます5。たんぱく尿の程度——量が多いほど慎重な検討が必要になります。そして血圧のコントロール状況——血圧が高いまま強い運動を行うのは望ましくありません。
これらは検査結果を見なければ判断できず、ページ上で一律にお答えできる性質のものではありません。腎機能の低下を指摘されている方は、運動を始める前に一度ご相談ください。そのうえで、内容と強度を一緒に決めるのが最も安全です。
糖尿病性腎症とは原因・病期・進行を防ぐ治療の全体像はこちら 糖尿病で透析を遅らせるには腎機能を長く保つための治療と生活の全体像 腎臓病と運動——腎臓リハビリテーションの考え方準備中糖尿病以外が原因の腎臓病の方、腎機能の段階ごとの運動の考え方を扱う予定ですお薬を使っている方が注意すること
薬の種類によって、運動時に気をつけていただきたいことが変わります。ただし、注意が必要なのは一部の薬に限られます。
インスリン・SU薬・グリニド薬——運動中と、その後の低血糖
インスリン、SU薬(スルホニル尿素薬)、グリニド薬(速効型インスリン分泌促進薬)など、低血糖を起こしうる薬を使用している方では、運動によって低血糖が起こることがあります。特に空腹時の運動には注意が必要です1。食後に運動していただくほうが安全なのは、このためです。
もう一点、知っておいていただきたいことがあります。運動による血糖を下げる作用は、48時間程度続きます1。つまり、低血糖は運動中だけでなく、その日の夜間や翌日に起こることもあるということです。普段より長く歩いた日、久しぶりに体を動かした日は、その後もしばらく注意してください。
ブドウ糖を携帯し、低血糖のサインをあらかじめ確認しておくことをおすすめします。運動量を大きく増やす予定がある場合は、薬の調整が必要になることもありますので、事前にご相談ください。低血糖の具体的な症状と対処法については、低血糖の症状と対処法で詳しく扱っています。
SGLT2阻害薬——汗をかく運動と脱水
SGLT2阻害薬は、尿から糖を排出させる薬です。その性質上、尿量が増えやすく、脱水に注意が必要とされています2。
ここに運動が加わると、発汗による水分の喪失が上乗せされます。特に夏場や、長時間の運動では、意識的な水分補給が必要です。喉の渇きを感じる前に、こまめに摂っていただくのが基本です。利尿薬を併用されている方は、さらに注意してください2。
なお、発熱や下痢、食事が十分に摂れないときは、SGLT2阻害薬を休薬するよう説明されているはずです2。その状態は、運動も控えていただく状況にあたります。
それ以外の薬について
上記以外の糖尿病治療薬は、単独では低血糖を起こしにくいものが多く、薬を理由に運動を控える必要は基本的にありません。ただし、併用している薬やその日の体調によって判断が変わることはあります。それぞれの薬の詳しい働きについては、糖尿病治療薬まるわかりガイドをご覧ください。
また、糖尿病の薬ではありませんが、降圧薬のうちβ遮断薬については、運動強度の判断に影響します。強さと時間帯のセクションで扱ったとおり、脈拍を目安にできなくなる点にご注意ください1。
よくあるご質問
運動療法でつまずく方の多くは、意志が弱いのではなく、自分の体に合った形にたどり着いていないだけです。合併症の状態、飲んでいる薬、膝や腰の具合、生活のリズム。それらを踏まえれば、たいていの方に、続けられる形が見つかります。何から始めればよいか迷われたら、検査結果をお持ちのうえ、一度ご相談ください。
このような方は、一度ご相談ください
- ✓ 運動を勧められたが、始めてよい状態か分からない
- ✓ 腎機能の低下や尿たんぱくを指摘されている
- ✓ 膝や腰が痛く、ウォーキングが続けられない
- ✓ 低血糖を起こしうる薬(インスリン・SU薬・グリニド薬)を使っている
- ✓ 運動しているのに、数値が思うように変わらない
当院では、合併症の状態と腎機能を確認したうえで、その方に合った運動の内容と強度を一緒に決めます。健診の結果票やお薬手帳をお持ちください。
👉 診療予約はこちら参考文献
- 日本糖尿病学会 編著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂. 2024.(第4章 運動療法)
- 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会 糖尿病標準診療マニュアル作成委員会. 糖尿病標準診療マニュアル2026(一般診療所・クリニック向け)第22版. 2026.
- Boulé NG, Haddad E, Kenny GP, et al. Effects of exercise on glycemic control and body mass in type 2 diabetes mellitus: a meta-analysis of controlled clinical trials. JAMA. 2001;286(10):1218–1227.
- Jayedi A, Emadi A, Shab-Bidar S. Dose-Dependent Effect of Supervised Aerobic Exercise on HbA1c in Patients with Type 2 Diabetes: A Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Sports Med. 2022;52(8):1919–1938. doi:10.1007/s40279-022-01673-4
- 糖尿病性腎症合同委員会・糖尿病性腎症病期分類改訂ワーキンググループ. 糖尿病性腎症病期分類2023の策定. 日本腎臓学会誌. 2023;65(7):847–856.
監修・文責:加藤 彰浩(院長)|総合内科専門医・腎臓専門医|きたはらやまクリニック(尾張旭市)
公開日:2026年10月/最終更新:2026年10月/本ページの内容は医療情報の提供を目的としており、特定の診断・治療を推奨するものではありません。実際の治療方針については担当医にご相談ください。掲載内容はガイドラインの改訂により変更されることがあります。
