マンジャロ(チルゼパチド)とは
2型糖尿病の治療薬としての正しい理解
GIPとGLP-1、2つのホルモンに働く週1回の注射薬。どんなしくみで血糖を下げるのか、どんな副作用に注意すべきか、そして腎臓が気になる方はどう考えればよいのか——保険診療の枠組みのなかで整理しました。
マンジャロは「2型糖尿病の治療薬」です
最初に、いちばん誤解の多い点をはっきりさせておきます。マンジャロの効能・効果として国内で承認されているのは2型糖尿病であり、それ以外の目的での使用は、承認された範囲を超えた「適応外使用」にあたります。
保険診療で使えるのは、2型糖尿病と診断された方
健康保険を使ってマンジャロの処方を受けられるのは、診察と血液検査(血糖値・HbA1cなど)によって2型糖尿病と診断された方に限られます。さらに添付文書では、「食事療法・運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り考慮する」と定められています。つまり、生活習慣の見直しを飛ばして最初に選ぶ薬ではありません。
体重が気になるという理由だけで、あるいはBMIが高いという理由だけで保険が適用されることはありません。逆にいえば、2型糖尿病の治療という医学的な目的があってはじめて、この薬の利益と不利益を天秤にかける議論が成り立ちます。
同じ成分でも「ゼップバウンド」は別の薬です
チルゼパチドという同じ有効成分を用いた薬に、肥満症の治療薬として承認されている別の販売名の製剤(ゼップバウンド)があります。成分は同じでも承認されている病気・使用の条件が異なる別の薬で、こちらも一定の医学的条件を満たす場合の治療薬です。
当院の方針と、個人輸入の危険性
当院は保険診療を行う内科・腎臓内科のクリニックです。美容・痩身を目的とした適応外の処方は行っておりません。これは、日本糖尿病学会が美容・痩身目的の適応外使用に注意を促し、国内の承認状況に基づいた適正な処方を求めている見解とも一致する立場です。
また、インターネットを通じた個人輸入には強く注意が必要です。品質や安全性が保証されず、偽造品が流通するおそれがあることが行政からも注意喚起されており、健康被害が生じた場合も医薬品副作用被害救済制度の対象外となります。後述するとおり、この薬は低血糖・急性膵炎・脱水など、医師の管理があってはじめて安全に使える注意点をもつ薬です。
GIPとGLP-1——2つのホルモンに働く注射薬
食事をとると、腸から「インクレチン」と呼ばれるホルモンが分泌され、膵臓にインスリンを出すよう促します。このインクレチンには主にGIPとGLP-1の2種類があり、マンジャロはその両方の受容体に働くという特徴をもっています。
血糖が高いときに合わせて働く——単独では低血糖を起こしにくい
マンジャロの重要な性質のひとつが、ブドウ糖の濃度に応じてインスリン分泌を促すという点です。血糖が高いときにはしっかり働き、血糖が下がってくると働きが弱まるため、この薬単独では低血糖が起こりにくいと考えられています。
とくにスルホニル尿素(SU)薬やインスリン製剤と併用する場合には低血糖のリスクが高まるため、併用薬をあらかじめ減量するなどの調整を検討します。低血糖の症状と対処法は、開始前に必ず確認しておきましょう。
週1回、同じ曜日に
チルゼパチドは血液中のアルブミンと結合することで長く作用が続き、半減期はおよそ5日間です。このため週1回の投与で効果が保たれます。毎日の注射が必要なインスリンとは、目的も使い方も異なる薬です。
血糖・体重・心血管——臨床試験からわかっていること
ここでは、承認の根拠となった臨床試験や、その後に報告された大規模試験の結果を、事実として整理します。個々の患者さんで同じ結果が得られることを保証するものではありません。
血糖(HbA1c)への効果
食事・運動療法だけでは血糖コントロールが不十分な2型糖尿病の方を対象とした国際共同第III相試験では、マンジャロを40週間投与した群のHbA1cは、プラセボ(偽薬)群と比べて有意に低下しました。日本人を含む国内の試験や、経口血糖降下薬に追加した試験でも、HbA1cの低下が報告されています。
なお添付文書では、3〜4か月投与しても効果が不十分な場合には、より適切と考えられる治療への変更を考慮するよう定められています。「使い続ければいつか効く」という薬ではなく、定期的に効果を確かめながら使う薬です。
体重の変化も、適応と安全性を確認しながら評価します
臨床試験では、用量に応じて体重が減少する傾向が報告されています。2型糖尿病に過体重・肥満をともなう場合、適正な体重減少は治療上望ましい変化のひとつです。一方で、マンジャロの承認された効能・効果は2型糖尿病であり、体重減少だけを目的として保険診療で使用する薬ではありません。
また、体重は「減れば減るほどよい」というものでもありません。この点は添付文書にも明記されています。マンジャロには「用量依存的な体重減少が認められるため、血糖コントロールだけでなく体重減少にも注意し、増量の必要性を慎重に判断すること」「過度の体重減少がみられた場合は減量または中止を考慮すること」という注意が置かれています。さらに、開始時のBMIが23kg/m²未満の方における有効性・安全性は検討されていません。そのため、体重減少の程度だけでなく、筋肉量や栄養状態も含めて注意深く確認する必要があります。
心血管アウトカム試験でわかっていること
2025年に報告された大規模試験(SURPASS-CVOT)では、2型糖尿病があり動脈硬化性の心血管疾患を有する方を対象に、チルゼパチドと既存のGLP-1受容体作動薬(デュラグルチド)が直接比較されました。主要評価項目である心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合イベントについて、非劣性(劣っていないこと)が示されています。
腎臓に関する項目は事前に規定された探索的解析として、総死亡は副次評価項目として報告されています。いずれも主要評価項目の結果とは位置づけが異なり、チルゼパチドの優越性を確定する結果として解釈することはできません。
腎臓が気になる方が、知っておきたいこと
当院は腎臓内科を専門とするクリニックです。ここでは、他ではあまり詳しく触れられない「腎機能とマンジャロ」の関係を整理します。なお以下は一般的な情報提供であり、実際に使用できるかどうかの判断は、必ず担当医が個別に行います。
腎機能が低下していても、用量調節は必要ないとされている
チルゼパチドは、腎臓から未変化のまま排泄される薬ではなく、体内で一般的なタンパク質と同じ経路で分解されます。腎機能が正常な方、軽度〜重度の腎機能障害がある方、さらに血液透析を受けている方を対象とした薬物動態試験でも、血中濃度に大きな差は認められませんでした。このため、腎機能に応じた用量の調節は必要ないとされています。
腎機能が下がると使える薬が限られていくなかで、これは実際の診療において意味のある性質です。ただし「腎機能が悪くても安心して使える」という意味ではなく、次に述べる注意点のほうがむしろ重要になります。
いちばん注意すべきは、脱水による急性腎障害
添付文書には、「下痢、嘔吐から脱水を続発し、急性腎障害に至るおそれがある」という注意が明記されています。マンジャロで比較的多くみられる消化器症状が、そのまま腎臓へのダメージにつながりうるということです。
とくに、利尿薬・RAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)・SGLT2阻害薬・NSAIDs(痛み止め)などを併用している方では、脱水が腎機能に与える影響が大きくなります。腎臓の予備能が下がっている方であればなおさらです。
糖尿病性腎臓病における位置づけ
糖尿病による腎臓病の治療では、患者さんの病態に応じて、作用のしくみが異なる薬を重ね合わせる考え方が重視されています。その中心となるのがRAS阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、フィネレノンです。ただし、すべての方に4種類すべてを使うという意味ではありません。
このうち、腎臓を守ることそのものを主要な評価項目として検証されてきたのは、主にSGLT2阻害薬・RAS阻害薬・フィネレノン、そして一部のGLP-1受容体作動薬です。マンジャロについては、腎アウトカムを主要評価項目とした検証はまだ途上にあります。したがって現時点では、「血糖と体重を含む代謝全体を整える薬」として位置づけ、腎保護が主目的の薬とは役割を分けて考えるのが妥当です。
実際の診療では、この薬を単独で考えることはほとんどありません。尿たんぱく(尿アルブミン)が出ているか、eGFRがどう推移しているか、心臓の状態はどうか——それらを踏まえて、複数の薬をどう組み合わせるかを設計していきます。
▼ 「腎臓を守る薬」を詳しく
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マンジャロは、最初から効果の高い量で始める薬ではありません。体を慣らしながら、少しずつ量を調整していきます。
つらいときは、無理に増やさない
添付文書には、胃腸症状などで体が慣れない場合には減量や増量の先送りを考慮すると記載されています。増量のスケジュールは絶対的なものではありません。「予定どおり増やせないのは失敗」ではなく、その方に合った量を探している過程だとお考えください。遠慮なく症状をお伝えいただくことが、結果的に治療を続けやすくします。
打ち忘れたときの考え方
| 状況 | どうするか |
|---|---|
| 次の予定日まで3日(72時間)以上ある | 気づいた時点で打ち、その後は元の曜日に戻す |
| 次の予定日まで3日未満 | その回は飛ばして、次の予定日に打つ |
| 打つ曜日を変えたい | 前回の注射から少なくとも3日以上あける |
注射する場所と、保管のしかた
注射はおなか・太もも・二の腕の皮下に行い、同じ範囲のなかでも毎回場所を変えます。静脈内や筋肉内には注射しません。
保管は凍結を避け、2〜8℃で遮光が基本です。凍ってしまったものは使用しないでください。持ち歩きなどで室温に置く場合は、30℃を超えない場所で外箱に入れたまま保管し、21日以内に使い切ります。
知っておいていただきたい副作用と注意点
効果と同じだけ、あるいはそれ以上に大切なのが、この項目です。すべてを覚える必要はありませんが、「どんなときに連絡すべきか」だけは押さえておいてください。
最も多いのは消化器症状
臨床試験で頻度が高かった副作用は、吐き気・嘔吐・下痢・便秘・腹痛・消化不良・食欲の低下といった消化器症状です。開始時や増量した直後に出やすく、多くは軽度から中等度で、続けるうちに落ち着いていくことが多いとされています。
食事を少量ずつゆっくりとる、脂っこいものを控える、水分をこまめにとるといった工夫で楽になることもあります。それでもつらい場合は、量の調整を検討しますのでご相談ください。
頻度は低いものの、重要な副作用
| 副作用 | 気をつけるサイン |
|---|---|
| 急性膵炎 | 嘔吐をともなう、持続する激しい腹痛。診断された場合、この薬の再開は行いません。 |
| 胆のう炎・胆管炎・胆汁うっ滞性黄疸 | 腹痛、発熱、皮膚や白目が黄色くなる。 |
| イレウス(腸閉塞) | 強い便秘、おなかの張り、持続する腹痛、嘔吐。 |
| 低血糖 | 脱力感、強い空腹感、冷や汗、動悸、手のふるえ、めまいなど。SU薬・インスリン併用時は要注意。 |
| アナフィラキシー・血管性浮腫 | じんましん、顔やのどの腫れ、息苦しさ。 |
このほか、心拍数の増加、血圧の低下、注射部位の反応(赤み・かゆみ・痛み・腫れ)などが報告されています。また、血糖が急速に改善する過程で糖尿病網膜症が悪化することがあるため、眼科での定期的な確認が大切です。
使えない方・慎重に判断が必要な方
・1型糖尿病、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡または前昏睡の方
・重症感染症、手術などの緊急時
・重い胃腸の障害がある方
・腹部手術やイレウスの既往がある方
・増殖糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫などがある方
・高齢の方(体重の変化に注意)
妊娠を希望される場合や、妊娠の可能性がある方は必ずご相談ください。この薬の投与中および最終投与後1か月間は避妊が必要とされています。
手術・内視鏡・全身麻酔の予定があるとき
見落とされがちですが、実際の診療でとても重要な項目です。マンジャロには胃の内容物が出ていくのを遅らせる作用があるため、全身麻酔や深い鎮静をかける際に、絶食の指示を守っていても胃の内容物が残り、誤嚥が生じた例が報告されています。
併用に注意が必要な薬
| 薬の種類 | 注意点 |
|---|---|
| SU薬・グリニド薬・インスリン | 低血糖のリスクが高まります。併用時はこれらの減量を検討します。 |
| DPP-4阻害薬 | 作用の経路が重なるため、併用時の有効性・安全性は確認されていません。切り替えを含めて検討します。 |
| 経口避妊薬 | 開始初期や増量直後に、効果が弱まるおそれがあります。 |
| ワルファリンなど | 効きめの幅が狭い飲み薬は、吸収のタイミングが変わる可能性があり、慎重な観察が必要です。 |
他の医療機関・薬局を利用される際は、お薬手帳などでマンジャロを使用中であることを必ずお伝えください。
マンジャロについて、よくいただくご質問
マンジャロは、正しい適応のもとで使えば、2型糖尿病の治療において確かな選択肢のひとつとなる薬です。一方で、注意すべき点も少なくありません。「自分に合っているだろうか」と迷われたときは、どうぞお気軽にご相談ください。
このような方は、一度ご相談ください
- ✓ 健診で「HbA1cが高い」と言われた
- ✓ 糖尿病と診断され、これからの治療を相談したい
- ✓ 血糖だけでなく、腎臓の数値も気になっている
- ✓ 今の治療のままでよいのか、ほかの選択肢も知りたい
- ✓ 注射薬を使っていて、副作用が心配
当院では、血糖の値だけでなく腎機能・合併症・併用薬・生活背景まで含めて確認したうえで、お一人おひとりに合った治療をご提案しています。
👉 診療予約はこちら参考文献
- マンジャロ皮下注アテオス 電子添文(2026年5月改訂・第10版). 日本イーライリリー株式会社.
- 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療ガイド2024. 文光堂. 2024.
- 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂. 2024.
- 日本糖尿病学会 コンセンサスステートメント策定に関する委員会. 2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版). 糖尿病. 2023;66(10):715–733.
- 日本糖尿病学会. GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解. 2020年7月9日掲載/2023年11月28日改訂.
- 厚生労働省. 医薬品等を海外から購入しようとされる方へ.
- Rosenstock J, Wysham C, Frías JP, et al. Efficacy and safety of a novel dual GIP and GLP-1 receptor agonist tirzepatide in patients with type 2 diabetes (SURPASS-1): a double-blind, randomised, phase 3 trial. Lancet. 2021;398(10295):143–155.
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- Zoungas S, D’Alessio D, Pavo I, et al. A comparison of the effects of tirzepatide and dulaglutide on major kidney events in people with type 2 diabetes: pre-specified exploratory analyses of the SURPASS-CVOT trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2026;14(7):544–557.
- KDIGO 2022 Clinical Practice Guideline for Diabetes Management in Chronic Kidney Disease. Kidney Int. 2022;102(5S):S1–S127.
監修・文責:加藤 彰浩(院長)|総合内科専門医・腎臓専門医|きたはらやまクリニック(尾張旭市)
公開日:2026年9月/最終更新:2026年9月/本ページの内容は医療情報の提供を目的としており、特定の診断・治療を推奨するものではありません。実際の治療方針については担当医にご相談ください。掲載内容は添付文書・ガイドラインの改訂により変更されることがあります。
